<前編>なぜ川崎フロンターレはSDGsのイベントで「水曜どうでしょう」とコラボしたのか。

川崎フロンターレ
チーム・協会

【©KAWASAKI FRONTALE】

(文/いしかわ ごう)

「バカだよねぇ。こじつけがすごいもん!」

水曜どうでしょうの名物ディレクター藤村忠寿による辛口の挨拶に、会場がドッと沸く。隣にいる嬉野雅道も「誰が考えたんだろう」と感心し、藤村が「気づかなかったもん。俺たちSDGsだったんだ!」と宣言。こうして「第1回かわさきSDGsランド」のトークショーは始まった。

最近、テレビや新聞でよく見聞きするようになったSDGsとは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称のことだ。川崎フロンターレでは創立当時からSDGsに紐づく活動を継続的に行っており、それを楽しく学んで体験できるイベントとして、今回初めて「かわさきSDGsランド」を開催。等々力緑地イベント広場は「CC等々力環境エリア」、「経済エリア」、「社会エリア」など全部で40を超えるSDGsに関するブースで大変な賑わいだった。

とはいえ、環境問題や社会問題の取り組みは、どうしてもお堅いイメージが拭えない。真面目な問題を真正面から取り上げて、多くの人に興味を持ってもらうのは難易度が高いのだ。

そこで登場したのが、北海道の伝説的テレビ番組「水曜どうでしょう」とのコラボイベントだった。「水曜どうでしょう軍団、襲来!?」と銘打ち、「Suiyo Dodesyo Gundan syurai!?」の頭文字から「SDGs」を絡めたというわけである。冒頭で藤村が笑った「こじつけがすごいもん!」とは、このことを指している。

そして「バカだよねぇ」という褒め言葉に、心の中でガッツポーズしていた人物がいた。

川崎フロンターレ・管理部企画担当シニアマネージャーの井川宜之である。今回のイベントの仕掛け人だ。熱烈などうでしょうファンである彼にとって、長年温めていたコラボ企画であり、3年越しのリベンジが達成された日でもあった。

最初に動き出したのは、2019年春のこと。
北海道テレビ放送(略称HTB)のテレビ番組ということで、当初は北海道コンサドーレ札幌とのアウェイゲーム、つまり札幌のホームゲームで川崎も何かできないかと相談したのが始まりだ。ボツになった当時の企画案を懐かしそうに井川が話す。

「番組の名物企画である『サイコロの旅』にあやかって、川崎から深夜バスとフェリーを乗り継いで24時間かけて札幌までサポーターと行くというのを考えていました(笑)。現地に着いたら鈴井貴之さんに登場してもらい、サイコロを振ってもらう。1〜5の目が出たら札幌ドームで試合を観戦できる。だけど、もし6の目が出たらスタジアムに入れずその場でDAZN観戦… そういう企画はどうでしょうか?なんて提案してましたね」

しかし、この時はタイミング等も合わず、またビジタークラブが札幌での企画を実現することは難しかった。そこで、自分たちのホームゲームでやれないかということで、札幌戦がある等々力開催に切り替えた。勝算はあったと井川は言う。

「関東でも本当に人気がある番組ですし、テレビ神奈川(tvk)さんやTOKYO MXさんで今でも何度も再放送されています。DVDもたくさん売れていて、数字上の裏付けもある。Jリーグのコアなファンである40代、50代前半にもファンが多い。クラブスタッフにも、どうでしょうファンがたくさんいたので、もし組めるなら、こうしたい、ああしたいというアイディアもたくさん出ましたね。彼らも、ぜひ一緒にやりたいとなりました」

井川が知り合いのツテをたどって繋がったのは、水曜どうでしょうのプロデューサーであるHTBの杉山順一だった。杉山は両親が川崎市在住。エンディングテーマを歌う樋口了一も元川崎市民で、現在は藤村と嬉野もYouTubeの配信を武蔵新城にあるスタジオで行っているなど、不思議と川崎と縁があったのである。

こうして話は進み、翌年2020年2月の第2節札幌戦でHTBのマスコットキャラクター「onちゃん」との撮影会とグッズ販売を行う運びとなっている。イベントが告知されるや否や、「どうでしょうとのコラボ?」、「onちゃんがフロンパークに来るのか!」とJリーグファンの間でも話題になったのは言うまでもない。

ところが、20年の2月は新型コロナウイルス感染が急拡大したタイミングだ。J1開幕節は開催できたものの、この第2節は試合3日前に中止が発表された。各クラブは活動休止を余儀なくされ、当然ながら、コラボイベントも白紙に。結局、その年の20年、翌年21年もコラボイベントを実現する機会のないまま、シーズンは過ぎている。ただ「でも、どうしてもやりたくて」と井川は諦めていなかったという。

かわさきSDGsランド当日の「フロンパーク」。感染症対策も十分に実施した上で開催された 【©KAWASAKI FRONTALE】

迎えた今年2022年。
新社長として就任することが決まっていた吉田明宏は、1月の新体制発表会見でクラブの新たな挑戦を3つ掲げている。その1つが「SDGs」を浸透させていくこと。それに伴い、ホームゲームではSDGsに関するイベントを行うことも決まっていた。

ただSDGsを浸透させていくために、何か特別な取り組みをしたわけではなかった。川崎フロンターレにはトップチームの強化だけではなく地域社会貢献活動の二本柱で成長してきた歴史があったからだ。「自分はクラブに24年いるんですが、試合以外で地域の皆さんに笑顔になってもらおうと思ってやっていたことほとんどが、SDGsだったんです」と井川は話す。

