井口資仁『井口ビジョン』

前年最下位チームを率いた井口監督1年目の収穫と課題 ゼロからの土台作りとトレード戦略の意図とは

井口資仁

積極的にトレードを実施した理由

 2018年7月26日、監督就任後初めてのトレードを実施しました。日本ハムから俊足の外野手・岡大海を獲得し、その代わりとして左腕・藤岡貴裕を送り出しました。その他、巨人から澤村拓一の獲得などを含め、監督を務めた5年間で計六度のトレードを実施しましたが、かなり積極的だという印象を持つ人も多いでしょう。

 日本ではまだ、トレード=不要だから放出、というイメージが強いかもしれません。しかし、僕はトレードこそ、選手が輝くチャンスを得られる素晴らしい制度であり、積極活用するべきだと思うのです。

 僕自身、ホワイトソックス時代に球場で試合に向けて準備をしていたら、突然トレードを言い渡された経験を持っています。先にも触れた通り、当初はひどく傷つきましたが、優勝のために必要な戦力だと僕を求めてくれたフィリーズでは、新たなチームメートと出会い、ホワイトソックスとは違う野球観の中で、優勝争いを繰り広げる楽しさを味わいました。メジャーではトレードは決してネガティブなものではなく、むしろ必要とされる場所でプレーできる好機だと考えられていたのです。

 ロッテと契約し、日本球界に復帰した後でよく目に留まったのが、いわゆる〝飼い殺し〟状態になってしまった選手たちでした。才能があるにもかかわらず、所属チームの構想にハマらず、二軍でくすぶっている選手たち。他のチームに行けば活躍する可能性を秘めているのに、もったいない話ではありませんか。

 そこで僕は監督になってから、他チームの監督や編成トップと球場で雑談する中で「○○選手と××選手をトレードしませんか」と直接交渉をしていました。通常、トレードは球団の編成担当同士が話し合うものですが、最終的には現場のトップである監督の承認が必要となります。であれば、必要な戦力を熟知する監督同士で下交渉をし、事務手続きを編成担当に任せた方が話が早いのです。

 巨人の原辰徳前監督や日本ハムの吉村浩チーム統轄本部長とは、たびたびざっくばらんなトレード交渉を行いました。全員に共通するのは、選手が新たに活躍できる場を見つけたいという思いでした。ロッテを見てもポジションや登録枠の都合で起用する機会を作れず二軍で調整させるしかない選手がいたり、環境が変われば実力を発揮するであろう選手がいたり。くすぶったままでいれば戦力外になってしまいますが、トレードされれば少なくとも、その翌シーズンも現役を続けられるでしょう。その間になんとか活路を見出してほしかったのです。

 ロッテにトレードされてきた6選手は全員、大事な戦力となり、チームの勝利に貢献してくれました。野球選手にとって試合に出られないことほど不幸なことはありません。もっとトレードが活発になり、くすぶったままキャリアを終える選手が減ることを願ってやみません。

書籍紹介

【写真提供:KADOKAWA】

 高校では甲子園出場、大学では三冠王と本塁打新記録。

 プロ野球では日本一、メジャーリーグでは世界一を経験し、ロッテ監督時代は佐々木朗希らを育てた。

 輝かしい経歴の裏には、確固たる信念、明確なビジョンがあった。ユニフォームを脱いで初の著書で赤裸々に綴る。

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