世界1位や渋野ら多くの選手を指導した トレーナー・斎藤大介氏が語る日本ゴルフ界の課題
グローバル化の遅れは日本社会全体が考えなくてはならない深刻な問題
斎藤氏はトレーナーとしてだけでなく、日本社会のこれからにも懸念を示す。「海外のトレーナーたちはアジアの小さな街のジムのトレーナーでも英語を話し、最新の英語圏の情報を迅速に取り入れている。一方で日本は、いい意味でも悪い意味でも国内で全てが完結してしまう。これはトレーナーだけでなく、日本のあらゆる分野の問題で、結果的に日本人は外(海外)の情報に鈍感な人が多い」と語る。
選手に対しても厳しい。「日本の選手は英語を喋らない選手が多い。2016年から米国女子ツアーに行って感じたのは、韓国の選手はみんな英語も学んでいて、自立しようという選手が多いこと。2019年に全米女子オープンを制したイ・ジョンウン6は2018年はほとんど英語を喋れなかったが今ではペラペラ。努力をしているし、ゴルフの成長のためにも英語を身につけることは重要だと考えている選手が多い。韓国人選手の活躍を見て分かる通りゴルフでも結果が出ている」と話す。そして、「そもそもプロゴルファーは一日中練習ができるわけでもないので、一般的な社会人に比べて時間はたっぷりとある。その時間を使ってゴルフの成長のためにも、他国の選手のように英語を勉強すべき」と強調する。
全米女子オープンを制したイ・ジョンウン6(写真中央) 【写真:斎藤氏提供】
若手の成長機会を奪いかねない現在の制度
「都玲華選手はまだプロテストには受かっていないが、今年4月、アマチュアとして参加したステップ・アップ・ツアーで優勝した。アマチュアのままでいると推薦でプロの試合に出られるので、最近はプロテストに落ちるとアマチュアのままでいる選手が増えている。また、同じくプロテストには受かっていない荒川侑奈選手が、日本のステップ・アップ・ツアーと台湾ツアーの共催の試合で10位に入った。荒川選手はプロ宣言をしたので日本のツアーは出られないが、台湾のツアーの出場資格を得てしっかりと結果を残している。ツアーで戦える力があってもプロとして日本のトーナメントに出られない現状は、若い選手の成長の機会を奪っている」と話す。
この2人の選手のようにツアーで戦える実力がありながらも、プロテストに通過できない事例は数多くあるそうだ。「ゴルフは1年を通して非常に波のある競技であり、たった1週間で行われるプロテストでわずか20名しか通過できない現在の制度は、トレーナーの視点から見ると非常に厳しいものです。今の制度と以前のような単年登録で全員にチャンスがある制度とを比較すると、後者の方が競争によってツアーのレベルが上がることは明らか」と斎藤氏は主張する。
一流になるために重要なことは
また、昨今ではAIや翻訳ソフトも充実しているが、「人と人とのコミュニケーションには血が通ってなかったら面白くない。アスリートは人間味のある人が多く、海外でもコミュニケーションを非常に大切にしている人が多い。だから下手でも英語で話すことが重要」と語る。
なお、斎藤氏自身は元々英会話が得意であったわけではない。「28歳の時にオーストラリアに行ったが、そこから英語を始めた。環境を変えなくてはダメだと思ってホームステイをしてしゃべっているうちに覚えたっていう感じで、読み書きは苦手だが、仕事に必要な聞くことや喋る英語力は身についている」と話す。
日本人が遠くフロリダのPGAショーまで出向いていく現状が悔しい
斎藤氏がいう地球人としての視点を持ち、グローバルに活躍するトレーナー、そしてゴルフ業界人がもっと増えることで、日本のゴルフ界もさらに発展していくであろう。「日本人も世界に行ったらもっと活躍できる場所があると思うし、逆にもっと優れた日本人が海外で出てきて良いと思う。海外の人は、国を超えてコミュニケーションをとっている人が多い。日本人もそのような姿勢を見習うべきだ」と斎藤氏の主張は最後までブレることはなかった。彼のビジョンは、ゴルフ界にとどまらず、あらゆる分野で日本が世界で躍進していくための道標となる。
斎藤大介 (さいとう・だいすけ)
2010年よりトレーナー活動を開始。2014年に独立渡豪し、名門Ank ゴルフアカデミーのトレーナーとして、経験を積む。2016年からはアメリカに拠点を移し、リディア・コ、イ・ジョンウン6、パク・ソンヒョンなど海外メジャー優勝者と契約し、アメリカ女子ゴルフツアー(LPGA)通算16勝を挙げる。
拠点を日本に移した2020年に、渋野日向子選手と専属契約。2023年には埼玉県越谷市にある「越谷ゴルフリンクス プライベートスタジオ」をオープンし、ツアーに帯同するのではなく、選手に来てもらうスタイルに変更した。