誰よりもプロの舞台に立った1年、WEリーグでの自信を携えワールドカップへ

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世界一となった2018年大会から4年、再び世界の頂点を目指し、サッカーU-20日本女子代表は、FIFA U-20女子ワールドカップコスタリカ2022に臨む。なでしこジャパンがFIFA女子ワールドカップで優勝した2011年にはまだ、彼女たちはテレビの前で目を輝かせる少女だった。あれから11年が経ち、大人になった選手たちは、前回大会の中止、WEリーグでの1年目、追い越すべきなでしこジャパンという存在など、それぞれの思いと向き合いながらコスタリカの舞台に上がる。まっすぐな眼差しで戦う彼女たちの、大会へ向けた思いを連載で綴る。

課題と危機感のWEリーグ1年目

インタビューに集められた3人は、はじめに自分たちの共通点を尋ねられた。一様に答えが思い浮かばない吉田莉胡(ちふれASエルフェン埼玉)、山本柚月、藤野あおば(ともに日テレ・東京ヴェルディベレーザ)の3選手は、首をかしげて目を見合わせる。

2021年9月に開幕したWEリーグはその1年目を終了し、INAC神戸レオネッサの優勝で幕を閉じた。オリジナルとなった11のチームで繰り広げられた戦いは、試合結果以外にも新たな経験と気づきをもたらす機会となり、迎える2年目に向けて各チームにとっての確かな足場となったに違いない。得難い経験を与えられたのは、ピッチに立つ選手も同じだろう。とりわけ冒頭の3人は、このU-20日本女子代表チームにおいてより多くの物を手にしたはずだ。吉田が1,636分、山本が769分、藤野が723分。これはそれぞれが1年目のシーズンで積み上げた出場時間で、今回のチームの中でトップ3となる数字だ。そしてこれがすなわち、呼び集められた理由である。

なるほどな、という表情を浮かべながら、インタビューは始まった。

「コンスタントに出場機会をもらえて、色々と経験を積むことのできた1年になりました。ただ攻撃的なポジションで出場していて、得点が4というのは少ない。もっと貪欲にゴールを狙っていかないと」

全20試合のうち、実に18試合で先発に名を連ねた吉田は、手応えを得ながらも自身が残した結果に満足することはない。そこにはチームの結果も影響するだろう。開幕から7試合勝ち星がなく、最終的に最下位となったチームの中で「勝つために責任や自覚を持って、自分が中心だという気持ちでプレーしなければ」と、語る表情はいつになく硬い。

課題を多く感じたのは残る2人も同様だ。シーズン中に特別指定選手から正式加入となった藤野は「判断スピードが違うし、一つひとつのプレーの成功率、シュートの決定率がより必要になった」と、高校とプロのレベルの違いに当初は戸惑った。山本は「ボールロストの多さは自分の課題」と顧みながら、「試合を決定づけるプレーが求められる時間帯に出場のチャンスをもらっていたなかで、それを活かしきれなかった」と悔しさを滲ませる。日本女子サッカーのトップカテゴリーに身を置いてまだ1、2年という3人だが、「チャンスをもらえている時に求められている結果を出さないと」と語る藤野の目は、プロの世界が常に危機感と隣合わせであることを物語っている。

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U-20代表につながる得た手応え

挙げるものの多くが課題とはいえ、試合に出るからこそ得られる手応えも感じている。

「WEリーグの後半戦に自分の出場機会が増えた中で、どのように試合に向けて準備していくか、その大切さを学ぶことができた。ボールを持った時に自分のプレーを出したり、自信を持ってプレーできるようになってきたのは成長した部分だと思います」

山本はシーズンの後半戦、飛躍的に出場時間を延ばした。第13節に初先発のチャンスを得ると、その期待にいきなりゴールで応える。ペナルティエリア内右側で植木理子選手からのパスを呼び込むと、そのボールを右足のダイレクトで振り抜き、逆サイドネットへ突き刺した。続く第14節でも先発出場でゴールをマークし、以降最終節まで先発起用が続いた。前線の選手の負傷離脱が背景にあると本人は謙遜するが、試合出場を通して成長を得たからこそ、チームの攻撃を担う存在となったことに疑いはない。そして試合を重ねて身体に染み込んだプレーは代表活動にもポジティブな影響をもたらす。「ゴールに向かう姿勢、直結するプレーはU-20でも一緒なので、活きている部分だと思う」

そんなチームメイトに導かれるように、藤野もまた着実にWEリーグでの実績を積み上げていく。「ベレーザでも先輩たちがコミュニケーションを取ってくれて、自分らしいプレーや自信を持っているプレーを上手く引き出してくれた」と同僚の助けの存在を明かす。第5節からチームに登録され、シーズン前半戦の出場機会は3分のみに終わったものの、山本と同じく後半戦に出場時間を延ばしていく。ウィンターブレイク後の再開試合となった第12節で初先発を飾ると、第17節から6試合連続で先発出場。最終節となった三菱重工浦和レッズレディース戦では圧巻の2ゴールをマークし、期待に違わぬ活躍を見せた。ここで得た自信が「代表合宿でも躊躇なく前に進む、ゴールを目指すという自分の姿勢につながっている」と語る。

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それぞれに与え合う刺激

シーズン序盤は出場機会を窺う立場にあった山本と藤野は一方で、U-19日本女子代表チームにおいてはチーム発足からこれまで欠かさず招集されてきた。その傍らで、吉田は最初の2回、WEリーグ開幕前の5月、6月に実施されたトレーニングキャンプではメンバー入りを逃している。「WEリーグやなでしこリーグのクラブに所属する同世代の選手がだいたい選ばれていたので、かなり悔しかった」。その悔しさがその後のWEリーグでの飛躍を後押ししたことは想像に難くない。

