全日本卓球選手権を6年ぶりに制しパリ五輪へ好スタート 張本智和が「100倍価値がある優勝」と胸を張る理由

大島和人

「100倍価値のある優勝」

日本代表では戸上(左)が頼もしいチームメイトになる 【写真は共同】

 2018年は「挑戦者」の立場だった張本だが今は追われる、研究される立場だ。人気種目の人気選手となれば風当たりが強まり、心なき声が目に入ることもある。多感な若者にとっては「卓外」の試練もあったはずだ。しかし全日本の勝利は、彼がそれを乗り越えつつある証明になる。

「6年前はがむしゃらにただボールだけを見て打っていた少年が、6年間色々なものに巻きこまれました。試合をしているだけなのにそれ以外のものが気になったり、声援が逆に苦しいなと思ったときもあったり、プラスのものをプラスと感じられない時期もありました。疑心暗鬼があったり、自分を信じられないときもありました」

 勢いで勝ち取ったタイトルと、様々な試練を乗り越え、2歳差のライバルとの激闘を乗り越えてつかんだタイトルでは「重み」が違う。張本はこう口にしていた。

「今日は本当にあのときの喜びの何倍もあります。本当に、冗談抜きで100倍くらい価値のある優勝だったと思います」

兄妹でパリへ

 パリ五輪の男子シングルス代表には世界ランキング上位の張本選手、戸上選手が内定している。全日本を終えた彼らは「世界」に向けた準備に入る。

「やはりオリンピックですね。3年前のリベンジですし、何としても(シングルス、ダブルス、団体の)3種目でメダルを取る――。その達成が今年のテーマです。これで選考会も終わりですし、いよいよこの瞬間から世界に100%目を向けられます。今大会は優勝しましたけど、自分が一番努力することを忘れず、そこで油断したら足をすくわれてしまうので、気を引き締めて頑張りたい」

 今回の全日本選手権では15歳の妹・美和選手が女子シングルスで準優勝を飾った。

「試合は見られていないんですけど、1ゲーム目は9-5から逆転されてしまいました。そのゲームを取られて0-4で負けるということは、まだ早田選手の方が強いということです。でもまだ彼女は15歳なので、本当に大成果だと思います。喜んでいい2位ですし、オリンピックの(団体戦/シングルスのメンバーになる)3枠目は妹に出てほしい。兄としてと、男子の1選手として、妹が3枠目にふさわしいと思っています」

 2024年2月16日には韓国・釜山で団体の出場権を懸けた世界卓球が開幕する。

「今年は第5シードとして迎えるので、メダルを取れるか難しい位置ではあります。前回のようにメダルを取るのが目標ですけど、まず予選リーグを1位突破するためには今できることは台湾対策。僕も戸上選手も、相手選手の対策は明日から始めていいと思います。3-0で勝てれば一番いいですけど、不測の事態に備えて2勝できるように、準備を頑張っていきたいです」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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