週刊MLBレポート2024(毎週金曜日更新)

データが示す大谷翔平の「明らかな不調」 たどり着いた“とてもシンプル”な結論とは?

丹羽政善

大谷の球種別打撃成績(2021年~23年)

【MLB.comで紹介されていたデータをもとに筆者作成】

【指標解説】
Fastballs:4シーム、2シーム、カッター
Breaking:カーブ、ナックルカーブ、スローカーブ、スライダー、スラーブ、スイーパー、ナックルボール
Offspeed:チェンジアップ、スプリット、フォーク、スクリューボール
wOBA:1打席あたりで、選手がどれだけ得点増加に貢献したかを表す指標。平均が.320。.400を超えたら別格レベル

今季、これらの数字がどうなったか、もう少し項目を増やして比較してみた。まずは21年〜23年の3シーズン分。

大谷の球種別打撃成績(左右投手別/21年~23年)

【Baseball savantをもとに筆者作成】

 確かに真っ直ぐ系には強いが、変化球になると打率、長打率が下がり、空振り率も上がる。では、今年前半の3月20日から5月15日まで、ちょうどMLB公式ページで特集が掲載された頃はどうだったか。

大谷の球種別打撃成績(左右投手別/24年3月20日~5月15日)

【Baseball savantをもとに筆者作成】

 21年~23年と比べて上がった数字は赤、下がった数字は青で示した。弱点と指摘されていた変化球の打率、長打率、空振り率などが軒並み改善されていた。MLB公式ページの指摘通りである。

 では、その後どうなったか。5月16日〜6月10日のデータを見ると、これまたわかりやすく、変化球どころか真っ直ぐ系の数字もダウン。バレル/打席の割合に至っては、変化球すべて0%だった。

大谷の球種別打撃成績(左右投手別/24年5月16日~6月10日)

【Baseball savantをもとに筆者作成】

 相手の攻め方が変わったのか。つまり、配球が変わったのかをまずは確認したが、極端な差は見られなかった。ということは、コースか? それは詳しく調べるまでもなかった。大谷の試合を見ている人なら、誰もが気づいていたのではないか。ボール球に手を出す傾向が顕著となっていたことに。

 2枚の図を見てほしい。左が3月20日から5月15日まで、右が5月16日から6月10日まで、そのコースを振った割合が示されているが、全体的にボール球に手を出す確率が高くなっていることが分かる。高めと内角は特に高い確率となっていた。

大谷のコース別スイング率(左:3月20日~5月15日、右:5月16日〜6月10日)

【参照:BrooksBaseball.net】

 整理すると、3月20日から5月15日までボール球を振ったのは26.3%。一方、5月16日から6月10日までは38.8%。10%以上も増えていた。

 大谷の打撃の根幹は「構え」である。本人が言う。

「8割5分くらい構えで決まっている。構えがしっかりした方向で力が伝わっていないと、いい軌道に入っていかないですし、同じように振っていても、最初の構えの時点で間違った方向に進んでいると、いい動きをしてもいい結果につながらないものかなと思うので、一番は構えが大事」

 そして次に意識するのが、「ストライクを振って、ボール球を見逃すこと」だという。

「カウントに関わらず、一番基本的なところで、一番難しいところなので、レベルが高くなればなるほど、ストライクでもファールになる確率も高くなりますし、なおさら、ボール球を振ってしまったら、それだけ率が低くなるのではないかなと思うので、一番は自分が打てるストライクの球をしっかり振っていく。それができれば、必然的にハードコンタクトの率も高くなっていくのかなとは思います」

 もちろん、大谷も分かっていたのだろう。6月11日の試合で大谷は本塁打を放った。しかし、それ以上に2つの四球を選んだことが、どんな意識で打席に入っているかを伺わせた。翌12日もホームランを打ったが、ボール球を振ったのは、2試合で23球中、3球だけだった。

 さて、大谷に復調の兆しが見えてきたわけだが、この1週間から10日間、様々なデータと映像を確認し、あれこれと仮説を立ててみた。そこでたどり着いた結論が、シンプルに「ボール球を振っている」だったが、やはりスポーツ・イラストレイテッドのジンクスには、裏もあるのである。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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