【優勝/準優勝監督インタビュー】トヨタ自動車・藤原監督が振り返る日本選手権(前編)

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【提供:トヨタ自動車】

功労者の引退と若手の台頭

ブランクはたったの2大会。2年ぶりの日本選手権を制覇したトヨタ自動車は今大会も伝統の強さを見せたが、就任6年目の藤原航平監督は今回の載冠をこれまでとは別なものと捉えている。

「都市対抗が終わりこれまでチームの功労者だった佐竹(功年)が現役を引退しました。そのタイミングでキャプテンも交代しました。
もう一度ここから新生トヨタを作るというイメージの中でやってきたので、今回の日本一というのはすごくチームにとっても大きいことだと思っています」

野球の世界であれ、ビジネスの世界であれ、長く存在感のあった人材は貴重だ。
業界の第一線での戦力という側面もあるが、その一人がいることの影響は起用する人材の一人というだけにとどまらず、組織にとって貴重な存在となる。

戦力としての世代交代はできても、その大きな存在感に変わりうる象徴という懸念は大きいのである。

ただ、藤原監督はそうした機会に備えてきたというのもまた事実だった。

「私が監督に就任したときのテーマはそこでした。10年後も強いチームをと考えたときに、佐竹に頼り切りではいけません。

当時は都市対抗で先発したことのある投手が佐竹と、今のピッチングコーチの川尻一旗しかいませんでした。それだと今後ちょっと苦しいよなってことで、川尻と佐竹には抑えをやってもらい、若いピッチャーを先発に立てるということをしてきました。

その結果、昨年優勝した都市対抗では3試合先発の嘉陽がその経験を生かしながら、今の立ち位置を確立するまでに成長しました」


ベテラン2人に臨戦体制を取らせておき、その間、若い投手たちに経験を積ませる。いつ世代交代があってもいいような状態にしておいたというわけだ。

一方、今年の都市対抗では連覇を狙いながら2回戦敗退。その時、藤原監督が反省としてあげたのは「若手の台頭」だった。
佐竹に変わる存在だけでなくチーム全体として組織に勢いを生み出してくれる選手の存在が必要だった。そこでキャプテンの交代に踏み切ったのだった。

佐竹の引退に伴って新生トヨタを目指す意味合いも込めて思い切った方向転換をしたのだった。

「若手の勢いを出したかったというのはありますが、だからと言って、若手を積極的に使うという話はしていません。都市対抗で負けた夜にキャプテンの北村の方から提案がありました。『そろそろ(キャプテンを)変わるタイミングだと思います』 。

元々、都市対抗の連覇を目指す上でもう1年北村にやってほしいと伝えていましたが、若手に活躍してもらう新しいチームを作っていく上ではこのタイミングがいいのかなと。そこで逢澤峻介をキャプテン、福井章吾を副キャプテンにしました」


ベテラン佐竹からの世代交代を数年かけて行い、この春から秋にかけて一気にチームを変えた。準備があったから世代交代はスムーズだったと藤原監督は話す。

「佐竹が引退してしんどいシーズンのはずなんですけど、選手たちは普通のこととして捉えてくれていました。実際、佐竹は去年優勝した都市対抗では投げていませんからね。選手にとって重たく感じていなかったのはよかった。結果的に若手が頑張ってくれて世代交代になりました」

新主将としてチームを牽引した逢澤 【提供:トヨタ自動車】

効果的な打順とは?

戦略の面でも新たなことにチャレンジをした。

打線のオーダーの組み方にデータを重視した。出塁率と長打率で算出される打者の総合的な攻撃力を示す指標「OPS」に重きを置いた打線を組んだのである。得点の効率が良くなると踏んだためだった。

昨今はデータを分析するアナライズの幅は広まっている。データサイエンスで導き出す選手育成の数値も、戦術面においても戦い方には変化が生まれている。
メディアやSNSで話題になりやすいのはラプソードやトラックマンを使った選手の育成だが、戦い方にもデータ革命は起きてきている。

藤原監督はいう。

「メンバーだけを見ると若手を抜擢したようにも見えるんですけど、本当にこの秋、結果を出してもぎ取った選手たちなんです。チームとして5点取るという目標がある中で、どうやったら5点取る打線になるか。
アナリストと打撃コーチから提案があり、OPSの良い順に1番から5番まで並べるというのをやってみました。セイバーメトリクス*や、こういう見方もあるということでチャレンジしました。オープン戦のときからも面白いねという話になり、そのまま挑みました」

(*セイバーメトリクス・・・野球のデータを統計学的に分析して、選手の評価や戦略を考える手法)


もちろん、OPSをそっくりそのまま並べたのが最終的なものではない。チームのバランスを考えながらOPSを重視する打順とそうでないものとをミックスさせながら5点を取る目標に描いていったという。

かつては1番に足の速い選手をおき、2番はつなぎができる便利やタイプ。そこでチャンスを作ってクリーンアップで勝負をかける。
通説にならったオーソドックスな打線を組んでいたが、これが功を奏した。OPSを重視するのは1、2番。長打率が高いのは5番。一番チームの核となるのは4番に据えた。

藤原監督は話す。

「1、2番は最も打順が回ってきますので、得点機会が多いんですよね。OPSを見ながら打順を考えていくと得点が入りやすいということが実感として湧きました」

一方、ピッチャーの方もデータを駆使した。トヨタ自動車では相手チームだけでなく自チームをしっかり分析。どのようにピッチングをデザインしていくかにも力を入れている。これはここ数年、多くのチームが取り入れているように、アナリストの存在は大きい。

コーチなど指導者の経験だけを重視するだけではなく、選手自身の意向も踏まえてコミュニケーションをとってピッチングを作り上げている。

藤原監督は話す。

「我々の強みの一つにアナリストの力を重視している点があります。自チーム分析にも力を入れて、ラプソードだけではなくピッチトンネルなども取り入れています。

また、会社の様々な部署と連携しデータを取っていただいて、ストレートとどの球種がコースも含めて兼ね合いが良いのかなども見ています。“ピッチデザイン“とよく言われますけど、アナリストとピッチングコーチがうまく連携して、選手もそこに興味持って自分を伸ばす。三位一体でやれたかなという感じですね」。

若手・ベテラン・首脳陣・アナリストスタッフらが一体となって優勝をつかみ取った 【提供:トヨタ自動車】

脈々と流れる企業風土

世代交代の波をしっかり受け止めて組織を回していく。そして、戦術においても新たな文化を取れ入れる。人材育成と戦術面をうまくマッチさせた優勝と言えるだろう。

「昔からトヨタには『もっとこうしたら良くなるという若手の意見は大事にしよう』という企業風土が伝統としてあります。

今まではベテランが担っていた責任感や当事者意識を若手も感じて動き出した。そうした大きな変化点があった中で、トーナメントを勝ち進み5勝をつかみ取ったことは、選手にとっても自信になると思いますし、またさらなるステップに繋がるかなと思います」


トヨタに根付く企業風土。たった2大会のブランクでも大きく変化をして優勝を遂げた。勝つ集団にはやはり理由がある。



(取材/文:氏原英明)
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著者プロフィール

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