なぜ今なのか? 15年にわたる歴史から今回の議論の背景、意義まで…Jシーズン移行を深掘りする
きっかけはACLのシーズン移行、CWCの拡大
拡大される25年CWCへの出場が決まっている浦和。Jリーグとしては少しでも多くのチームをCWCに送り込みたい 【写真:ロイター/アフロ】
最大の要因は、外部環境の変化だ。
22年2月、ACLが23年から秋春制へと移行することが決まった。これによってACLに参戦するJクラブは2シーズンにまたがる戦いを強いられることになる。
実際、23年8月にACL2023/24が開幕。横浜F・マリノス、川崎フロンターレ、浦和レッズ、ヴァンフォーレ甲府の4チームは23年シーズン後半からACLのグループステージを戦った。ノックアウトステージ進出を決めた川崎と甲府、横浜FM(※編集部注:横浜FMは12/14に追加)は来シーズン、新体制下でACLを戦わなければならない。
22年12月には、FIFAクラブワールドカップ(CWC)が25年6月のアメリカ大会から4年に1度の開催となり、32クラブが出場する大規模大会に変貌することも明らかになった。
ヨーロッパからは12チームが出場し、アジアからは21年、22年、23-24シーズンのACL王者、AFCクラブランキング1位の4チームが出場する。つまり、22年ACL王者である浦和は25年大会の出場権を得ているわけだが、Jクラブが世界のトップクラブと本気で戦える場が誕生したのだ。
さらにACLは、24-25シーズンから拡大される。現在はACLとAFCカップ(※AFCクラブランク15位から28位の国・地域のリーグ戦やカップ戦の優勝28チームが出場するため、Jクラブは出場していない)の2大会が存在するが、24-25シーズンからACLエリート、ACL2、AFCチャレンジリーグの3階層に再編されることになり、賞金の拡大も決まった。
優勝チームが得られる賞金総額は、現在の3倍に当たる約17億だ。
年々厳しくなる夏場の試合を少なくするだけでなく、生まれ変わるACLとCWCでJクラブがしっかり勝ち抜き、Jリーグをナショナルコンテンツ、グローバルコンテンツにしていきたい――。それが、シーズン移行の議論を再開する狙いなのだ。
23年2月にはJFAの田嶋会長も出席してJリーグ全60クラブによる実行委員会が開かれ、シーズン移行についての議論を進めていくことを確認。4月から5月にかけて必要な情報収集と、判断材料の洗い出しが行われた。
重要なのは、ここでの話し合いはシーズン移行を前提としたものではなく、賛否の議論も行っていないということだ。目的はあくまでも、Jリーグの成長にとって最適なカレンダーを考えること。こうしてシーズン移行における複数のメリットと懸念事項が確認された。
5月30日の理事会後の資料に掲載された主なメリットは以下の通り。
・暑い中(6-9月)での試合数の減少
・シーズン中の「チーム編成変動」の回避
・移籍関連
・ACLシーズンとの一致
・試合日程関連
シーズン中の「チーム編成変動」の回避とは、欧州シーズンと一致させることで、シーズン中の主力選手の移籍を減らすことを指す。移籍関連も同様で、日本人選手の移籍だけでなく、ヨーロッパから選手や指導者を獲得しやすくなることが考えられる。
試合日程関連とは、現行のシーズン終盤にインターナショナルマッチデーによって日程の連続性が保てない問題の解消を意味している。
メリットの中で重要なのが、「暑い中での試合数の減少」「ACLシーズンとの一致」「欧州シーズンとの一致」の3点。これらはフットボール観点におけるメリットだからだ。
案Aと案B……作成されたふたつのシーズン日程案
シーズン移行における最大の懸念事項が降雪地域への対応だ。ウィンターブレークを設けるほかにどんな対応策があるのか、分科会で検討・議論された(写真は09年3月の山形×名古屋戦) 【(C)J.LEAGUE】
・寒い中での試合数の増加
・降雪地域の対応
・移籍関連
・試合開催できる期間の短縮
・ステークホルダーとの年度の異なり
・移行期の対応
懸念事項における移籍関連とは、シーズン移行すると1月下旬開幕・12月閉幕のブラジルリーグとズレることになるのでブラジル人選手の獲得が難しくなるのではないか、欧州シーズンと一致させると違約金を取れなくなるのではないか、といった懸念だ。
