WALK TO THE DREAM 果てしなき夢へ 〜いわきFCの大いなる野望 第4回「地域チャンピオンズリーグ」1次ラウンドかく戦えり(後編)

いわきFC
チーム・協会

【©IWAKI FC】

■最後まで疲れを感じさせない戦いぶり。

 迎えた3日目のFC TIAMO枚方戦を前に、チームの士気はいつになく高まっていた。

「相手が嫌がることをしろ、名のある選手もいるけれど、足元に強く来られるのは嫌がる。懐にしっかり入ろう。例えかわされても追って、しっかり距離を詰めろ」

 田村雄三監督はそう伝え、選手達をピッチに送り出した。

「今思うと、2戦目のVONDS市原FCに勝っていたら、逆に難しかったかもしれません。引き分けでも大丈夫かも、という思いが頭によぎる可能性がありますから。でも市原に引き分けたことで、勝たなくてはいけなくなった。だから、とにかくやってやろう、という気持ちでしたね。むしろ、引き分けでも大丈夫だった枚方の方が、やりにくかったのではないでしょうか」

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 試合は、いわきFCが圧倒する展開となる。日を追うごとにパフォーマンスを上げ、積極的なスプリントを繰り返すいわきFC。それに対し枚方は、前半途中からなかなかボールを進められない。

 前半20分、これまでの2試合で無得点だったFW赤星魁麻がゴールネットを揺らし、いわきFCが先制。赤星は直後の21分にもゴールして2対0に。さらにFW平岡将豪も2ゴールを挙げ、終始攻勢を貫いたいわきFCが4対2で勝利。勝ち点7で晴れて決勝ラウンドに歩を進めたのだった。

【©IWAKI FC】

■「魂の息吹くフットボール」を体現。

 1次リーグを1位通過できた原動力の一つが、3試合を通じて見せた圧倒的な運動量と高い走力だ。選手達は1日目より2日目、2日目より3日目と、日を追うごとにパフォーマンスを上げ、チームが目指す「魂の息吹くフットボール」を体現していった。

 いわきFCはこれまで、週4回のストレングストレーニングをひと月間、徹底的に行って身体を大きくする「鍛錬期」を年2〜3回設けるなど、日本のサッカークラブとしては異例の取り組みによってストレングスの向上に取り組んできた。

 チームの掲げる5つのストラテジー。そのうちの一つが「世界基準のチームビルディング」だ。常に世界を見すえ、日本のスポーツ界にイノベーションを起こすことを目指す。その中で特に重要視している項目が、フィジカル。日本のサッカー選手の枠を超えるパワーとスピードを兼ね備えた選手を育て「日本のフィジカルスタンダードを変える」ことを目標としている。

【©IWAKI FC】

 その取り組みとは、ストレングストレーニングで身体を大きくすることにとどまらない。遺伝子検査によるトレーニング効率の追求、GPSデバイスによるパフォーマンス計測、ヨガによる柔軟性の向上、専門機器を導入したバーベルの挙上速度の計測やリアクション、アジリティの向上など、毎年さまざまなトライアルを重ね、フィジカルトレーニングの内容は毎年グレードアップしている。

 栄養摂取も抜かりはない。日本代表専属シェフ・西芳照さんの監修で毎日の食事を提供。栄養士の指導のもと、1日3500kcalをバランスよく摂らせながら体重と骨格筋量を細かくチェック。過酷な連戦に備えてきた。この3日間で見せた圧倒的な走力が、こういった取り組みの結実であることに、疑いの余地はない。

■我々はまだ何も達成していない。

 また、選手達の精神的な成長も見逃せないファクターだ。田村監督は、1日目の十勝戦の失点シーンについてこう振り返る。

「DF増崎がきっかけとなった失点でしたが、取られた後、こちらが何も言わなくても選手達が集まり、声をかけ合って立て直しを図っていた。今まで、選手達がそうやって自主的に集まったことはない。この光景を見て彼らの成長を感じ『このチームは大丈夫だ』と確信できました」

 他の選手も十分に準備ができていたため、ミスをしたDF増崎大虎を2日目以降に外すかどうか悩んだが、あえて起用し続けた。

【©IWAKI FC】

「彼は鹿島アントラーズのユース出身で1年目。今後大きく飛躍する可能性のある選手です。ミスをしたから外すのは簡単ですが、この緊張感あふれる舞台であえて頑張らせて、成長を促したかった。

 ミスをした翌朝、部屋に呼び出し『普通なら外すけれど、俺はお前を使いたい。昨日のミスを見た相手は、きっと狙ってくる。それでもやれるか?』と聞いた。すると増崎は『やれる』と。そこで彼を信じ、2戦目以降もスタートで使いました。本当によく頑張ったと思います。まだ19歳。こういう緊張感のある大きな舞台を経験して、大きく飛躍してほしい」


「人材育成と教育を中心に据える」

 ただサッカーが上手いだけの選手ではなく、未来を担う優れた人材を社会へと送り出す。それもまた、チームが創設時から掲げるストラテジーの一つ。あえてミスに目をつむり、選手を信頼し、寄り添う。そんな田村監督の姿勢も、厳しい3試合を戦い抜けた理由の一つに違いない。

【©IWAKI FC】

1次ラウンドの3日間について、大倉智・いわきスポーツクラブ社長はこう語る。

「3試合目は勝てば予選通過、負ければ予選敗退のシチュエーションでしたが、試合前のミーティングから試合終了まで、素晴らしい空気感があった。そして選手達は大きな舞台に浮き足立つことなく、冷静に力を出したと思います。『3試合で1セット』を強調し、選手を最後まで信頼し続けた田村監督の平常心に、敬意を評したい。とはいえ、我々はまだ何も達成していないのも事実。チャレンジャーの気持ちを忘れず、ここから先の試合を戦っていきます」


 11月20〜24日に行われる決勝ラウンドに残ったのは、高知ユナイテッドSC、福井ユナイテッドFC、そして10月の全国社会人選手権で2対0で敗れたおこしやす京都ACの3チームだ。舞台は福島県のJヴィレッジスタジアム。いわきFCの選手達はホームの大声援をバックに躍動し、念願のJFL昇格を勝ち取ることができるのか。期待は高まる。

 なお地域CL決勝ラウンドにおけるいわきFCの試合については、いわきFC公式サイト内で全試合をライブ配信する予定だ。ぜひ、関連リンクにある「地域チャンピオンズリーグ 特設ページ」を参照してほしい。



文・前田成彦
編集者。いわきFC関連の執筆の他、広報誌『Dome Journal』(http://www.domecorp.com/journal/)、スポーツニュートリションブランドDNSのオウンドメディア『Desire To Evolution』(http://www.dnszone.jp/sp/sp/magazine/)の編集長を務める。
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著者プロフィール

「いわき市を東北一の都市にする」ことをミッションに掲げ、東北社会人サッカーリーグ1部を戦う「いわきFC」の公式アカウントです。

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