アンディ・マリー、涙のウィンブルドン 男子テニス界に新旧交代の流れ

秋山英宏

BIG4時代の終焉、主役はシナーやアルカラスら若手に

今年の全仏後、初めて世界ランク1位に立ったヤニク・シナーら、次代を担う若手選手の台頭が目立つ 【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】

 長年のライバルだったナダルも、今季限りでの引退を示唆している。コンディション調整が困難だとしてウィンブルドンは出場を回避。パリ五輪は過去に14回も優勝した全仏と同じローランギャロスが舞台とあって、おそらく最後となる五輪にすべてを懸けている。

 ジョコビッチは6月の全仏で右ひざを負傷、ウィンブルドンの出場は困難と思われたが、手術が成功し、驚異的な回復力で出場を果たした。大会は、シングルスのドローにBIG4が1人も出場しないという事態を辛うじて免れた。ただ、マリーの功績を称えるセレモニーは、BIG4の時代が終わろうとしていることを強く印象づけるものとなった。4人の輝きがとりわけまぶしかっただけに、次にどんな時代が来るか、ファンには気になるところだろう。

 幸い、20代前半の若手2人、ヤニク・シナー(イタリア)とカルロス・アルカラス(スペイン)が、男子テニスを支える屋台骨に育ってきた。世界ランク1位のシナーは今年の全豪で四大大会初優勝を飾り、全仏でもベスト4に入った。その全仏の準決勝でシナーを破り、決勝でも勝って初めて頂点に立ったのがアルカラスだ。四大大会では22年全米と23年ウィンブルドンで優勝経験がある。

 スタイルは異なるが、両選手とも高速の、回転量が豊富で相手に反撃を許さないストロークを操る。俊足も共通点。したがって、堅固な守備と、どこからでも仕掛けられる攻撃力を両立させている。過去のレジェンドは、フェデラーならスピード、ジョコビッチなら攻守の切り替えや駆け引きの巧みさなど、並外れた長所によって世界に君臨した。しかし、シナーとアルカラスは欠点がなく、しかも他を凌駕(りょうが)する点が複数ある。2人のプレーは男子テニスの戦い方を変えるだろう。勝ち続け、経験を重ねることで、BIG4が持っていたカリスマ性も身につけるのではないか。

 22年のマドリード大会でアルカラスに敗れたナダルはこう話した。

「彼は19歳で僕は36歳。もちろん、バトンは渡る。予想外のことが起きたわけではない。落ち着いて、平穏に、自然にこれを受け入れたい」

 事実上の後継者指名だった。また、アルカラスのコーチであるフアンカルロス・フェレーロは、アルカラスが四大大会初優勝を果たした22年の全米で、「僕が見た限り、シナーとカルロスは今後10年ほどツアーを支配できるのではないか」と話した。

 フェデラーが去り、ジョコビッチはそのプレー同様、粘り腰を見せているものの、マリーとナダルは現役の最終章を迎えている。男子テニスは新旧交代のときを迎えた。だが、BIG4が去っても男子テニス界から輝きが失われることはないだろう。

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著者プロフィール

テニスライターとして雑誌、新聞、通信社で執筆。国内外の大会を現地で取材する。四大大会初取材は1989年ウィンブルドン。『頂点への道』(文藝春秋)は錦織圭との共著。日本テニス協会の委嘱で広報部副部長を務める。

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