ここまでの検討においてフットボール観点でのメリットが確認されたため、6月からはより具体的に精査する段階に入った。
移行した場合にどういった問題が発生するのか、フットボール以外ではどのようなメリット・デメリットがあるのか……。
そこで立ち上げられたのが、以下の4つの分科会である。
①フットボール分科会
②降雪地域分科会
③事業マーケティング分科会
④経営管理分科会
①では「フットボールの水準、試合日程、移籍への影響、 JFL・大学・高校との連携、移行期の大会方式」について、②では「降雪地域のクラブのアウェイ連戦や練習場・スタジアムの環境」について、③では「入場者や関心度、スポンサー・パートナー・ステークホルダー」について、④では「移行期の経営状況、会計年度の変更、クラブライセンス、JFA・Jリーグの支援」についての話し合いが行われ、それぞれにJクラブから担当者が任意で入り、意見を集約していった。
具体的な試合日程シミュレーションに着手したのも、6月のことだ。移行した場合のシーズンのイメージとして案Aに加え、新たに案Bも作成された。
案Aは12月3週ごろまでリーグ戦を行い、ウィンターブレークを挟んで2月2週ごろから再開するパターン。案Bは12月1週ごろまでリーグ戦を行い、ウィンターブレークを挟んで2月3週ごろから再開する、というように降雪地域のクラブへの配慮が見られる。
また、ウィンターブレーク前後の期間には降雪地域のクラブがホームゲームを開催できない可能性が高いため、アウェイ連戦となるケースを想定してシミュレーションが進められた。
案Aは12月3週ごろまでリーグ戦を行い、2月2週ごろから再開する日程 【Jリーグ提供の報道資料から】
案Bは12月1週ごろまでリーグ戦を行い、2月3週ごろから再開する日程 【Jリーグ提供の報道資料から】
200億円の経営規模のJクラブを誕生させたい
7月から9月にかけて「Jリーグが目指すもの」が議論された。Jリーグの成長のために最適なカレンダーを考えることから一段進んで、「次の10年、その先の20年でどうなりたいか」が本格的に議論されていく。
Jリーグ誕生から30 年が経ち、日本代表はワールドカップの常連となり、連続出場してベスト16に進出するまでになったが、国内組の割合は低下傾向にある。このままだとJリーグを経験せずにヨーロッパでプレーして日本代表となり、ワールドカップに出場する選手が増えることも予想される。
Jリーグとしては、国内にいても世界と戦える環境を構築し、Jリーグから日本代表選手、ワールドカップメンバーを輩出していきたい思いがある。そのためには、 J リーグのレベルや価値を上げ、アジアで圧倒的なリーグになる必要がある。
また、Jリーグは一定の成功を収めてきたが、ヨーロッパは長い歴史をベースにはるかに大きな成長を遂げている。例えば、イングランドのプレミアリーグが誕生したのは 92 年のことだった。30 年前の経営規模はJ リーグとそれほど変わらなかったが、今や大きく引き離されている。
実行委員会では、「今のままでは閉塞感があって、世界で戦っていくためにはリーグがより競争環境を作っていく必要がある」という意見も出たという。
現在、世界のクラブ収益(移籍金の収益を除く)は以下の通り。
・トップ20クラブ:平均630億円規模
・21〜40位クラブ:平均230億円規模
・41〜60位クラブ:平均130億円規模
21位~40位はアヤックス、ベンフィカ、ナポリなど。41位~60位はセルティックやフェネルバフチェなど。Jリーグはトップクラブの浦和が約80億円と、100億円に届かない状況だ。
UEFAチャンピオンズリーグでは、ビジャレアルやベンフィカなど、200億円規模のクラブが毎年1チームはベスト8に食い込んでいく。200億円をひとつの目安として、JクラブがCWCでベスト8以上に入れるような環境作りが求められる。
ACLで優勝すると約17億円、25年大会のCWCの賞金は未発表だが、より多くの賞金収入が見込まれる。選手の移籍においては、数十億円規模の移籍金収益を恒常的に獲得していくこと。さらに、ナショナルコンテンツやグローバルコンテンツとなるクラブが登場すれば、放映権料も上がっていくだろう。
となれば、J2やJ3クラブへの配分金を増やすことも可能になり、降雪地域のクラブの環境整備の資金にも回せるようになる。