「チームの若き翼たち」NTTリーグワン2022 第8節試合前コラム

チーム・協会

【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

アクシデントが起きたからこそ見えたチームの真価

先週末「えどりく」が愛称として定着しつつある江戸川区陸上競技場で行われたホストゲームで、クボタスピアーズ船橋・東京ベイは大きな勝利を得た。
相手はトヨタヴェルブリッツ。公式戦ではなんと2008年シーズン以来13季ぶりの勝利。
これは現在在籍している選手たちのだれもが初めて経験するということを意味する。
(現役選手で在籍年数が最も長いのは杉本選手。2011年入団。)

しかも、3トライ差以上のボーナスポイントを獲得しての勝利。チームの今季スローガン「NEXT LEVEL」を表したような結果だが、さらに驚くのは試合前のアクシデントがあったにも関わらずこの結果を得たということだ。

そのアクシデントとはフォワードの要、4番5番の両ロックが相次ぐ負傷により、試合出場予定のなかった青木祐樹選手が急遽先発したことだ。
そして青木選手は、試合を観戦した方ならだれもが納得のパフォーマンスを見せて、このアクシデントをトラブルにはしなかった。

ロックとして重要視される高さや重さといったことを、運動量と経験値でカバーした。
決して目立つわけではないが、そこにいたからこそ守れた、ボールを触らずとも得点に絡んだプレーは多い。チームフォトグラファーが納品する数百枚の試合写真のいたるところに青木選手の姿があったことからも、青木選手のこの試合での貢献度がわかる。

青木祐樹 (あおきゆうき)/1992年2月23日生まれ(30歳)/千葉県出身/身長188cm体重105kg/東洋大牛久高校⇒日本体育大学⇒クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(2014年入団)/ポジションはロック 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

試合後の記者会見に参加した青木選手は、この急な出場について
「今回は私がプレーすることになりましたが、他の選手であってもスピアーズのラグビーを実践することができると思います。誰が出てもスピアーズのラグビーができるのだと思いますし、それが強みになっていると思います。」
とコメントした。

今季入団8年目。入団当時はロックに外国人選手はいなかったものの、なかなか試合出場機会は訪れず、公式戦の初先発となったのは2年目のシーズン。この時出場したポジションはロックではなく、フランカーだった。

先に入団していたロックの先輩選手たちは一人、また一人とシーズンを重ねるごとに退団し、いつの間にかロックでは一番の古株となっていた。

緊急時での頼れる存在、そして記者会見でのチームを代表するコメント。

青木選手は自身の8シーズンを通して、頼りがいのあるリーダーの一人になっていた。
だがその成長はいつの間にかじゃない。一歩一歩着実に歩んだ歴史だ。

今季スピアーズは、試合に出場しないメンバーのことを「Wings」と呼ぶ。
「左右の翼でチームを支え、目標に向かって上に上に上がり続けるために必要な存在」が由来となったこの言葉だが、まだこのWingsという言葉もない時代から、試合に出る出ない関わらず努力を重ねた青木選手のような存在がいたからこそ、歴史を生む勝利を得ることができた。

Wingsを知ることはチームの未来を知ること。今回は、そんなチームの未来を作る若き翼たちをご紹介したい。

「置いてかないでくれる。」チームの存在

「不安が強かったです。自分が通用するのかどうか。同期は有名選手たち。自分は大学時代こそキャプテンでしたが、各カテゴリの代表枠に選出されたこともなければ、花園(全国高校ラグビー大会)にも出場したことがない。これまで在籍していたチームも、選手としても、正直レベルが違うという思いがありました。」

前述の青木選手の同門の後輩。日本体育大学出身のルーキー玉置将也選手は、ちょうど1年前の入団当初の思い出を懐かしそうに話してくれた。

玉置将也 (たまきまさや)/1998年12月22日生まれ(23歳)/和歌山県出身/身長188cm体重100kg/熊野高等学校⇒日本体育大学⇒クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(2021年入団)/ポジションはロック 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

入団してまず初めに驚いたのはスピード感。
人、パス、コミュケーション、練習のテンポ、すべてが速かった。

それに加えて、ロックとしての専門スキルや知識の習得。自分自身をアップデートする日々が続いた。
心も体も、練習のペースについていくだけで精一杯。訳が分からないまま練習が終わる、そんな日もあったかもしれない。

「自分が通用するのか、やっていけるのか。」入団前に感じていたそうした不安がさらに強くなってもおかしくない中、そうはさせなかったのは先輩の存在だった。
玉置選手は、その先輩たちの行動を
「置いてかないでくれる。」
と表現した。

