【浦和レッズニュース】[大記録まであと2試合]西川周作がこだわってきた"0"「埼スタが醸し出す雰囲気は僕の宝物」
大分トリニータ、サンフレッチェ広島でキャリアを積み、現在浦和レッズで8年目を迎えている西川周作は、偉大な先輩の数字に迫っている事実を知らされると、柔和な笑みを浮べた。
「いいことを聞きました。モチベーションになりますよ。無失点はGKの目に見える一番の結果だと思っています」
今季もすでにリーグ戦12試合でシャットアウト。今年6月で35歳を迎えたものの、安定感あるセービングは健在だ。
「これまでのキャリアでも、ずっとそうしてきました。矢印を自分に向け、次にどうすべきかを考えています」
10月16日、本拠地の埼玉スタジアムに迎えるのは14位のガンバ大阪。1ゴールも許すつもりはない。
たとえ、攻め込まれても、カウンターを浴びても、クリーンシートにこだわる。無失点に抑え込むことで、浦和の砦として認められてきた自負がある。
「広島から来た1年目の開幕戦。レッズのファン・サポーターは、移籍してきたキーパーがどのようなプレーを見せるのか、きっと注目していたと思います。当時の僕は無失点に抑えることだけを考えていました。
結果として、ガンバに1-0で勝てて、すごく気持ちが楽になったんです。最初の試合でしっかりゴールを守れたからこそ、その後もレッズで勝ち星を重ねていけたと思っています」
そして、迎えた11節のFC東京戦。埼玉スタジアムのゴール裏からオリジナルのチャントが聞こえてきた。
パワーみなぎる大きな歌声は、何年経っても耳に残っている。
「初めて僕のチャントを歌ってくれた試合なんです。ファン・サポーターに少しは認めてもらえたのかな、と思いました。本当にうれしくて。確か、あのFC東京戦も1-0でしたよ」
「無失点で勝ったぞ、という気持ちを込め、客席に向かってガッツポーズをしています。やりきった感があるので。特に埼スタでの1-0は特別。あのスタジアムが醸し出す雰囲気は、僕の宝物ですね」
会場の電光掲示板で「0」の数字を確認するたびに、充実感がぐっとこみ上げてくる。
中学生の頃は試合のたびに7失点、8失点するのが当たり前。ただ、どれだけゴールを奪われても、GKのポジションを楽しむことができた。
その考え方ががらりと変わったのは、プロのピッチに立ってから。生活が懸かった勝負の世界は、ゴールひとつで天国にも地獄にもなる。
16年前の5月21日、プロデビューを果たしたナビスコカップ(現YBCルヴァンカップ)の柏レイソル戦でいきなり初完封。大分のゴールマウスを守り抜いた18歳は晴れた空を見上げ、言葉にできないほどの高揚感を感じた。
ベテランの域に入っても、ひしひしと感じている。一つのミスから失点を招くこともある。
対戦相手が変われば、準備もまったく変わってくる。連続無失点を続けることは、なおのこと難しい。
それでも、ゼロが3試合も継続すると、ゾーンに入ったような感覚になるという。前半をスコアレスで折り返すことができれば、勝率はぐんと上がる。
「『後半は守れる』と自信が芽生えてくるんですよ。失点しない空気が漂っている感じかな」
ACL(AFCチャンピオンズリーグ)出場圏内にも近づき、シーズン前に掲げた目標に手が届く位置まできている。
10月中旬のリーグ中断期間を挟んで、仕切り直し。歴戦の勇者は、目の色を変えている。残り7試合は、すべてゼロで乗り切る覚悟だ。
「ここからですね。終盤戦に向けて、プレッシャーがかかってくる。僕はJリーグを長く経験しているから分かります。追われる立場より追う立場のほうが有利。負けたら終わりという緊張感を保ちつつ、思い切って戦えるかどうかがポイント。ゼロで終えることが、ACL出場権の獲得にもつながってきます」
どん欲な男は、目に見える数字だけで満足するつもりはない。先日、敬愛する楢崎に掛けられた言葉を胸に留めている。
『記録も大事だけど、周作には記憶に残るゴールキーパーになってほしい』
西川だからこそ、送られたエールなのかもしれない。
鋭いシュートストップに加えて、スタジアムを沸かせるキック技術はいまなおJリーグ屈指。華があるゴールの番人は勝利を手繰り寄せながら、エンターテイメント性も追求していくことを笑顔で誓う。
これからも圧巻のパフォーマンスで"ゼロのレコード"を塗り替え続ける。
(取材/文・杉園昌之)
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