ついにSG初優出! 羽野直也(後編)

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待ち受けていた苦難

苦難の2019年に…… 【(C)BOATRACE】

 17年10月のG1初制覇以降、一気に銘柄級のレーサーへと駆け上がった羽野直也。グランプリに出たいという目標を掲げた2018年は、3月にSGボートレースクラシックに出場している。このとき、羽野は次のSGであるボートレースオールスターへの出場は決まっていたが、その次のグランドチャンピオンの出場権は得ていなかった。クラシックで優出すれば、グラチャンの優先出場権を得ることができる。グランプリに出るためにはひとつでも多くのSGに出なければならない、と羽野は気合を込めてクラシックに乗り込んでいる。残念ながら準優で敗退し、グラチャン出場は逃すことになったのだが、準優直後に心から悔しがる姿は今でも印象に残っている。ルーキー世代がSGで予選突破を果たすのは、本来ならばかなりの健闘であるにもかかわらず、である。
 羽野は続くオールスターでも予選突破。準優で敗れたものの、SGで2戦連続で予選をクリアしたのは評価が高い。その次節では地元福岡の周年記念で優出。さらには7月のオーシャンカップでも予選突破を果たし、勢いはとどまるところを知らなかった。オーシャンカップの前節ではG3ウエスタンヤングを走り、準優1号艇で5着に敗れるのだが、それがむしろ事件として捉えられるほどであった。
 好事魔多し、とはよく使われる表現だ。昇龍のごとき活躍を見せていた羽野にとって、そんな出来事をあげるなら、オーシャンカップの次節の尼崎周年でフライングを切ってしまったことだろうか。ここからスタートの思い切りが鈍るようになり、SGやG1では苦戦を強いられることとなった。そんな状況でも、同世代の戦いであるプレミアムG1ヤングダービーで優勝戦に駒を進めたのはさすがと言うしかなかったが、その一戦にしても、羽野にとっては不完全燃焼だったようである。
 それからの羽野は、やや迷走を強いられることとなる。目標だったグランプリはもちろん出場かなわず。一般戦でも予選落ちを喫することがあったりするなど、勢いは一気にしぼんでいってしまうのであった。

20年グラチャンでSG初優出! 【(C)BOATRACE】

 2019年になって、羽野はさらに結果を出せなくなっていた。SGでは1着をまるで獲れず、G1も予選落ちの連続。前年は優出したヤングダービーも予選落ちであった。
 筆者はこの時期、オーシャンカップのピットで言葉を交わしている。声をかけたのはまったく別の話題だったのだが、羽野自身のほうから「今の僕は迷ってるんです」と言い出したのだ。成績を見れば、そうとしか思えないものだっただけに、羽野の告白自体は意外なものではなかった。しかし、話の文脈を無視するかのようにそう言った羽野に、それを吐露したかったのかな、と感じた。さらに、自分に言い聞かせるかのように「今は迷っていたいんです」とも言った羽野に、この状況と向き合って、戦っているのだと思った。この時期を乗り越えれば、必ずあの勢いは戻ってくるだろう、と祈った。
 2020年は、前年の不振を反映してSGクラシックの出場を逃している。また、ファン投票で出場が決まるオールスターにも出場できなかった。前年、前々年と2年連続で選ばれていながら、調子を落とした途端に票を集められなくなる。ファンの目の厳しさを痛感したことだろう。
 20年の最初のSGは、6月のグラチャンだった。前年に多くのSGに出場した貯金が活きたものだった。ここで羽野は、一味違う走りを見せる。初戦は3号艇で4コース発進。スリットで先行した羽野は、強気に内を絞り込む豪快なカドまくりを放つ。これまでの羽野は差しやまくり差しが主武器だったものが、ここでは力任せのまくりを放って、先頭に立ったのだ。ちなみに、これは18年メモリアル以来、約1年10カ月ぶりのSGでの1着だった。そんなにも長きにわたって、SGでは勝ち星から見放されていたのだ。
 これで何かが吹っ切れたのか、その後は6着1回以外は順調にポイントを重ねて予選突破。準優も2着でクリアして、SG初優出! それまでの不振が嘘のような活躍を見せて、「現時点で最も登録番号が若いSGファイナリスト」となったのである。それが近年ではどれだけの快挙かは前編の冒頭をご参照いただきたい。とにかく、ここ何年かはついぞ見ることができなかった、ルーキー世代をSG優出を、この世代を牽引してきた次代の大物がやってのけたのである。
 一時は迷路にハマりながらも、SG優出というかたちでそこから脱出する契機をつかみ取った羽野。20年後半はまさしく、大逆襲の季節としたいところだ。グラチャンの次節の初戦でいきなりフライングを切ってしまっているが、あの苦しい時期を経験してきた羽野のことだ、それもしっかりと糧にしていくだろう。ここからがスーパールーキーのドラマの第2章。今度こそ一気に羽ばたく羽野直也を見たい。

2020年8月15日更新 文:黒須田守(BOATBoy) 写真:池上一摩(BOATBoy)
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