スポンサーシップはパートナーシップの時代へ ー課題解決型の取り組みへのパラダイムシフトの幕開けー Jリーグマネジメントカップ2019
【(c) 2020 Deloitte Tohmatsu Financial Advisory LLC】
広告露出を中心とした従来の形から、スポンサーの経営課題や社会課題の解決への貢献を中心とした形へのシフトが始まっています。今後も広告露出価値が無くなることはありませんが、「スポンサーシップからパートナーシップへ」という流れはポストコロナ時代における企業とスポーツの関わり方のスタンダードになるものと思われます。
Jリーグマネジメントカップの観点で言えば、各クラブにとって収益の柱であるスポンサー収入を継続的に得るために提供する“対価”が変容していることを経営戦略に盛り込み、健全な財務状況を維持する必要があると言えます。
Jリーグマネジメントカップ2019について取り上げてきた本シリーズの最後は、スポンサーシップの変容と今後についてデロイト トーマツ グループからの提言で締めたいと思います。
足元の状況として新型コロナの影響でJリーグの興行は延期され、再開後もリモートマッチ(無観客試合)や入場者数を厳しく制限した有観客試合を余儀なくされています。Jリーグマネジメントカップはこれまで、スポーツビジネスにおいて目指すべき大原則は「満員のスタジアム」を創り出すことと一貫して提唱してきましたが、それが覆されるような大きな外部環境の変化が起きている状況です。
このような状況によるクラブ経営へのインパクトには、マスコミ等が報道している入場料収入の減少やスタジアムなどでのグッズ販売の落ち込みはもちろんありますが、これから先に懸念されるのが、Jクラブの収入の多くを占めるスポンサー収入への影響です。
新型コロナの収束が見通せない中で、当面続くとみられる観客数制限は「満員のスタジアム」の創出を不可能にすることはもちろん、Jクラブの最大の商品である「試合」の価値を最大化する「観客が創り出す非日常的な雰囲気」という要素も奪い取ります。このことはすなわち、多くのJクラブがこれまでメディア、スポンサー企業に説明してきた広告宣伝価値という武器を失うことを意味します。
もちろんスポンサー企業も今回のコロナ禍において少なからず本業にダメージを負っている企業が多いと想定されます。そうなると、仮にデジタル戦略などで何とかこれまでと同様の広告宣伝価値を維持できたとしても、スポンサー企業側の体力の低下により、スポンサー契約が締結できない事態となることも十分にあり得ると考えられます。つまりJクラブにとっては、2020年シーズンではなくその先の2021年シーズンこそ、本当の正念場といえるのかもしれません。
そのため、現時点においてJリーグやJクラブが取り組むべきは、従来の広告宣伝価値に依拠した広告露出型のスポンサーシップからの脱却と、課題解決型のパートナーシップへの進化であるといえます。その鍵を握るのが、スポンサーアクティベーションの考え方です。
広告露出中心から課題解決中心へ
(1) スポンサー企業の経営課題の把握
(2) クラブが有している有形・無形の資産(アセット)を活用した経営課題の解決法の提案
が必要となります。そして、上記 (1) および (2) を満たす取り組みが、スポンサーシップという権利を活用した、コンテンツホルダーとスポンサーの協働作業であるアクティベーションであるといえます。
このアクティベーションはその性質上、これといった定型の取り組みがあるというものではなく、基本的にはスポンサーごとに異なる経営課題に対してオーダーメイドで組み立てていくものになりますが、一つの傾向として「マーケティング」という観点が挙げられます。
特に、長期的なマーケティング施策といえるブランディングへの取り組みは、今後のスポンサーアクティベーションの柱の一つになっていくものと想定されます。
例えば、Jクラブが提供できるアセットの最たるものの一つとして挙げられるのがファン・サポーターのデータベースです。スタジアムに来場するファン・サポーターのデータはもちろん、JリーグIDなどによりJクラブと結び付いているファン・サポーターの属性データは、これまでスポンサーシップに積極的に活用されることは少なかったといえますが、ポストコロナの環境下においては、スタジアムに来場できないファン・サポーターも含めたデジタルマーケティングの価値がこれまでより相対的に高まっていくものと考えられます。
デジタルマーケティングの領域はシステム的なインフラが必要となるため、J2やJ3といった事業規模がJ1ほど大きくないクラブにとっては取り組みにくい領域といえるかもしれません。しかし実はこの領域は数年前からJリーグが取り組んできたマーケティングデータベースの活用が期待される領域でもあり、ここまでのリーグとしての取り組みが、期せずして非常に重要なポストコロナのアクティベーションの土台となる可能性を秘めているものと思います。
地域密着を活かした社会課題の解決
この社会連携活動の課題は実行予算の確保にありました。スポンサー企業の体力も失われつつある中、この社会連携活動の継続は一見難しいようにも感じられます。
ここで期待されるのが、令和2年度に法改正がなされた「企業版ふるさと納税」を活用した地域活性化プロジェクトの実践です。
制度の制約上、東京をホームタウンとするJクラブなど、いくつかのJクラブでは活用ができないという課題はあるものの、自治体と共同で実施する地域活性化事業にこの企業版ふるさと納税の制度を組み合わせることにより、自治体は企業からの寄附で活動予算を確保することができるようになります。そのため、各Jクラブがそれぞれの地元自治体と連携して地域活性化事業に参加することで、これまでJクラブの持ち出しで実施していた社会連携活動を、逆にクラブの新たな収入源とすることが可能となります。
さらに寄附企業にとっては、社会連携活動へのサポートを通じて自社のブランディング効果が見込めるだけでなく、経済的にも最大で寄附金額の90%に相当する税務メリットを得ることが可能になるため、活動への参加費用を従来よりも抑えられるだけでなく、自治体が実施する地域活性化事業に公募で参加するなど、座組み次第では本業への還元も期待できます。
これはJリーグやJクラブがハブとなった、地域の社会課題と企業の経営課題の解決を同時に目指すアクティベーションでもあり、ポストコロナにおけるスポーツビジネスのニューノーマルとなる可能性を秘めた取り組みになると考えられます。
【(c) 2020. For information, contact Deloitte Tohmatsu Financial Advisory LLC.】
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