91年、ほぼ決まっていたイチローの中日3位指名 その後に影を落とした土壇場での指名回避
イチローの呪縛
外れの3位指名。呼ばれた名前は佐賀学園高の若林隆信だった。若林も甲子園でホームランを打つなど、パンチ力のある評価の高いバッターだったが、「スラッガータイプの選手を指名するなら、なぜ中村ではないのか!」と私は怒りにも似た感情が湧いてきた。
続く4位指名でも中日は2人を指名することなく、日立製作所の投手、若林弘泰(現東海大菅生高監督)を指名した。そして鈴木一朗はオリックスに、中村は近鉄から指名された。
鈴木一朗は1年目から、ジュニアオールスターでMVPを獲得し、ファームで首位打者にも輝くなど、将来の大活躍を大いに予見させる活躍を見せた。
登録名が「イチロー」となった3年目には210安打を放って社会現象になるほどの活躍を見せた。だが、球団から「なぜイチローを指名しなかったんだ!」などと言われることはなかった。指名をしなかった経緯を上層部もわかっていたからだ。
しかし、イチローの活躍以降、スカウト部内には空気の変化があった。
「地元のスター候補は全部獲ろう」
「補強ポイントではなくても地元にスター選手が現れれば獲りにいかなければいけない」
そんな暗黙の了解のような空気、雰囲気にスカウト部内は包まれていった。
「イチローの呪縛」とでも言うべきだろうか。
ドラフトなど、結果論ではなんとでも言えるものだが、この年は逃した獲物があまりにも大きすぎた。今でもこの年のドラフトを振り返ると、苦い思いが甦ってくる。
【写真提供:カンゼン】