卓球男子団体のメダル逸に倉嶋洋介も沈痛 「世界で勝てる日本のスタイルの構築を」

田中凌平

世界の戦いは気持ちの強さが勝敗を分ける

後がない第3試合に見事勝利した戸上(右)。自身の成長ぶりを大舞台で見せつけた 【写真は共同】

 戸上選手の第3試合は、ダブルスも張本選手のエース対決も落としていたので、吹っ切れて臆することなく冷静にプレーできていたように思えます。国際大会で戸上選手はアレクシ・ルブラン選手に負けているのでリベンジマッチとなりましたが、この日は戸上選手らしい力強いドライブが決まっていました。

 戸上選手は攻撃の意識が強すぎて打ち急いだ結果、ミスして自分から崩れてしまうこともあります。序盤はよかったのですが、後半にアレクシ・ルブラン選手が一球一球異なる種類のサーブを出してきたことで、レシーブで崩される場面がありました。しかし、そこを我慢して自分のペースに再度持っていけたことは素晴らしかったです。大舞台で成長ぶりを見せてくれました。

 第5試合は世界ランキング42位の篠塚選手と世界ランキング5位のフェリックス・ルブラン選手の試合でした。実力差はありますが、団体戦の緊迫した場面では、世界ランキングはもはや関係ありません。“どれだけ強い気持ちで戦えるか”が重要です。

 その中で篠塚選手は1・2ゲームで圧倒されてしまい、なかなか自分のペースで試合ができませんでした。3ゲーム目から徐々に篠塚選手の力を出せてきたのですが、ダブルスと同様に最初からアグレッシブに攻める必要がありました。

 篠塚選手はサーブがうまい選手で、サーブを活かして攻撃を組み立てることができます。しかし、先に打ち込まれると“受け”に入ってしまうので、相手の球をカウンターして打ち返す力が今後は必要です。まだ体も完成されておらず、パワーがつけば十分に世界レベルに達するポテンシャルのある選手なので、今後に期待しています。

日本の持ち味を磨き“世界で勝てる卓球”を

胸を張っていい戦いぶりだったが、この舞台で再びメダルを獲得するためには改革も必要だ 【写真は共同】

 今回の男子団体の選手は歳が近いいわば同世代の選手たちなので、それぞれ性格は違えど関係性はよかったと思います。田勢邦史監督は私が代表監督をしていたころにジュニアの監督をしていました。なので、今回の3選手はジュニアのときから田勢監督に面倒を見てもらっています。前回の東京五輪からの3年間だけでなく、もっと長い時間を過ごしているので信頼関係も構築できていました。

 張本選手は今回の試合後に周りの人への感謝を述べていました。スポーツ選手がすべてを出し切った時は感謝の気持ちしか出てこないので、「本当にやり切ったんだな」と思います。 日本はどんどん若い選手が台頭してくるので、4年後のロサンゼルス五輪でも張本選手がエースとは限りません。また団体戦でメダルを獲得するためにも、日本の選手には“世界で勝てる”卓球を目指してほしいですね。

 日本人は小柄で海外の選手と比べるとパワーもありません。日本が勝てたのは、“早い”卓球ができていたからです。相手に時間を与えない卓球が日本の持ち味なので、早さを中心にして選手独自のパワーや技術などを組み合わせて、攻める卓球を構築することが求められます。これからの4年間をかけて、また“強い卓球ニッポン”の姿を見せてほしいですね。

倉嶋洋介(くらしま・ようすけ)

【本人提供】

名門・明治大学を卒業後、協和発酵に入団。全日本選手権では2001年大会で混合ダブルス優勝、02年、04年、05年大会では男子ダブルス優勝の実績を残す。現役引退後の07年から母校・明治大学のコーチに就任し、水谷隼選手らを指導。10年には卓球男子日本代表のコーチを務め、12年には監督に就任した。16年のリオデジャネイロ五輪では日本男子卓球界初の五輪銀メダルをもたらし、東京五輪でも団体銅メダルを獲得。現在はTリーグの強豪・木下マイスター東京の監督を務めている。

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著者プロフィール

東京都出身。フリーライター。ラグジュアリーブランドでの5年間の接客経験と英語力を活かし、数多くの著名人や海外アスリートに取材を行う。野球とゴルフを中心にスポーツ領域を幅広く対応。明治大学在学中にはプロゴルフトーナメントの運営に携わり、海外の有名選手もサポートしてきた。野球では国内のみならず、MLBの注目選手を観るために現地へ赴くことも。大学の短期留学中に教授からの指示を守らず、ヤンキー・スタジアムにイチローを観に行って怒られたのはいい思い出。

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