前年優勝校としてセンバツに臨む山梨学院 「連覇」は意識せず「チャレンジャー」の気持ちで

大利実

綱引きを取り入れて握力が10キロ以上アップ

長崎合宿での走り込みや、元ラグビー選手の中原トレーナーの指導のもと取り組んだフィジカル強化など、この冬は徹底的に身体をいじめた。その成果を甲子園の大舞台で見せる 【写真は共同】

 センバツの切符を手中に収めたなかで迎えた冬。

 吉田監督が立てた目標は、「一冬で二冬越す」。

 例年12月は長崎で合宿を組むが、今回はグラウンドから走って30分の場所にある山で走り込み、下半身を中心に鍛え上げた。

「きついトレーニングを乗り越えることで、下半身に安定感が出てきました。みんなで乗り切ったことで、精神的なまとまりが出てきた手応えもあります」(中原主将)

 さらに、中原主将の父・中原正義トレーナーの指導のもと、BIG3(デッドリフト、スクワット、ベンチプレス)でフィジカルを鍛えながら、新たなメニューとして綱引きを導入した。狙いは、「握力強化」にある。握力を高めることで、スイング力を高める。5対5で戦い、多いときは1日100本。綱を引っ張り込むことで、握る力が自然に鍛えられていく。

「1ヵ月で握力が10キロ以上も上がった選手が多い」と、中原トレーナーも驚く成長を見せている。これまで鍛えていなかった分、それだけの伸びしろがあると言えるだろう。体重増にもフォーカスを当て、3人の女子マネージャーが握るおにぎりを練習の合間に食べることが習慣化された。

 中原トレーナーは、社会人ラグビーの名門・東芝で活躍し、現役引退後は明治大や帝京大でコーチを務めた経験を持つ。高校野球に関わるのは初めてだが、「フィジカルの数値が確実に上がっている」と指揮官も絶大な信頼を寄せている。

甲子園で楽しそうに野球をしていた先輩たちのように

「連覇は意識していない」と中原主将(写真)。スローガンにも掲げているチャレンジャーとして1試合、1試合全力で戦い抜く 【写真は共同】

 センバツの初戦は3月20日、対京都外大西。

「甲子園はとにかく初戦。バッテリーが落ち着いて、ゲームに入れるか。昨年もひとつ、ふたつ勝つまでは、私も含めて硬さがありましたから」(吉田監督)

 昨秋のように粘り強く守り、終盤まで接戦に持ち込むことができれば、どんな相手でも勝機は見えてくる。

 キーマンは、エースの櫻田。マウンド上で喜怒哀楽を出さずに、淡々と投げ続けるのが特徴で、秋季関東大会では2試合連続でタイブレークを投げ抜いた。ストレートは球速表示以上のキレがあり、バッターを押し込むことができる。

 好きな言葉は、グラブにも刺繍されている『最高の恩返し』。中学時代に出会い、今も大切にしている言葉だという。

「甲子園という最高の舞台で、結果を出すことが、『最高の恩返し』につながると思っています」

 グラウンドのネット裏には、昨年から続く『俺達はチャレンジャー!』のスローガンが掲げられている。考えたのは吉田部長だ。

「山梨大会や関東大会でいい野球ができていても、甲子園ではなかなか勝てず、指導者も選手も、どこかもどかしい気持ちがありました。常に、チャレンジャーとして戦うことで何かを変えていきたい。その気持ちで日本一になれたので、今年も継続です」

 キャッチボールが始まる前には、中原主将が先頭に立ち、『俺達はチャレンジャー!』と口に出すのがルーティンになった。

「いろんな方に『連覇』という言葉をかけていただくんですけど、意識はしていません。大事なのは、挑戦者の気持ち。ミスや失敗があっても、チャレンジャーだと思っていれば、すぐに切り替えることもできる。去年の先輩たちは、甲子園でも笑顔があふれていて、とても楽しそうに野球をやっていました。自分たちもそういう姿でプレーができれば、結果は付いてくると思っています」(中原主将)

 一戦必勝。挑戦者として全力で戦い抜く。

(企画・編集/YOJI-GEN)

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著者プロフィール

1977年生まれ、横浜市出身。大学卒業後、スポーツライター事務所を経て独立。中学軟式野球、高校野球を中心に取材・執筆。著書に『高校野球界の監督がここまで明かす! 走塁技術の極意』『中学野球部の教科書』(カンゼン)、構成本に『仙台育英 日本一からの招待』(須江航著/カンゼン)などがある。現在ベースボール専門メディアFull-Count(https://full-count.jp/)で、神奈川の高校野球にまつわるコラムを随時執筆中。

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