「そこから自分のチームでのプレーを見てもらい、呼んでもらえるようになった。それまでの年代別の代表も招集されたことがなかったですが、回数を重ねるごとに自分のプレーを出せるようになってきています。ゴールに向かって仕掛けるプレー、チャンスメイクするプレーはチームでも求められていますし、代表でも同じようなプレーを見せたい」

その姿は逆に同世代の選手たちにも火をつける。「同年代だと吉田選手もそうですし、あとは長野(AC長野パルセイロ・レディース)の伊藤めぐみ選手は当初からチームの中心として試合に出ていたので、羨ましく、悔しさもあった」と山本は話す。年齢的にはひとつ下の代になる藤野も「自分の年代でWEリーグの試合に出ている選手は数人だけで、上の年代の選手がチームの中心になっているのがすごいと思っていた」と感嘆しながら「焦りもあった」と率直に明かす。ひとたび同じ青のユニフォームに袖を通せばチームメイトだが、それぞれのクラブで過ごす時間では、互いにその動向が気になるライバルにもなる。そんな関係性は山本いわく、自身を成長させるための糧だという。「チーム内外で刺激を与えてくれる選手がたくさんいることは、自分にとってすごく良い材料になっている」

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プロとして臨むワールドカップ

WEリーグ開幕から約1年が経過し、プロとしての切磋琢磨を続けたいま、待ち望んだ世界大会の開幕を目前にしている。自身は4年前にFIFA U-17ワールドカップウルグアイ2018に出場し、2度目の世界大会となる山本は言う。「前回のワールドカップは不完全燃焼感がすごく強かった。チームの中心という立場でもなく、負け方も悔いの残るものだった。その思いを晴らすためにも、世界と戦っていきたい」

ワールドカップに忘れ物があるのは藤野も同様だ。2020年に開催予定だったFIFA U-17ワールドカップのアジア予選を勝ち上がりながらも、大会自体が中止となったために出場は叶わなかった。「予選の時も怪我で自分は出場時間が限られていた。今回はしっかり試合に出られるように万全の準備をして、楽しみながらも勝負にこだわりたい」。注ぐ眼差しに淀みはない。

初めて日の丸を胸に付け、国際大会に臨む吉田は「とにかく楽しみ、ワクワクが大きい」と心を躍らせる。それでもこの場が、勝利を求める戦いであることも忘れない。「試合に出る、出ないに関係なく、チームの勝利のために、自分ができることを最大限にやりたい。試合に出たときはゴールなど、自分が結果を残すんだという強い気持ちを持ってプレーしたい」

少し気が早いが、このワールドカップが終わると2年目のWEリーグがやってくる。リーグ戦の開幕に先立って、8月20日に始まるカップ戦に向け、各クラブの準備は今が佳境だ。それぞれ新たな顔ぶれを迎えたチームでは、来るべきシーズンを前にチーム内の競争が行われている。「このワールドカップで結果を残すことがチームでのポジション争いを勝ち取る一つの材料になる」山本はそう先を見据え、藤野も「コスタリカでの経験をチームでも生かしたい」と話す。そして吉田は「世界と戦って大きくなった姿を帰ってから見せたい」と、目の前にある大会に照準を合わせながら、未だ見ぬWEリーグ2年目での自分たちの飛躍を想像する。

3人が口を揃えるのは「ワールドカップはみんなが注目する大会、ここで結果を残して、日本の女子サッカーを盛り上げていきたい」という思いだ。かつては画面越しにその舞台に憧れ、自らもサッカーにのめり込んでいった彼女たちは、プロリーグを自分たちの主戦場とする今、今度は自分たちがその姿を見せる立場にいる。この1年、誰よりもプロの舞台を踏んできた者として、次はコスタリカのピッチで躍動を誓う。

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<プロフィール>
MF 19 吉田莉胡(よしだ りこ) 2002年6月18日生まれ、ちふれASエルフェン埼玉所属
昨季のWEリーグで1,636分出場し、今回のU-20日本女子代表メンバー内でトップのリーグ戦出場実績を持つ。積極的に仕掛けるドリブルが持ち味で、マークした4得点は所属チームでトップの数字。趣味は温泉、オフの日は近場の湯処を巡る。

FW 9 山本柚月(やまもと ゆづき) 2002年9月1日生まれ、日テレ・東京ヴェルディベレーザ所属
2018年のFIFA U-17女子ワールドカップにも参加し、今回が自身2度目のワールドカップ。WEリーグの初シーズンでは3得点をマークし、第13節以降は最終節まで連続先発出場。趣味は旅行で直近は浜松への一人旅を敢行。オフがなくとも旅程だけはひたすら立てている。

FW 10 藤野あおば(ふじの あおば) 2004年1月27日生まれ、日テレ・東京ヴェルディベレーザ
十文字高時代に日テレ・東京ヴェルディベレーザに特別指定選手として登録され、2022年1月に正式加入。正確な足元の技術と視野の広さを持ち、今大会では背番号10を背負う。天体観測が好きな姉の影響でよく空を見上げる。いわく、「コスタリカは朝の空がきれい」
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日本サッカー協会(JFA)は、日本サッカー界を統括し代表する団体として、サッカーを通じて豊かなスポーツ文化を創造し、人々の心身の発達と社会の発展に貢献することを目的に活動しています。 JFA公式Webサイトでは、日本代表からグラスルーツまで幅広いサッカーの現場の話題をお届けします。

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