富永啓生『楽しまないと もったいない』

人生最高のシュートを経験した富永啓生 カリーとの奇跡のような出来事も「僕の旅はまだ終わらない」

ダブドリ編集部

【Photo by Steven Branscombe/Getty Images】

 パリ五輪では3試合でわずか8分の出場と不完全燃焼に終わった富永啓生。しかし、富永にとってこれは初めての挫折ではなかった……。

 2018年のウインターカップで得点王に輝いた富永は、高校卒業後に活躍の場をアメリカに移した。レンジャー・カレッジでの活躍が認められ、2021年にはNCAAディビジョンIのネブラスカ大学へ転入する。しかし、このネブラスカ大学の1シーズン目に、キャリア初のローテ落ちを経験することになるのだった。

 ネブラスカ大学での3シーズンを軸に家族との絆やワールドカップなど思い出を振り返る富永の自叙伝『楽しまないと もったいない』には、1シーズン目の挫折からエースとしてチームをNCAAトーナメント出場に導いた3シーズン目の活躍に至る過程が赤裸々に綴られている。

 パリ五輪での経験をバネに、夢であるNBA入りを達成する。そんな富永の姿を信じたくなる一冊だ。

 この連載では、同書の中から富永の成長の過程とそれを支えた考え方を紹介していく。

人生最高のシュート

 高いアーチを描いてゴールに向かった。

 スウィッシュ。

 残り9.1秒、強豪パデューに追いつく同点弾だ。

 満員のピナクル・バンク・アリーナが沸き上がる。僕は大歓声を浴びながら走り、拳を振り上げ、そして叫んだ。

 強豪相手に残り数秒で追いついたということでプレーの価値も高かったと思うが、何より一万四千人を超えるお客さんをあれだけ熱狂させることができたという意味でこれまでの人生で最高のシュートだったと思う。

 もちろん試合に勝っていればなお良かったが、この試合はオーバータイムで力尽きてしまった。次に人生最高のシュートを更新するときは、ウイニングショットを決めたいものだ。

積極性でなく「読み」で増えたシュート数

 前号(Vol.16)のダブドリに載った開幕戦後のインタビューで話した通り、今シーズンのネブラスカは昨シーズンとは全く別のチームに生まれ変わった。今シーズンのメンバーを紹介しよう。

 まず、ポイントガードのサム・グリーセルは201cmの大型ガードだ。地元リンカーン出身で、シニア(四年生)となる今シーズン、トランスファーで地元に戻ってきた。サイズを活かしたディフェンスとリバウンド、そしてリバウンドからのボールプッシュは昨シーズンのネブラスカに無かった大きな武器となっている。リーダーシップがあり喋りも達者なので、記者会見によく呼ばれる。負けた試合でもコメントを求められることが多いから少々気の毒だ。

 シューティングガードのエマニュエル・バンドーメルはオフコートとオンコートでキャラの差が激しい。普段はチームで一番おちゃらけているが、一旦コートに入ると他の選手には無い気合の圧のようなものを放ちだす。コーチの席に座って、コーチの代わりにチームメイトに発破をかけたりすることもある。プレー中もアグレッシブで、チームプレーヤーが多い今シーズンのネブラスカの中では最も一人で仕掛ける回数が多い。

 パワーフォワードのジュワン・ギャリーは、日本人がステレオタイプとして想像するような、映画に出てくるタイプの「ザ・アメリカ黒人」だ。面白くてノリがよく、筋骨隆々で跳躍力もある。能力の高い選手がいないネブラスカでは貴重な存在だ。
 この新規加入の三人に加えて、昨シーズンからいたシューターのC.J.ウィルチャーとセンターのデリック・ウォーカーの五人がシーズン前半はスタートで出ていた。

 ベンチに目を向けても、ルーキーながら堅実なプレーが持ち味のジャマーカス・ローレンスを筆頭にいい選手が揃っている。

 昨シーズンは個人技が上手い選手が二人いたが、その二人でボールが止まってしまい思うように勝てなかった。今シーズンは突出した選手がいない代わりに全員がチームファーストなので、ボールがよく回るしディフェンスの統率も取れている。

 こういうメンバーだからこそ、あのパデュー戦のシュートが生まれたと言っても過言ではない。ああいった土壇場でも個人技に頼らずにコーチのコール通りに動くことができた。

 ところで、シュートのアテンプト数が少ない試合があるとよく勘違いされるので伝えたいことがある。アテンプト数と積極性はあまり関係が無い。シュートを打てない時は積極性が足りていないのではなく、打つ前の動きに問題があるのだ。

 昨シーズンのようにチームでボールを回すことができず1on1を繰り返すようなバスケットボールの場合は別だが、今シーズンのようにボールが回るチームでシューターが打てないのは、ディフェンスの動きを読めていないからだ。マークマンの癖、ヘルプのルール、トラップの場所。シューターはそういった情報を頭に叩き込んでから試合に向かう。

 読みが冴えている試合では、スカウティングの情報を元にマークを外してスリーポイントを打つことができる。相手をフェイクで飛ばしてドライブすることができる。スリーポイントを警戒する相手の逆をついて、カッティングから簡単にレイアップを決めることができる。

 読みが冴えない試合は真逆だ。マークを外して気持ちよくスリーポイントを打つことができない。スリーポイントが決まらなければカウンタードライブやカッティングの威力も半減してしまう。

 基本的に僕はこの読み合いが得意だ。今シーズンはチームメイトに恵まれた上にNCAAのレベルにも慣れたので、ディフェンスの裏をかいたドライブやカッティングでの得点が増えた。ツーポイントをコンスタントに取ることができれば、スリーポイントを狙うのもより易しくなる。この相乗効果が、僕が今シーズン平均得点を5・7点から13・1点まで増やした理由のその一である。

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著者プロフィール

異例の超ロングインタビューで選手や関係者の本音に迫るバスケ本シリーズ『ダブドリ』。「バスケで『より道』しませんか?」のキャッチコピー通り、プロからストリート、選手からコレクターまでバスケに関わる全ての人がインタビュー対象。TOKYO DIMEオーナーで現役Bリーガーの岡田優介氏による人生相談『ちょっと聞いてよ岡田先生』など、コラムも多数収載。

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