なぜ、今なのか? Jリーグのシーズン移行を深掘り

なぜ今なのか? 15年にわたる歴史から今回の議論の背景、意義まで…Jシーズン移行を深掘りする

飯尾篤史

開幕から夏場に向けてガクンと落ちる谷型のカーブ

 8月には興味深いデータが提示された。

 現在のシーズン制は「インテンシティの連続性のある魅力的なフットボールで国際競争力を高めること」を阻害している可能性があるとして、走行距離に関するJリーグのデータとヨーロッパ5大リーグのデータを比較するグラフが公表されたのだ。

 グラフを見ると、Jリーグは2月に開幕して夏にガクンと落ちる谷のカーブを描くが、欧州5大リーグは8月から徐々にコンディションを上げていくなだらかな山のカーブを描いている。

 谷型カーブは、コンディションが落ちていくことに耐えるシーズンを過ごすことを意味し、山型のカーブは、アスリートとして高みに挑戦していくシーズンを過ごすことを意味している。この違いを何シーズンも積み重ねれば、アスリートとしての到達点は変わってくるだろう。実行委員会でも「このグラフだけで、シーズン移行すべき」との意見が出たという。

「ハイインテンシティ走行距離」におけるJリーグと欧州5大リーグの比較。他に提供された「総走行距離」「加速(+3.0m/s²)の回数」「減速(-3.0m/s²)の回数」においても、高さのバラツキはあるが、Jリーグは谷型、欧州5大リーグは山型のカーブとなっている 【Jリーグ提供の報道資料から】

 この8月には、オンラインによる監督会議も4回にわたって開催されている。57クラブの監督が出席。33クラブの監督が発言し、活発な意見交換が行われたようだ。

 夏場のクオリティ低下に対する危機感や移籍に関するメリットを認める一方で、ウィンターブレークの長さや試合日程への不安も挙げられた。

 10月頭にはJ1、J2、J3とカテゴリーごとに分科会が開催され、全60クラブがこの時点での考えを表明。シーズン移行をポジティブに捉える意見が多数あった一方で、依然として懸念事項が詰め切れていないため、ネガティブな意見もあった。

 例えば、降雪地域のクラブであるアルビレックス新潟は10月21日にJリーグのシーズン移行に関する報道対応を中野幸夫社長が行い、「いくつかの大粒な課題」が残っていることへの懸念を表明した。とりわけ「スタジアム確保」「試合日程のより詳細な精査」「新人選手の加入タイミングや制度の設計」の問題から、新潟としてはシーズン移行反対の姿勢を明らかにした。

 11月8日には、吉田麻也が会長を務める日本プロサッカー選手会(JPFA)が公式ホームページでシーズン移行についての考え方を公表した。そこには「ファン・サポーターにもっとハイレベルな試合を見せたい」「年間を通じて試合クオリティを維持したい」という意見が多かったことから、「ACLや欧州シーズンと揃えることも意義がある」と記されている。

 その一方で、雪国対策を懸念する声もあるため、日本サッカー界の将来のため、雪国のサッカー振興を考えた施設整備などもJFAやJリーグに要望していくことを宣言している。

Jリーグを“世界と戦う舞台”へ

 議論が大詰めを迎えるなかで、重要なスローガンが飛び出した。

 11月28日の理事会後に行われたメディアブリーフィングでは、シーズン移行によって実現させることとして、以下の4点が示された。

 ①Jリーグを“世界と戦う舞台”へ
 ②欧州の移籍マーケットとの一致
 ③ACLシーズンとの一致
 ④猛暑での試合数減少


 最も重要なものとして位置付けられたのが「Jリーグを“世界と戦う舞台”へ」という目標だ。

「Jリーグでプレーすれば世界基準のプレーができる」「Jリーグでプレーを続ければアスリートとして成長できる」。そんな未来のためには、やはりインテンシティの谷型カーブを山型カーブに変えることが大事なのではないか、という確認がなされた。

 運動生理学の専門家からも「シーズンを変えることによって期待しているような効果が得られるのではないか」とのアドバイスをもらったという。

シーズン移行を検討するなかで明確になった次の10年で目指すべき姿。なかでも重要なのが「Jリーグを“世界と戦う舞台”へ」という目標だ 【Jリーグ提供の報道資料から】

 さらに、懸案事項の5点が整理された。

①試合日程
 案A、案Bに加えて新たに案B'を作成。12月2週まで試合を実施し、ウインターブレークを挟んで案Bと同じく2月3週ごろに再開するというスケジュールだ。

②スタジアムの確保
 これまで通り11月(8月のシーズン開幕から3か月後)に各クラブの希望を聞き取って“日程くん”を稼働させ、翌シーズンの全38節分の日程をいったん組む。こうして確実にアウェイで、ホームスタジアムを押さえなくていい節をある程度決める。昇降格の可能性が絞られてきたら、その都度“日程くん”を稼働させ、ホーム開催日をなるべく早く絞り込んでいく。

③JFL・地域リーグ・大学・高校との連携
 JFLについてはJリーグがシーズン移行を決めたあとに決議する。大学・高校の新卒選手との契約はいつでも自由にできることが大原則。シーズン移行した場合でも、これまで通り1月、2月の加入が原則。従来の特別指定制度のほか、新たな制度設計も検討中。

④移行期の大会
 シーズン移行は最速で26-27シーズンに設定。移行期は25年と26年前半にあたり、1.5シーズンにするか0.5シーズンにするか2パターンがあり、リーグ戦を行うのか特別大会を行うのかは検討中(※12月に入って25年は従来どおり1シーズンを行い、26年前半は約3か月の特別大会を行う方向で進んでいる)。

⑤財源の活用
 キャンプ費用増額分や施設設備への支援をする予定。各クラブのシミュレーションによると、平均して1クラブ1500万円程度、合計すると10億円弱の増額が見込まれる。永久的に支援するものではないとの意見もクラブ側からあり、増額分の何割を数年間サポートする案が検討されている。施設の整備については、JリーグやJFAの数十億円~100億円規模の財源をどう使っていくのか。様々なステークホルダーからの支援を含め、全体像を議論しながら詰めていく。

 さあ、ACLのシーズン移行をきっかけに、今年に入って再開されたシーズン移行の議論もいよいよ最終局面に入った。

 12月14日の実行委員会で、Jリーグ全60クラブがシーズン移行について、「賛同する」「賛同しない」「継続的に議論すべきことがあり賛同できない」の3択から回答する。その結果を踏まえ、19日の理事会で最終決定される予定だ。
 
(企画・編集/YOJI-GEN)

●参考資料
Jリーグ公式ホームページ
ゲキサカ
サッカーダイジェスト
日刊スポーツ
スポーツニッポン
スポーツ報知
朝日新聞
読売新聞

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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