練習前後に、先輩たちは玉置選手のために少なくない頻度でミーティングを行ってくれた。
ポジションや年齢関係なく、どの選手も新しい仲間に対して、自分たちの持っているものを注ぎ込んでくれた。

入団して間もないころ、同じロックで年も近い松井選手からラインが来た。
「ラインアウトのこと、わからなかったらいつでも聞きに来て。」
玉置選手は遠慮なく、その先輩の部屋のドアをノックした。
先輩は歓迎すると、ノートを使って一からスピアーズのラインアウトを説明してくれた。

練習後の自主練習の様子。写真中央が玉置選手、その後ろにいるのが松井選手 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

「まるで自分を見ているようだ」

玉置選手にとっては日々の練習がチャレンジだ。練習中、自分のミスでチームに迷惑をかけたと思い、落ち込むこともあった。
練習が終わっても切り替えられず、頭を抱えていた。
そんな玉置選手を横目に見て、そのまま置いてきぼりにしなかったのは、ひとつ年上の山本選手だ。
「落ち込む必要はない。切り替えろ。」と山本選手は玉置選手を促した。

実はこれには訳がある。ちょうど山本選手が1年目のころ、同じように練習後ひどく落ち込むことがあった。
スクラムで押され「自分のせいで負けた。」と沈む日があった。
横でその様子を見ていた先輩に、「終わったことは仕方ない。受け入れて次へ進もう。」と声をかけてもらったおかげで今の自分がある。

「まるで一年前の自分を見ているようだ。」

そんな思いがあって、玉置選手に声をかけた。

山本剣士(やまもとけんし)/1997年9月17日生まれ(24歳)/兵庫県出身/身長186cm体重115kg/姫路工業高校⇒大阪体育大学⇒クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(2020年入団)/ポジションはプロップ 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

山本選手も入団時に様々な不安と戦った一人だ。

山本選手は、大学4年生のときにスピアーズの練習に参加した。
そのあまりの練習のハードさに、練習後に嘔吐してしまったことがある。当然、その記憶が入団後も練習の度に頭を過る。

特に大学4年生からプロップに挑戦した山本選手にとって、そのプロップの専門職であるスクラムは大きなハードルを感じた。
壁の高さは人一倍高かったはずだ。
しかし、その時も助けてくれたのは同じポジションの先輩たち、そしてコーチ陣だ。
練習後に話を聞いてくれ、自主練習に納得いくまで付き合ってくれた。

「プレーへの責任感が大きくなった。」
スピアーズに入ってからそう感じるようになったと言う。

「ひとつのポジションにたくさんの仕事がある、その小さな仕事をやり遂げることが、チームの勝利に繋がっている実感があります。また、コーチ陣もそれぞれの責任を明確にして、役割を与えてくれます。だからこそ、小さなプレーに拘りや思いが強くなりました。」

新しい場所。
新しいチーム。
新しいポジション。
新しく学ぶ技術と知識。

そんな新しいステージに挑戦する者にとって、不安になることは当たり前だ。
誰しもが通る道だ。

だからこそ、チームはそんな彼らを置いて先に進むことはしない。

気に掛け、声をかけ、時間を作り、役割と責任を与え、居場所を作る。
そうして共に成長する。

なぜなら、チームとして成長することが、勝利への近道だと知っているからだ。
自分も置いて行かれそうなときに、手を差し伸べてくれる誰かの存在で成長できたことを知っているからだ。

いよいよシーズン中盤となったNTTリーグワン2022。
ハードな試合をタイトなスケジュールでこなすこの戦いは総力戦だ。
本節、スピアーズのメンバーには今季初出場、初先発の選手が多くいる。
だれかに手を差し伸べ、差し伸べられて共に成長した翼たち。
そんな大きな翼がきっと羽ばたく瞬間が見られるだろう。


文:クボタスピアーズ船橋・東京ベイ広報 岩爪航
写真:チームフォトグラファー 福島宏治
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著者プロフィール

〈クボタスピアーズ船橋・東京ベイについて〉 1978年創部。1990年、クボタ創業100周年を機にカンパニースポーツと定め、千葉県船橋市のクボタ京葉工場内にグランドとクラブハウスを整備。2003年、ジャパンラグビートップリーグ発足時からトップリーグの常連として戦ってきた。 「Proud Billboard」のビジョンの元、強く、愛されるチームを目指し、ステークホルダーの「誇りの広告塔」となるべくチーム強化を図っている。NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23では、創部以来初の決勝に進出。激戦の末に勝利し、優勝という結果でシーズンを終えた。 また、チーム強化だけでなく、SDGsの推進やラグビーを通じた普及・育成活動などといった社会貢献活動を積極的に推進している。スピアーズではファンのことを「共にオレンジを着て戦う仲間」という意図から「オレンジアーミー」と呼んでいる。

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