富永啓生『楽しまないと もったいない』

人生最高のシュートを経験した富永啓生 カリーとの奇跡のような出来事も「僕の旅はまだ終わらない」

ダブドリ編集部

憧れのカリーから来たリプライ

 理由の二つ目は、シーズンの途中で生まれた。

 怪我によるローテーションの変更で出番が増えたのだ。

 今年1月10日のイリノイ戦でジュワンが肩を、21日のペン・ステート戦でエマニュエルが膝を負傷し、立て続けに二人の主力選手が戦線離脱を余儀なくされてしまった。

 ジュワン負傷直後のパデューとの再戦で16点と調子の良かった僕は、18日のオハイオ・ステート戦でC.J.の代わりにスタートに昇格した。以来、1月31日のイリノイ戦以外はスタメンでの出場が続いている。

 コーチごとに好みの組み合わせ、好みのローテーションは違う。

 ジュワンにしろエマニュエルにしろ、どちらも体が強く身体能力に優れ、ディフェンスを得意とする選手たちだ。ディフェンスを安定させたいから彼らをスタートで起用するというのは、理解できる。

 しかし、僕には僕にしかできないものがある。ここまで読んでくれた皆さんは、すでにおわかりだろう。シュートだ。

 これまでネブラスカで僕に与えられてきた役割は、ベンチからの起爆剤となることだった。特に昨シーズンの後半は、最初のシュートが入るかどうかで出場時間が大きく変わった。一本目が決まれば続けて使われるが、外れればすぐに交代させられた。今シーズンは昨シーズン後半ほどシビアではなかったが、それでも出場時間が30分を超えることは無かった。

 その状況が、ジュワンとエマニュエルの怪我で一変した。

 エマニュエル離脱直後のノースウェスタン戦からすぐに今シーズン最長の33分という出場時間を与えられると、僕は22得点でチームのスコアリングリーダーになった。

 そして、二月がやってきた。

 2月5日のペン・ステート戦で30得点を挙げてキャリアハイを更新したのを皮切りに、僕は五試合連続で20得点以上を記録した。これは次のドラフトで指名を確実視されているパデューのイディやインディアナのトレイス・ジャクソン=デイビスといったトッププレーヤーたちと並ぶ数字だそうだ。

 コンスタントに試合に出れば僕のシュート力はNCAAの上位校にも通用する。それを証明できたのも良かったが、他にも嬉しいことがあった。まずは僕の得点が勝利に繋がったことだ。この五試合の対戦相手はいずれも同カンファレンス内の大学で、全てネブラスカより順位の高いチームだったが、4勝1敗と大きく勝ち越すことができた。

 自信を持ってディフェンスをプレーできたことも収穫だった。これまでより長い時間プレーしたにもかかわらず、穴になることも的にされることもなかった。ジュワンやエマニュエルのような身体能力が無い分を、うまくバスケットボールIQでカバーしながらチームのルールを遂行することができたと思っている。

 そして最後に、この期間に起きたただ嬉しいでは伝えきれない奇跡のような出来事をシェアしたい。

 2月14日のラトガーズ戦に勝利した後のことだ。カンファレンスの試合を放送しているビッグ10ネットワークが、僕についての短い動画をツイートしてくれた。その際に僕を「ジャパニーズ・ステフ・カリー」と紹介した上で、カリー本人にもメンションしたところ、なんとその投稿にカリー本人が“Love it, Keisei(とても気に入ったよ、啓生)”とリプライをくれたのだ。

 動画はファンに試合の背景を見せるというコンセプトで、ビッグ10ネットワークの中の“The Journy(旅)”というチームが制作している。カリーに憧れて練習に明け暮れた日本の少年が、磨いたシュート力を武器にアメリカで活躍し、カリーにリプライをもらう。まさに旅という名にピッタリのストーリーだ。

 しかし、僕の旅はまだ終わらない。次にカリーと話すのは、ツイッターではなくNBAの舞台になるだろう。

 《注》
 ※1 規定の試合時間
 ※2 手渡しパス
 ※3 ディフェンスがボールマンにダブルチームなどの罠を仕掛けること
 ※4 オフェンスプレーヤーがディフェンスエリアへ切り込むこと

書籍紹介

【写真提供:ダブドリ】

 2018年のウインターカップで平均39.8得点という驚異の数字を残し、大会得点王となった富永啓生選手。

 その後はアメリカ留学を決断し、コミュニティ・カレッジのレンジャー・カレッジを経て、NCAAディビジョンIのネブラスカ大学に転入しました。

 本書はそんな富永選手がネブラスカでの挑戦を軸に、日本代表に懸ける情熱や家族の大切さなどを綴った初の自叙伝となります。

 最終的にはエースとしてネブラスカ大学をカレッジバスケ最高峰の舞台NCAAトーナメントに導いた富永選手ですが、そこまでの道のりは平たんではありませんでした。

 失意に終わった加入初年度から翌年の躍進の裏で何が起きていたのか。エースとなった最終学年に、どのようにして全米1位のパデュー大学を倒したのか。こうしたアメリカにおける成長物語と、幼少期やウインターカップ、ワールドカップなどのエピソードが交差することで、天才シューター富永啓生の思考を立体的に理解することができます。

 日本人4人目のNBA選手となることが期待される富永選手を、より深く知ることのできる本書。バスケファン必読の1冊です。

出版社:株式会社ダブドリ

2/2ページ

著者プロフィール

異例の超ロングインタビューで選手や関係者の本音に迫るバスケ本シリーズ『ダブドリ』。「バスケで『より道』しませんか?」のキャッチコピー通り、プロからストリート、選手からコレクターまでバスケに関わる全ての人がインタビュー対象。TOKYO DIMEオーナーで現役Bリーガーの岡田優介氏による人生相談『ちょっと聞いてよ岡田先生』など、コラムも多数収載。

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