6年連続Jリーガーを輩出する元なでしこジャパンコーチの望月聡メソッドに迫る(後編)

びわこ成蹊スポーツ大学
チーム・協会

【©びわこ成蹊スポーツ大学】

 6年連続20人のJリーガーを輩出するびわこ成蹊スポーツ大学サッカー部。2009年から監督としてチームを率いる元なでしこジャパンコーチの望月聡監督は、選手・スタッフから『モチさん』の愛称で慕われる。前編では2022シーズンよりJ2徳島へ加入した森昂大選手へ望月監督の指導方針や300名以上の部員を抱える同部の強みについてインタビューを行った。今回は、望月聡監督へのインタビューにて指導方針のルーツに迫る。

◆指導者になることを意識しはじめた時期は―

 33歳の時に京都パープルサンガで戦力外通告を受け、それと同時にTOPチームのコーチの打診を受けた時ですかね。正直まだ選手としての道を諦めたくなかったですが、これも何かの縁だと思い、今ある情熱を指導者に向けてみようと思い引き受けました。新しい世界へのワクワク感を抱きながらコーチとしての初シーズンを迎えたことを覚えています。

◆プロクラブ、なでしこジャパン、大学生など様々なカテゴリーを指導してきたが、意識していたことは―

 どのカテゴリーを指導する時でも「選手の弱点を補おう」とは思っていません。まだ指導を始めたての頃に、ある外国人監督が日本のチームを指揮した時に言った言葉を聞きました。「コーチが選手の邪魔をしないでくれ!」と。「これだ!」と思ったんですよね。選手の頃から自分(選手自ら)でやることがスポーツだと思っていましたし、自分で考えてプレーしたかった私にとってはすごく胸に響いた言葉でした。それ以来、選手のストロングポイントを伸ばしてあげて、選手が伸び伸びとプレーできる環境を作ってあげることが我々指導者の役目だと思い日々指導現場に立っています。

自らも練習に加わり選手へ積極的に声掛けを行う 【©びわこ成蹊スポーツ大学】

◆2009年のびわこ成蹊スポーツ大学監督就任から変化したことは、また変わらないことは―

 自分では変わったかはわかりませんが、いい意味で変わったな、進化したなって思われたいですし言われたいですね。幸せなことにJFAの指導者養成講習会でインストラクターをしていることもあって、いろいろな方の指導を見させていただく機会があり、そこが私にとって一番の学びの場です。あとは、自チームでもコーチに練習を任せて見させてもらっています。自分一人でやってしまうと殻に閉じこもりやすくなりますし、選手もいろいろな指導者の方の指導を受けることで刺激になりますからね。
 でも、やっぱり学べば学ぶほど思うことはシンプルが一番だという結論に至りました。練習では、実際のゲームと違うルールは極力避けて、大事なことを徹底してやれるメニューがいいですね。

◆大学生を指導する中で最も意識していることは―

 大学生にもなればある程度人間性が出来上がっていますから、彼らの何かを劇的に変えようとは思っていません。『指導者』と『選手』という立場はありますが、どっちが上とかどっちが偉いとかはないと思います。価値観を押し付けたくないんですよ。お互いをリスペクトし合える仲にならないといけないと思っていますし、サッカーを通して自立して、私にも平気で意見をぶつけられる選手を作ろうと意識しています。何事においてもプロセスを大事にしてほしいですし、自分自身の価値観を大事にしてほしいんです。

◆選手の自主性を尊重する指導スタイルの原点は―

 父の影響ですね。子どもの頃、ある日比叡山のお化け屋敷に友達と行きたいと伝えたことがありました。普通であれば「おお行ってこい!」で終わるでしょうが、「みんなを連れていきたいならまず下見に行ってこい。現地までの行き方、どこに何があるかちゃんと調べて計画してみなさい」と言われたんです。私に主体性を持たせようと仕向けたんだと思います。そのころから何でも自分でやらないといけないと思っていましたし、自分なりの考えを持つようになりました。

