週刊MLBレポート2024(毎週金曜日更新)

メッツ左腕が語る今季の大谷攻略の軸は「インハイ」 配球から見える高打率の理由とは

丹羽政善

今季の大谷が振らないコースとは?

マネイア対大谷、五回の3打席目 【参照:Baseball Savant】

① スイーパー/空振り/78.7マイル
② スイーパー/ボール/80.7マイル
③ チェンジアップ/ファール/86.6マイル
④ スイーパー/ファール/80.2マイル
⑤ チェンジアップ/ボール/87.5マイル
⑥ スイーパー/右前適時打/78.6マイル


 これを見ると、1球もインハイがない。ちなみに2打席目もゼロ。スイーパー、シンカー、4シームを投げているが、すべて外角である。1打席目も、すっぽ抜けのスライダーが1球だけ大谷の胸元にいったが、インハイはゼロ。この理由を問うと、マネイアは苦笑しながら言った。

「正直にいえば、左打者の内角高めに投げるのが怖い。自分の真っすぐは抜けることが多いから、当ててしまうんじゃないかと思ってしまうから」

 ということは、大谷には投げにくかった?

「投げにくいよ。左打者の内角高めに投げられないということは多分、大谷も知っている。しっかり踏み込んでくる。五回の打席では、初球のスイーパーが真ん中に入った。ヒヤッとしたよ」

 その五回の打席では、その後も変化球を続けた。

「4球目、外角低めにいいスイーパーがいった。でもあれをファールされた。引っ掛けてくれたら最高だったんだけど。最後の球は高めに浮いた分、角度をつけやすかったんだと思う」

 その4球目の外角低めのスイーパーだが、決して悪いコースではない。2球目も決して悪くない。配球の組み立てとしては、彼がすでに口にしたように、予定通り。しかし、2球目を見逃され、4球目をファールされたことで、マネイアは苦しくなった。

 おそらく、昨年までならどちらかで打ち取れていたのではないか。4球目で空振り三振を取れていたかもしれない。しかし今年、大谷はその外角低めのボールを、そもそも振らないのである。

 まずは、今年のボール球を振ったコースを示すと、外角低めをほとんど振っていないことがわかる。

今年、大谷がボール球を振ったコース(4月21日試合終了時点) 【参照:Baseball Savant】

 次に左投手がボール球を投げたコース(下図左)を示すと、ストライクゾーンを外すなら、外角低めに徹底されていることがわかる。では、その左投手の外角低めの球をどれだけ振っているのか?(下図右) これを見ると、振っているのは1球だけだ。

今年、左投手が大谷にボール球を投げたコース(図左)と、その球をスイングしたコース(いずれも4月21日試合終了時点) 【参照:Baseball Savant】

 昨年はどうだったのか?

 図左が、左投手が投じた全ボール球のコースだが、外角低めのボール球の多さは一目瞭然だ。その左投手のボール球をどれだけ振ったのかを見ると、やはり結構振っていることがわかる。

昨年、左投手が大谷にボール球を投げたコース(図左)と、その球をスイングしたコース 【参照:Baseball Savant】

 その外角低めのボール球を振った割合を計算してみると、昨年は16.3%。今年は0.5%だった。

 外角低めのスライダーを振らせたい左投手。振らない大谷。ボールとなって苦しくなるのは相手。カウントを悪くして、ストライクゾーンへ。これを大谷が捉えれば、自然と打率が上がる。

 マネイアとの3打席目——タイムリーを放った打席は、今季の大谷を象徴するような打席だった。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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