ドジャースキャンプレポート2024(毎週木曜日更新)

「ここまで話すのか」大谷が破った“沈黙”に地元紙記者も驚愕 元通訳・水原氏による賭博問題の“霧”は晴れたか

丹羽政善

「大谷の表情は悲しげでもあった」

ドジャースタジアムのモニターで、声明を発表した大谷の映像を見る報道陣 【Photo by Michael Owens/Getty Images】

 件のESPNの記事では、韓国での開幕戦が行われた試合後のミーティングで、水原氏がすべてを告白し、大谷はそのとき初めて事態を把握したと伝えていた。そんなことがあるのか? との見方が多かったが、大谷はその点について、詳細に経緯を説明している。

「僕がこのギャンブルに関しての問題を初めて知ったのは、韓国の第1戦(20日のパドレスとの開幕戦)が終わった後に行われたチームミーティングのときです。彼は全部英語で話をしましたが、そのとき、僕には通訳がついていなかったので、完全には理解できなかった。でも、なんとくこういう内容だなというのは理解できた」

 そのとき水原氏は大谷に、「ホテルに帰ったあとで、2人でより詳しいことを話したい」と伝えたという。そこですべてを知った大谷は、愕然とした。

「(水原氏が)ギャンブル依存症だっていうのも知らなかったし、彼が借金していることも、そのミーティングの時は知りませんでした」

 その際、借金の返済に自分の口座からお金が送金されたことも知り、こう続けた。

「これはおかしいなと思って、代理人と話したいということで、そこで代理人を呼んで話しました」

 大谷はこう強調した。

「僕は彼の借金返済に同意していませんし、彼にブックメーカーに送金してくれと頼んだことも、許可したことももちろんない」

 その後、危機管理の担当者はESPNに連絡し、記事の差し止めを求めた。代わりに声明を求められると、大谷の弁護士事務所が「巨額の窃盗が行われた」と伝えた。代理人らはドジャースにも連絡。大谷が振り返る。

「ドジャースのみなさんも、代理人の人たちも、自分たちが嘘をつかれていたということを初めて知りました」

 もう、完全に犯罪である。だからこそ弁護士事務所も「巨額の窃盗」というセンセーショナルな言葉を使ったのだろう。

 大谷も含め、代理人など関係者は水原氏に頼りすぎていた。だからこそ、大谷がこう言っていた、代理人がこう言っていた、という水原が通訳することを、疑わなかった。逆に言えば、水原氏はその立場を利用した。

 大谷自身、「盗んだ」、「嘘」という強い言葉を何度か使い、それは怒りの表れでもあったが、大谷、そして水原氏を知るFOXスポーツのベースボールアナリストであるベン・バーランダーは、会見の印象をこう話した。

「冒頭、翔平は一平という名前を使わなかった。さらに、盗んだ、嘘をついた、というストレートな表現を使った。それらは一平を突き放しているようにも聞こえたが、話している表情はどこか悲しげでもあった。そこがせつなかった」

 大谷は会見の最後に、こう吐露した。

「正直、ショックという言葉が正しいとは思わない。うまく言葉で表せない感覚で、この1週間を過ごしてきたので、いまはそれをうまく言葉にするのは難しい」

 もちろん、まだ、不明点はある。

 水原氏に口座へのアクセスの権限を与えていたのか?

 450万ドルが消えたことには気づかなかったのか?

 しかし、大谷が用意したコメントを淡々と読み上げるのではなく、実際、目を落としたのはわずかで、自分の言葉に置き換え、様々な感情をにじませながら話したことで、ひとまず、雑音は止みそうだ。

(本連載は毎週木曜日の更新ですが、大谷翔平選手が発表した声明を受け、急きょ記事を制作、公開しました)

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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