史上3度目の統一戦日本人対決を“神の左”山中氏が展望 アマ世界王者初陣にも注目!

塩畑大輔

元バンタム級王者“神の左”でも知られた山中慎介氏が13日の大会に向けて見どころを語ってくれた 【写真提供U−NEXT】

 3月13日、両国国技館で「U-NEXT BOXING.2 トリプル世界タイトルマッチ」が開催される。今大会は3試合の世界戦が行われる注目のイベントで、日本人同士の王座統一戦も実現。さらに、アマチュア世界王者の坪井智也のプロデビュー戦も組まれており、日本ボクシング界の現在と未来が凝縮された一夜となりそうだ。この大会について元WBCバンタム級王者“神の左”でも知られ、U−NEXT配信の解説も務める山中慎介氏に見どころを聞いた。

日本人同士の統一戦は3回目。「意外と少ない」驚きの事実

「ここから見る景色、本当にいいですよね」

 そう言って、勧められたソファ席にしばらく座らなかった。

 2月下旬、東京都内のU-NEXT本社オフィス。山中慎介さんは、晩冬の澄んだ青空に映える東京の街並みを、しばらく眺めていた。通りを歩きながら、再開発ビルを見上げるのとは、また違った感慨がある。大きな建物が、競いあって立ち並ぶ威容を俯瞰する。それは東京ならではのものだ。

「今のボクシング界もそうかもしれませんね。特に、軽量級は」

 レジェンドはそうつぶやくと、ようやくソファに身を沈めた。



――今回はトリプル世界戦についての見どころを語っていただきます。

 はい。よろしくお願いします。まず、率直な驚きからいいですか?

――もちろんです。

 日本人同士の王座統一戦って、これがまだ3回目なんですよね。昨日、資料を読み込んでいたんですが、そうなんだなと。歴史的な激闘だった井岡一翔くんと八重樫東くんの試合が、国内初の2団体統一戦(WBC・WBA世界ミニマム級王座統一戦)でしたよね。それから、今回も登場する寺地拳四朗選手と京口紘人選手(WBC・WBA世界ライトフライ級王座統一戦)が3年前にあって。

――これだけ長いボクシングの歴史の中で、意外と少ない。

 はい。僕も驚きました。バンタム級のように、主要4団体の王座を日本人が独占していて、いよいよ統一戦だよねと期待もされている状況なので、過去にもっとあったのかなとばかり思いこんでいました。よく考えてみると、日本では長くWBCとWBAしか認められてこなかったから、チャンスもなかなか生まれなかったわけですよね。

――こういう試合の意義とは?

 枠が2から4に増えたと言っても、王者になる大変さはあるし、統一戦に至るには何人もの実力者が同じ階級に出てこないといけない。何より、ファンの皆さんが「誰が一番強いんだ」と盛り上がる材料にもなりますよね。ボクシングに詳しくない方でも「王者同士の戦い」となれば観てみたいとなってくださるかもしれないし。

 その意味で、バンタム級周辺は常に話題になるわけですけど、フライ級もそれに次いで日本勢が強い注目の階級です。今回のイベントがまさにそうですが、1つ下のライトフライ級も含めた近しい階級における3つの世界戦が、1日のうちに行われるというのが何よりの証拠、という感じもします。

スパーリング経験はどう影響するか。寺地拳四朗vsユーリ阿久井政悟

ポーズをとるフライ級でWBC王者の寺地拳四朗(左)とWBA王者のユーリ阿久井政悟=27日、東京都内のホテル 【写真は共同】

――個々の試合の見どころについて。

 まずは先ほども触れた統一戦ですよね。寺地選手については、相手の間合いに入ったり、出たりするスピード、テンポがものすごく速い上に、それを12ラウンド続けられてしまう。加えて、2022年に矢吹正道選手を3ラウンドKOしてライトフライ級の王座を奪還した試合以来、ときに相手にくっついて戦うというやり方も取るようになった。

 30歳をすぎていますが、現在のフライ級に階級を上げてから、また動きが良くなったようにもみえます。体格を考えると、おそらくライトフライ級は減量がきつかったんでしょうね。最近の勝ち方はほぼ完璧な内容で、まだまだ全盛期は続くという印象を受けます。

――阿久井選手については?

 ジャブを駆使した距離の取り方がものすごく良くて、右のパンチの決定力も持っています。力みなく打てているのがすごくいい。安定感がある選手ですが、世界王者になってからはそれがより増した印象があります。

――「寺地選手とは相性が良くない」とコメントしている。

 そう言ってましたよね。スパーリングの記憶が強く残っているんでしょうね。YouTubeでも動画が公開されていたりしますが、内容的に寺地選手がやや押していた。スピードもパンチのタイミングも素晴らしい相手を前に、思い通りには動けなかったという印象があるんじゃないかと。

 イメージというのはすごく大事だと思います。現役時代、日本王座の初防衛戦で岩佐亮佑さんに勝ったときのことを思い出します。挑戦者の岩佐さんの方が世間的な評価が高く、かなり優勢だと予想されていましたが、自分としては勝てると感じていた。以前にスパーをした際に、かなり感覚が良かったんですよね。

 もちろん、グローブなども違うので、本番は本番というところはあると思います。阿久井選手にもチャンスはある。寺地選手のスピードにいかに対応するかがカギにはなるとは思います。

3階級制覇を目指して。京口はオラスクアガとの激しい打ち合いに

WBOフライ級世界戦に向け練習する京口紘人=東京都品川区のワタナベジム 【写真は共同】

――京口紘人選手とオラスクアガ選手の試合はいかがでしょう?

 両者のスタイルを考えると、激しい試合が予想されます。世界戦ですし、最初こそジャブを打ちながらの探り合いになるんでしょうけど、とはいえお互い攻めに出て長所を出していくタイプ。スタイルが噛み合って、激しく強いパンチの交換、っていう局面は試合中何度もみられるでしょうね。

――京口選手にとっては3階級目の挑戦。

 そうですね。最初がミニマム級からでしたよね。その階級であれば、パワーがあるというアドバンテージがあったかと思うんですけど、フライ級までくると体格を生かしたという感じにはならない。もちろん、攻撃は最大の持ち味になりますが、オラスクアガに対してはときにうまく引きながら、考えながら戦う必要は出てくる。試合中何度か来るであろう激しい打ち合いの中でも、相手の打ち終わり、自分の打ち終わりに必ず動いて追撃を避ける、というような集中力の高さが求められます。

 オラスクアガはもともとフライ級の体格ですし、寺地拳四朗選手には負けましたがすぐに世界王者になれるという印象を残した実力の持ち主です。ひとつひとつのパンチの強さもあるんですが、印象的なのはパンチのつながり。左足が前でも、右足が前でも強いパンチが出せるので、流れの中で強打を続けることができる。日本勢との対戦が多いので、京口選手もそのあたりはよくわかっていると思います。

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著者プロフィール

1977年4月2日茨城県笠間市生まれ。2002年に新卒で日刊スポーツ新聞社に入社。サッカーの浦和レッズや日本代表、男子ゴルフ、埼玉西武ライオンズなどの担当記者を務める。2017年にLINE NEWSに移籍し、トップページの編成やオリジナルコンテンツ企画を担当。note、グノシーをへて、2024年7月からU-NEXTに所属。

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