今あらためて知りたい久保建英とバルサの関係 両者が再び相思相愛となる日は訪れるのか?
久保の軌跡を肯定するシャビの賛辞
ラ・リーガ第12節に古巣と対戦した久保は、緩急自在のドリブルでいくつものチャンスを創出した。試合後の敵将シャビのコメントも、決して社交辞令ではない 【Photo by Jose Breton/Pics Action/NurPhoto via Getty Images】
ところが、誕生日から10日後の6月14日、なんの前触れもなく、レアル・マドリーが久保の獲得と、Bチームのカスティージャへの加入を発表する。バルサの最大にして永遠のライバルへの移籍には、誰もが意表を突かれた。
久保は、世界で最も成功を収めているクラブと契約を結んだ経緯を、こう明かしている。
「(日本代表として)コパ・アメリカに参加するため、開催国のブラジルに滞在している時にマドリーからコンタクトがあったんだ。でも僕には試合があったし、大会が終わるとすぐにプレシーズンがスタートするから、じっくり考えている時間がなかった。だからマドリーを選んだんだ」
久保は15年3月の帰国後もバルサと定期的に連絡を取り合い、18歳の誕生日を迎えた後に戻る意思がある旨を伝えていたという。しかし19年1月にスタートした交渉で、両者の条件に食い違いが生じた。
バルサ側のオファーが、Bチーム契約の年俸手取り25万ユーロ(約4000万円)だったのに対し、久保側の希望は年俸手取り100万ユーロ(約1億6000万円)、さらに2年目のトップチーム昇格を保証するというもので、結局その溝は埋まらず合意には至らなかった。
そんななか、マドリーが久保に提示したのは、5年契約、年俸は税込200万ユーロ(約3億2000万円)、手取り額にして120万ユーロ(約1億9200万円)という破格の条件だった。
おそらく久保には、自分を見つけ出し、育ててくれたバルサに戻りたいという想いが強くあっただろう。だが、どちらのクラブが自分を高く評価してくれているか、その答えは提示額に明確に表れていた。マドリー移籍の決断は、プロとして至極当然だったと言える。
そうしてスペインでのプロキャリアをスタートさせた久保は、紆余曲折を経て5年目の今季、ソシエダの選手として古巣バルサとの公式戦9回目の対戦に臨んだ。
11月4日のラ・リーガ第12節。いつものように4-3-3の右ウイングで先発出場した久保の左足大腿部には黒いテーピングが貼られていた。過密日程によるフィジカルコンディションの低下が懸念されたが、久保は古巣を相手に気持ちの入ったプレーを披露。序盤から緩急の効いたドリブルで味方のシュートチャンスを演出した。
しかし、結果は後半アディショナルタイムの失点で0-1の敗戦。これで久保の対バルサ戦の通算成績は1勝8敗となった。ゴール、アシストともに一度も記録したことがなく、それだけを切り取れば、ラ・リーガでも相性の悪い相手となるだろう。
だが、試合後にバルサのシャビ監督が述べた賛辞は、久保のこれまでの軌跡を肯定するものだった。
「私にとってタケはワールドクラスの選手だ。ボールの有無に関係なく、プレスのかい潜り方など目を見張るものがあった。タケは私にとって並外れた選手だよ」
得意とする右サイドには16歳の超逸材が
「タケに戻ってきてほしい」と話したバルササポーターのマルティンさん(左)。しかし、バルサが久保を獲得するには、金銭面、プレー面の双方で障害が少なくない 【高橋智行】
ならば、バルサ移籍の可能性はあるのか?
今年2月にはスペイン紙『アス』が、「シャビ監督の希望によって強化部が動き、将来的な獲得の可能性を探っている」と報じたが、それ以降、表に出てくる情報はそのほとんどが大手ではないウェブメディアによるもので、信憑性は疑わしい。
バルサ戦後、“アスールグラナ”(青とえんじ/バルサのチームカラー)のユニホームを纏い、父親と一緒に遥々バルセロナからレアレ・アレーナ(ソシエダの本拠地)を訪れていたマルティンさんに話を聞いた。
「今シーズンのタケはラ・リーガの月間MVPに輝き、チャンピオンズリーグでも素晴らしいパフォーマンスを披露している。本当にすごい選手に成長したよね。マドリーが彼を手放したのは大きな間違いだよ。ここ数年のバルサには足りないものがたくさんあるから、タケには戻ってきてほしいな」
しかし、クレ(バルササポーターの愛称)がいかに熱望しようとも、実際にバルサが久保を獲得するには、いくつかの大きな障害が立ちはだかる。
第一に、近年の財政難によるサラリーキャップの問題。久保の契約解除金は6000万ユーロ(約96億円)に設定されており、ソシエダのジョキン・アペリバイ会長は一切値引きをしないと公言している。これは今のバルサにとって、非常に高いハードルだ。今夏に補強した5人のうち、移籍金を支払ったのはオリオール・ロメウのみ。しかもその金額は350万ユーロ(約5億6000万円)という安価であった。
プレー面に目を向けると、バルサには久保が得意とする右サイドの攻撃的なポジションが存在するが、そこではラミン・ヤマルが台頭し、レギュラーの地位を確立しつつある。クラブと代表で最年少記録を次々と更新している16歳の超逸材は、10月に契約を延長したばかり。契約解除金は実に10億ユーロ(約1600億円)に設定されている。
来季のメンバー構成がどうなるかは分からないが、同じポジションにはラフィーニャやフェラン・トーレスといった実力者もそろい、必要とあればサイドバックが本職のジョアン・カンセロもそこで使える。わざわざ高額の契約解除金を支払ってまで、久保を獲得する理由が見当たらない。
それでも、仮にバルサからオファーが届けば、久保の気持ちが揺り動かされても不思議はない。長くマドリーの保有選手であったため、幼少期を過ごした古巣への想いを口にすることはないが、正式かつ適正なオファーに対してはプロとしての判断を下すはずだ。
いつの日かすべての条件がクリアされ、再び両者が相思相愛の関係を築くことはあるのだろうか。バルサのユニホームを着てカンプ・ノウのピッチに立つという、少年時代の久保が思い描いた夢の続きを、見てみたい気もする。
(企画・編集/YOJI-GEN)