井口資仁『井口ビジョン』

井口が現役引退まで貫いた「チームのために戦う姿勢」 引退試合では野球の神様から届いた労いも

井口資仁
 高校では甲子園出場、大学では三冠王と本塁打新記録。

 プロ野球では日本一、メジャーリーグでは世界一を経験し、ロッテ監督時代は佐々木朗希らを育てた。

 輝かしい経歴の裏には、確固たる信念、明確なビジョンがあった。ユニフォームを脱いで初の著書で赤裸々に綴る。

 井口資仁著『井口ビジョン』から、一部抜粋して公開します。

史上最大の下剋上

【写真は共同】

 2010年になるとバレンタイン監督の下、ヘッドコーチとして選手とのパイプ役を務めていた西村徳文さんが新監督に就任しました。チームスローガンに掲げたのは「和」。それまでの経緯、そして西村監督の人柄を考えると、これほどピッタリなスローガンはなかったでしょう。

 新体制となったチームは、開幕前の下馬評に反して好スタートを切りました。交流戦を迎える頃には怪我人が続出して勢いは半減しましたが、ペナントレースはなんとか3位に滑り込んでクライマックスシリーズ(CS)に進出。すると、ここから快進撃が始まったのです。

 ファーストステージは西武を2連勝で撃破。ファイナルステージではソフトバンクを相手にアドバンテージを含む1勝3敗と追い詰められるも、第4戦から3連勝で逆転勝利。日本シリーズでは中日を4勝2敗1分で下し、5年ぶり3度目の日本一となったのです。2007年にCSが始まってから3位のチームが日本一になったのは初めてのこと。「史上最大の下剋上」は大フィーバーとなりました。

 この時、負けたら終わりという短期決戦で、チームが見せた集中力の高さは凄まじいものがありました。2005年に2位から日本一になったこともあり、「ロッテ=下剋上」というイメージが浸透。チーム内でも「俺たちには下剋上がある」という雰囲気が生まれました。後ほど詳しくお話ししますが、僕はこの「下剋上」という言葉が好きではありません。はっきり言えば嫌いです。下剋上があるという、どこか心の保険にも似た思いが、この後にチームが低迷する最大の理由だったと思うからです。

 下剋上から一転、翌年はリーグ最下位に終わったチームは、そこから試練の時を迎えます。2013年には西武の黄金期を支えた名捕手、伊東勤さんが新監督に就任。たびたびCSに駒を進めるものの、リーグ3位の壁は破れませんでした。

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