静かに始まるレッドブルの改革 大宮アルディージャは翼を授かるか

平野貴也

正式な発表事項がなかった、2つの理由

 では、なぜ、関心を持たれている事項についての発表を正式に行う場にしなかったのか。これには、2つの理由があった。1つは、旧体制で運営して来ているチームが、J2昇格、J3優勝といった重要な局面を迎えていること。メディアギャザリングの時間帯に、J3で2位の今治が敗れれば、その時点で大宮の優勝が決まる状況にあった。結果的に当日は決まらなかったが、翌日の13日に大宮はホームで福島を破り、勝点の上積みに成功して3位との勝点差を広げて今季の2位以上=J2自動昇格を確定させた。

 メディアに向けて、マリオ・ゴメスTDは「(変更点を)皆さんに示したい気持ちもあるが、まだ早い。なぜならば、明日、重要な試合がある。少し(現チームの成績の行方が)落ち着いた段階で話したい」と言った。それにも関わらず、この時期にイベントを行ったのは、広告塔的存在でもある元ドイツ代表FWマリオ・ゴメス来日のタイミングをクラブが逃したくなかったからだ。

 もう1つの理由は、レッドブル側の狙いが、日本の反応を見るための物だったこと。ファンやメディアとクラブの距離感、レッドブル参入に対する温度感、今後の方針を部分的に示し、どの程度の理解や関心があるかを知り、今後の決断や情報開示の方法、タイミングを適切に行うための指針とする考えがあったと見られる。記者会見ではなく、メディアギャザリングといった聞き慣れない名称を用いたのも、これが理由だった。

繰り返された表現に見えた、重視したメッセージ

 説明の際には、何度も同じ言い回しが用いられた。コミュニケーションが大事、ローカルコミュニティを大切にする、築き上げてきたものをリスペクトする……。マリオ・ゴメスTDは、レッドブル傘下となり、ドイツの5部から1部へ駆け上がったRBライプツィヒの名前を挙げながらも「その通り(同じよう)にやればいいわけではない。尊敬を持ってやりたい。日本の文化、習慣を理解しながら進めたい」とも話した。

 レッドブルが伝えたかったことは、一方的に急速な変化を起こさない、だから新たな形を一緒に歩んでほしいというメッセージだ。「クラブが成長するために何が必要か、何をしていくべきかを話し合いながら、ともに進めていきたい」とも話したフィリップは、レッドブルグループを紹介する際に、60種類の異なる競技で800人の選手をサポートしていると言った。その経験から、急速な変化を求めれば、要らぬ衝突や摩擦を生み、改革が遅れることを知っているのだ。

育成部門は念入りに調査、静かに始まっている改革

新しい運営会社RB大宮の代表取締役にもなった、原博実フットボール本部長 【平野貴也】

 レッドブルは、株式譲渡を行った9月以降、各部門の担当者10人以上が入れ替わり立ち替わりでクラブを訪問し、現状の把握に努めている。新会社の代表取締役にもなった原博実フットボール本部長は「トップチームよりアカデミーを多く訪問して、担当者から現状を聞いている」と明かした。練習環境、学生が通う学校、U-12世代の見極めや選手募集の対象範囲など、細かく調査しているという。

 日本の才能ある選手を発掘し、育成し、世界へと羽ばたかせる。その過程にアルディージャというトップチームがあり、選手だけでなくチームも成長する。その先に浦和レッズとのさいたまダービー復活を含めたJ1での戦いがある。レッドブルが描くイメージどおりに進めば、大宮アルディージャは「翼を授かる」ことになるが、果たしてどうなるか。改革は、慎重な姿勢で静かにスタートしている。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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