MLBポストシーズンレポート2024

「打球初速100マイル超が3球も」大谷らしい“快音”を響かせ、メッツとの初戦を快勝【NLCS第1戦】

丹羽政善

山本由伸の球種がバレていた!?

ドジャース投手陣唯一の左腕となったアンソニー・バンダ。ポストシーズンでは3試合に登板し、無失点の投球を続けている 【Photo by Daniel Shirey/MLB Photos via Getty Images】

 試合後のクラブハウスでは、試合の勢いがそのまま感じられたが、実のところ試合前には、暗雲が漂っていた。

 左内転筋を痛めているミゲル・ロハスが、ロースターから漏れたのは想定内だったが、地区シリーズの第5戦で肋骨の間にある筋肉を痛めたアレックス・ベシアも、ロースターを外れた。結果、ドジャースの左腕は、先発、リリーフ含めてアンソニー・バンダ1人となってしまったのだ。

 幸い、メッツには左打者が3人しかいないものの、バンダだけというのも不安なところ。彼は7月4日まで防御率が1点台だったが、後半に入って打ち込まれる場面もあり、フラストレーションから9月9日のカブス戦で打たれたあと、“固いもの”を叩いて、左拳の外側を骨折した。

 あの時彼は、「本当に恥ずかしい。みんなに迷惑をかけて情けない」とうなだれたが、そうしてケガをして、離脱した期間をどう過ごすかで、その後成長する選手と、そうでない選手に分かれる。バンダにとっては体を休め、頭を整理する上で、貴重な時間となった。復帰後は、レギュラーシーズン、プレーオフを含めて5試合に登板し、無得点。理由を聞くと、「球種がバレていた」と明かした。

「チームから指摘されたが、セットしたとき、スライダーを投げるときは、右足のつま先を2回タップして投げていて、真っ直ぐのときは動いていなかった」

 言われてみれば、相手の反応から「おかしいな?」と思い当たる節があったよう。

 山本由伸もパドレスとの地区シリーズ初戦で撃ち込まれたとき、デイブ・ロバーツ監督が、「球種がバレているのではないか」と口にした。「二塁走者から(握りが)見えるのだろう。それを打者に伝達しているようだ」。

 山本は初回、マニー・マチャドに2ランを許し、三回はザンダー・ボガーツにタイムリー二塁打を許したが、いずれも二塁に走者がいた。山本は第5戦までにその癖を修正したが、バンダもまた、骨折して負傷者リストに入っている期間に癖を直した。

 ちなみに相手は、バンダが癖に気づいたことに気づいているのか? 気づいていないならば、逆にそれを利用できないか?

「どうだろう? それはわからないから、もう動かないようにするだけだ」

 なお、バンダが骨折したのは壁ではなく、ペーパータオルホルダーを拳の外側で叩いたから。不運にもそこに小さな骨があった。

メッツ左腕が明かす、大谷攻略法とは

フィリーズとの地区シリーズ第3戦で先発した、メッツのショーン・マナイア。7回を投げて被安打3、奪三振6、失点1と好投した 【Photo by Elsa/Getty Images】

 話を試合に戻すと、大谷は四回1死一塁で打席に入り、右翼フェンス直撃のヒットを放った。相手のミスもあって一塁走者が生還。5対0となると、ここでほぼ試合が決まった。

「弾道が低かったので(外野の頭を)越えてくれないかな、という気持ちで見ていたけど、しっかり越えてくれた」と大谷。パドレスとの地区シリーズでは、打球初速100マイル以上の打球が2球しかなかったが、この試合だけで3本を記録し、久々に彼らしいバットの音を聞いた。

 明日について大谷は、「今日みたいに常に点を取れるわけではないですけど、自分たちのオフェンスの仕事ができれば、しっかり点は取れる。そこに全力で集中していきたい」と話したが、メッツの先発マウンドに上がるショーン・マナイアは、どう大谷を攻めるのか。

 4月に対戦した時の攻防は、以下の記事を参考にしてほしいが、マナイアは「インハイが、軸になる」と明かした。
「多分、ホームランにはならない。打たれてもヒット止まり。空振り、もしくはファールでカウントを稼げる可能性が高い。早いカウントで投げてストライクを取れれば、優位に立てる」

 記事の中では、その理由についてデータで捕捉したが、「カウントを稼いで、最後はやはり外角低め。右投手ならチェンジアップ。左投手ならスライダー」とマナイアは仕留め方まで明かしてくれた。ただ、その攻めには問題があった。大谷は今年、外角低めのボールになるスライダーを振らなくなったのである。結果、マナイアは大谷にタイムリーを許した。
 
 では明日、マナイアはどう大谷を攻めるのか? マナイアは前日会見で、大谷について話をしたわけではないが、「4月の自分と今の自分、どう違うか?」と聞かれて、こう話した。

「球種は変わらない。でも、メカニックはちょっと変わったかな。何より、自信がついた。それが一番大きい」

 これまで何度か紹介しているが、左投手が外角低めにボールになるスライダーを投げたあと、外角いっぱいにシンカーを投げれば、後半の大谷は見逃す傾向が高い。

 マナイアは、そのシンカーを得意とする。スライダーをどこで使い、どうシンカーでフィニッシュするか。2人の対決は、そこに注目してみたい。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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