経営(BM)とリーグ成績(FM)両立のカギは選手育成。Jリーグマネジメントカップ2019
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その関係性を分析する中で、経営(BM)とリーグ成績(FM)の一つのカギとして「選手育成」が浮かび上がってきました。
今回は、各クラブの2014年から2019年シーズンの財務データをもとにその特徴をグルーピングした上で、クラスタリング分析を行いました。分析の詳細はJリーグマネジメントカップ2019のコラムに譲りますが、今回の分析ではPL構造の違いから主に次の3つのクラスターにクラブを分類しています。
まず、一番特徴的なクラスターは「(3) 高スポンサー収入・高人件費型」クラブです。ここに分類されたクラブは、営業収益に占める「スポンサー収入」の割合が非常に高く、費用では「チーム人件費」の占める割合が高いのが特徴です。よって大きなスポンサー収入を使ってスター選手を獲得し、リーグ戦の成績向上を狙う傾向が強いクラブです。
次に、PL構造上、収入の種類にあまり偏りのないクラスターが「バランス型」クラブです。中でも営業収益率と営業収益の中の「その他収入」の割合が高いチームを「(1) バランス経営型(高営業利益率)」とし、残りを「(2) バランス経営型(低営業利益率)」としています。その他収入とは、スポンサー収入、入場料収入、Jリーグ配分金、アカデミー関連収入、物販収入に属さない収入をまとめたもので、具体的には獲得賞金や選手移籍金などが含まれます。
分析の結果としては (1)のクラスターがFM面での成績も安定して出る傾向があることが導き出されています。各クラスターがリーグ順位(FM)、Jリーグマネジメントカップ順位(BM)においてどのようなポジショニングにあるかをまとめたのが次の散布図です。
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この関係から、中長期的なクラブマネジメントの観点では (1) バランス経営型(高営業利益率)のクラスターを目指すことが理想と考えられます。2019年シーズンにこのクラスター(1)に分類されたチームは川崎F、鹿島、横浜FMで、いずれもリーグ成績上位組となっています。ですが、注目すべきチームとしてもう1チーム、G大阪があります。
G大阪は2018年シーズンに井手口選手と堂安選手を、2019年シーズンにはファン・ウィジョ選手と食野選手をヨーロッパのクラブに移籍させ、そこから移籍金収入を得ています。つまり、優勝せずとも選手を育てることで新しい収益源を確保しているのです。しかも、移籍した日本人3選手はいずれもG大阪アカデミー出身で、まさに「育成のガンバ」の真骨頂と言えます。
奇しくもJリーグは「世界で最もヒトが育つリーグ」になることをビジョンに掲げ、2019年にアカデミー改革プロジェクト「Project DNA」を立ち上げました。リーグとして目指す将来は育成のプロフィットセンター化であり、クラブにとっては移籍金収入の獲得機会が増えることを意味しています。このようなリーグの方向性にあわせ、将来的なクラブ運営スタイルのモデルケースとして、育成レベルを上げ新たな収益源を確保することで、成長サイクルに入ることも一案と考えられます。
特に新型コロナによる影響で、これまでのスポンサー収入や入場料収入の確保に不安を抱えるクラブが多くなっています。この環境の中では新たな収益源を確保することが急務となりますが、この逆境に乗じていち早くオンザピッチを巻き込んだ収益確保へ経営をシフトできたクラブこそが、次世代のJリーグを背負うクラブとなるかもしれません。
より詳細はJリーグマネジメントカップ2019をご覧ください。
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