女子バレー日本代表、予選リーグの分岐点 元キャプテン荒木絵里香が悔やむ「あと1点」

田中夕子

オリンピックでしか得られない経験

古賀にとってはケニア戦が現役最後の試合になる可能性が高い。だが、たとえパリ五輪がこれで終わっても、荒木さんは「まだプレーする姿を見たい」と願う 【写真は共同】

 東京オリンピックから3年という限られたなかで、チームとしての進化や成長は誰が見ても感じられたし、確かな歩みもあった。直近でいえば、ネーションズリーグで自分たちの手でパリ・オリンピックの出場権を獲りきれたこと。決勝に進出してメダルを獲ったことは成長の証であり、自信にもなったはずです。

 一方で、ポーランド戦のように勝負所で1点が獲りきれない。そしてブラジル戦のようにオリンピックという舞台でしか感じられない強豪チームの気迫、執念、熱量。他の国際大会とはギアの入れ方が違う、本気度が違うというのも実感したのではないでしょうか。ほかならぬ私自身も、初めてオリンピックに出場した時にまさに痛感させられました。

 今大会は初めてオリンピックに出場した選手も多く、それぞれがそれぞれの形で課題を突きつけられ、さまざまなことを感じるこれ以上ない機会、経験になったはずです。

 今は私自身も「どうやったら勝てたんだろう」「どうしたら勝てるんだろう」ということを考えるばかり、まだ頭の中が整理できていないのですが、オリンピックを経験した選手たちには、そこでしか得られなかった経験があります。

 石川真佑選手や林琴奈選手、これからのチームで中心になっていくであろう選手からつながっていくものがあり、さらに次の世代を担う高校生や大学生、若い選手たちもいる。今回は目指した結果を得られないかもしれないけれど、バレーボールの面白さや魅力は変わらずにあるし、日本代表チームが勝つことによって伝えられることもある。国内に目を向けてもSVリーグが始まる今は、バレーボール界にとっても変革期です。

 変化する時は大きく進めるチャンスでもあるとポジティブに捉えて進んでいくしかない。日本代表の強化という面でも、4年後に必ず結果を出そうと急ぐのではなく、東京オリンピックからパリまで継続して強化してきた男子のように、8年プランでの強化を考えて取り組んでいくのも1つの策なのではないでしょうか。

 そして、もしアメリカの結果次第で日本が準々決勝へ進むことがあっても、道が途絶えたとしても、今大会限りでの引退を表明して臨んだ古賀選手にとっては、最後の大会、最後のオリンピックです。

 私も日本代表で紗理那と一緒にバレーボールをするなかで見てきた姿、彼女自身のプレーはもちろんですが、キャプテンになってからの変化や進化。キャプテンシーはもちろん、チームの中で指示を出したり、自分自身で決めたことに取り組む姿勢。世界のトップレベルの選手になっていく過程に、少しでも携わって同じ時代、同じチームでできたことは大きな学びで、光栄なことでした。

 できることなら彼女が望む形で終わってほしい。今もそう願っていますが、どんな結果であれ、やり遂げたことに素直に拍手を送りたい気持ちと、女性アスリートにも今はいろいろなキャリアの選択肢がある。私はこれからもしつこく「バレーボールはここからが面白くなるんだよ」と彼女に言い続けたいし、まだ彼女のプレーする姿が見たい。キャプテンとして本当によく頑張ってきた姿を見させてもらってきたからこそ、密かに。私の中ではこれからも願い続けようと思います。

(企画・編集/YOJI-GEN)

荒木絵里香(あらき・えりか)

1984年8月3日生まれ、岡山県出身。成徳学園高(現・下北沢成徳高)では高校3冠を経験し、卒業後は東レアローズに入団。ミドルブロッカーとして1年目からVリーグで活躍し、同年に日本代表にも選ばれた。東レにはイタリアでのプレーを挟んで通算9シーズン所属。出産後の2014-15シーズンからは上尾メディックスでプレーを続け、2021年にトヨタ車体クインシーズで選手生活にピリオドを打った。日本代表ではオリンピックに4回出場。2012年ロンドン五輪では主将としてチームを牽引し、銅メダル獲得に貢献した。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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