クラブ創設時から続けている小児科病棟を訪問するブルーサンタ、多摩川河川敷の清掃活動である多摩川”エコ”ラシコ、川崎市内の小学校に配布されている川崎フロンターレ算数ドリル、そして岩手県陸前高田市との取り組み… 挙げ始めればきりがないのだが、これまでクラブがやってきた活動を振り返ってみると、どれもSDGsに紐付くものばかりだったのである。ただ同時に、こうした活動を多くの人に興味を持ってもらうイベントとして打ち出すには、さらに一捻りが必要だと井川は思案を続けていた。

「SDGsを正しく伝えることも大切ですが、フロンターレらしく気軽に知ってもらう。それを同時にやっていきたかったんです。堅苦しく構えてしまうと、多くの人たちには伝わらないですからね。そんなに難しく考えなくても、自分にできることでSDGsとなることって結構あるんだ、とか、何か楽しそうだな、とりあえず行ってみよう、が入口にあって、そこから実際体験いただいて、SDGsやってみよう!と思ってもらうにはどうしたらいいのか。それを伝えるためには、魅力ある目玉が必要だと思っていました」

来る日も来る日も、井川は「SDGs」の文字とにらめっこしていた。
そんなある日に思い浮かんだのが、2年前に頓挫していた「水曜どうでしょう」とのコラボだ。「水曜(Suiyo)どうでしょう(Dodesyo)」の頭文字がSDと略せることに気づいたのだ。 

「でも『G』が足りない・・・・いや、『軍団(Gundan)』とか番組内で言っていたな。水曜どうでしょう軍団… そして等々力に来てもらうのは『襲来(syurai )』だ!あれ?いけるんじゃないか!!(笑)」

こうしてパズルが面白いようにハマったら、井川は止まらなかった。すぐに企画書を作って、2月には番組プロデューサーでもある杉山に「水曜どうでしょう軍団、襲来!?」という企画を持ち込んでいる。

「どうでしょうには『リベンジ』というシリーズがあるんです。『ジャングル・リベンジ』とか。なので、リベンジということで相談させてもらいました(笑)。幸いにも、6月18日は皆さん出演陣のスケジュールが空いていて、杉山さんが中心となってくださって、鈴井さんはじめ関係各所全てと調整してくださり出演いただくことが決定しました。この企画が実現したのは、とにもかくにも杉山さんのおかげです」

ミスターの愛称で知られる鈴井貴之の出演が決まり、そのほかの出演陣も快諾。HTB側との調整は、番組もクラブも共に26(フロ)周年の節目であることを強調して粘り強く交渉をした。

「コンサドーレさんにも事前にご相談していて、たくさんご協力いただきました。また、HTBさんに地元北海道でもないのに、川崎でのイベント開催にご協力いただく意味について、もう一つ何か強いネタがないかと探っていたら、番組とクラブ、お互いに1996年にスタートしていたんです。じゃあ、26(フロ)周年特別行事でいかがでしょうということで(笑)。HTBさんもSDGsに取り組んでいらっしゃるので、こちらも杉山さんがHTBさんの社内調整をしてくださって、許可をいただき番組のロゴも使わせてもらいました。皆さんのお陰でなんとか実現することができました」

お互いに26周年の節目だからコラボしましょうとは、こじつけ以外の何物でもない。しかし、使えるものはなんでも使う。そんな執念も実った26周年にふさわしい企画だったと言えるかもしれない。

当日のフロンパークには、川崎のサポーターだけではなく、札幌のサポーターや「藩士」と呼ばれる水曜どうでしょうファンの姿も数多く見かけた。コロナ禍でどこも集客に苦戦し続ける中、今回はチケットが完売。ビジネス的にも成功で、コンサドーレ側がいつもより早く売り切れたのも特徴だったという。ビジターとしてきてくれるサポーターが喜んでくれるイベントもセットでやると、より多くの人が来てくれるとわかったのも収穫だった。井川はしみじみと振り返る。

「水曜どうでしょうは人気コンテンツなので、特定のJリーグクラブの色はつけたくないだろうなと思っていたんです。だから、自分たちが声をかけること自体もどうなんだろうなと。でも、声をかけないと何も始まらないよなって。思い切って声をかけてよかったなと思います。トークショーの際に藤村さんと嬉野さんのお二人とお話ししたとき『どうして自分たちに声をかけてくれたの?』と聞かれたんです。そこで思ったのは、水曜どうでしょうって人を傷つけるような笑いを取らないということ。大泉さんはよく騙されますが(笑)、あの温かい感じがフロンターレのホームゲームでやっている雰囲気と似ているんですよね」

これだけ温かい雰囲気でイベントができたこと、なによりもフロンターレが大事にしてきたものをしっかりと表現できたことは大きな手応えとなった。

後編では「水曜どうでしょう軍団、襲来!?」のコラボイベントの裏側をさらに深掘りしていく。
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著者プロフィール

神奈川県川崎市をホームタウンとし、1997年にJリーグ加盟を目指してプロ化。J1での年間2位3回、カップ戦での準優勝5回など、あと一歩のところでタイトルを逃し続けてきたことから「シルバーコレクター」と呼ばれることもあったが、クラブ創設21年目となる2017年に明治安田生命J1リーグ初優勝を果たすと、2023年までに7つのタイトルを獲得。ピッチ外でのホームタウン活動にも力を入れており、Jリーグ観戦者調査では10年連続(2010-2019)で地域貢献度No.1の評価を受けている。

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