◆試合中、喜怒哀楽があまり見られないことが印象的だが、意識していることは―

 人間っていうのは感情の動物なので、喜怒哀楽は出したほうがいいと思うんですね。でも、最後の最後まで黙って、怖じ気もせず冷静にいるのが『勝負師』、『ボス』だと思うんです。
 私は試合中、ピッチに立つ選手や相手ベンチが何を言っているのかをいつも聞いています。「相手は上手いけど、選手たちがこれをしゃべっているから大丈夫だな」とか、「相手は文句ばっかり言っているから大丈夫だな」とかね(笑)逆に、「相手はいい声掛けをしているからこれは手強いな」なんて思うときもあります。
 あとは、あえて我慢するときもあるんです。もちろん私も勝ちたいです。でも、たとえ負けたとしてもそこから学ぶことがある。「あの時ああすればよかったな」って選手が自分で気づくことが面白いんじゃないかなって思うんです。それでまた成長するんですよ。

◆ミスをした選手がいても見守っている印象があるが、考えてのことー

 サッカーにミスはつきものです。ミスは目立ちやすいから多くの方がよく指摘しますけど、誰もミスをしようとしてしてないと思います。だから怒る必要はないですし、選手にはミスをしないためにはどうしたらいいか考えるのではなく、いいプレーするためには何をしなければいけないかを考えてほしいんです。『メンタルトレーニング』という言葉がありますけど、これは『気合』ではなく『普段から考えさせること』だと思っています。一流選手はたくさんのミスを経験していますし、選手たちには「チャレンジしていいんだ」と思ってもらいたい。そのためにたくさん練習してほしいと思っています。

交代した選手を労う望月監督 【©びわこ成蹊スポーツ大学】

◆20年以上の指導歴の中で最も苦労したことは―

 苦労...。天性とは言わないですけど、全てを受け入れられるタイプだと自分で思います。人間力とは何か、生きていく上で大事なのはなにか。それは『楽しむ力』だと思うんです。嫌なことから逃げるのではなくて、上手くいかなくても「こんなときもあるわ」くらいの楽しむことが大事だと思います。失敗してもそこで私の人生が終わるわけではないですから。

◆監督として考える理想のチームは―

 たとえ私たち指導者がいなくてもいつも通りに、むしろいないほうが頑張っているくらいの選手が自立したチームが理想です。練習も、戦術も、選手選考も、全部自分たちでできるくらいになってくれれば嬉しいですね。そうなれば私たちも刺激をもらえますし、指導者がいればこんなに充実するんだよって逆に選手に思わせたいななんて思っています。

  
 
 選手やスタッフから『モチさん』と親しみを込めて呼ばれる望月監督。世界の舞台で活躍した経歴があれど、決しておごらず、「楽しみ」「笑い」を求める姿勢が常に溢れ出ているが、それはモチさんの『人間性』が根底にあるからである。大学時に、『自主性』や『主体性』を伸ばすことができれば、現代を生き抜くための大きな武器となる。そのために、選手(学生)と互いにリスペクトし合える関係を構築している。人々を魅了する、惹きつける人間性に惚れ込む選手が多いことをインタビューする中でも感じた。「サッカーが上手い下手関係なく、びわこ成蹊スポーツ大学サッカー部にきたらJリーグ、日本代表、そして世界に羽ばたく選手や学生が出るチームにすることが目標」と語る理想のチームを追い求めて、まだまだモチさんの『楽しむ姿』を追いかけたい。


●望月聡監督のプロフィール●
望月 聡(もちづき・さとる)1964年5月18日生まれ。滋賀県出身。守山高校3年時に全国高校サッカー選手権大会でベスト4進出。大阪商業大学へ進学し、全日本大学サッカー選手権大会3連覇を達成。大学卒業後は、日本サッカーリーグで活躍し、日本代表として国際Aマッチにも出場。1992年から1996年の現役引退までJリーグで活躍。
現役引退後は、Jクラブで指導経験を積み、2009年びわこ成蹊スポーツ大学サッカー部監督に就任。2011年FIFA女子ワールドカップでコーチとして日本代表の初優勝に貢献。

理想のチームを追い求めてチャレンジは続く 【©びわこ成蹊スポーツ大学】

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著者プロフィール

2003年に開学した我が国初で唯一の「スポーツ」を大学名に冠したパイオニアが、その役割を全うすべく、「スポーツに本気の大学」を目指し「新たな日本のスポーツ文化を創造する大学」として進化します。スポーツを「する」「みる」「ささえる」ことを、あらゆる方向から捉え、スポーツで人生を豊かに。そんなワクワクするようなスポーツの未来を創造していきます。

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