高校時代のコービーが奇跡を起こしたオーバータイム 後のNBAスターを擁する強豪との一戦で…
【Photo by Ronald Martinez/Getty Images】
マイク・シールスキー 著『THE RISE 偉大さの追求、若き日のコービー・ブライアント』はNBAレジェンド、コービー・ブライアントがフィラデルフィアで州大会優勝を成し遂げ、レイカーズに入団するまでの軌跡を描いています。この連載では、コービーの高校時代を彩るさまざまな要素を一部抜粋の形でご紹介します。
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この二校はしばらくの間対戦していなかった。前のシーズンに一度対戦するはずだったのが、アイスストームのせいで中止になっており、コービーのコーチやチームメイトにとってハミルトンは謎に包まれていた。ハミルトンのコーチやチームメイトにしてみればコービーも同様だった。ペネトレイトしてチームメイトのためにプレーを組み立てていたかと思うと、次の瞬間にはドライブやミッドレンジからのシュートでディフェンスを崩す。この巧みで変化に富んだコーツヴィル高校のスター選手は、エイシーズがシーズン中に対戦する一番の相手になるだろう、とダウナーはチームに伝えた。
ローワー・メリオン高校に同じ年齢で同じ身長、シュートレンジは自分よりも広く、プレーはもっと派手で、自分ができることはすべてでき、自分にはできないこともいくつかできるガードがいると誰かから同じように聞いた時、ハミルトンはにわかに信じられなかった。ハミルトンはめったにコーツヴィルの外でバスケをしなかった。彼はコービーのように指導を受けたり甘やかされて育っておらず(彼は初めての高校のバスケのトライアウトにはヒールのついていない厚底靴を履いてきた)、誰かに比べて自分の方が劣った選手だという可能性を処理しきれないでいた。ローワー・メリオン高校? あそこには俺が育ったような地域出身のやつなんか誰もいない。ほとんど私立みたいなもんだ。俺より上手いわけがない。俺が負けるわけがない。
コーツヴィル高校のアシスタントコーチのリック・ヒックスは言う。
「すごいという噂の選手のことをしょっちゅう耳にしていたけれど、この辺りで一番の選手はうちにいると思っていたんだ。スキル面でいうと『彼より上手い選手がいるのか? それはぜひ見てみたいものだ』と思ったよ。コービーにはスワッグがあった。傲慢なスワッグのことを言っているんじゃない。『ボールをスティールすると言って、実際にスティールする。これをやると宣言して、実際にやってやる』というタイプのスワッグだった」。
その午後、コービーが見せたパフォーマンスにはその精神が体現されていた。レッド・レイダーズ(※コーツヴィル高校のチーム名)はコービーに対してボックス・アンド・ワン(※一人のディフェンスプレーヤーが1人のオフェンスプレーヤーをマンツーマンでマークし、残り四人が四角形のゾーンディフェンスを敷く戦術)のディフェンスをしていたので、タイムアウト中にダウナーは他の選手に「我々が勝つためにはみんながオープンショットを決めなければダメだ」と伝えた。スチュワート、パングラジオ、ジャーメイン・グリフィンの三人は、言われた通り合わせて43得点、それぞれが二桁得点を挙げた。試合時間残り10秒の時点でローワー・メリオン高校は2点リードしていたが、ハミルトンが右ウィングの位置からバレエのようなスピンムーブでコービーの下に入り込み、残り五秒でレイアップを決めた。試合はオーバータイムへともつれ込んだ。
オーバータイム残り75秒でファウルアウトしたハミルトンは21得点を記録しており、彼が試合を去ったあともコーツヴィル高校は4点のリードを捻出した。NBAや大学バスケでは、試合時間残り一分で4点差をつけられていても、それは決して克服できない点差ではない。しかし、高校バスケで試合時間残り一分で4点差をつけられている場合は、ほぼお手上げだった。ほぼ……。
あれから25年経っても、ジム・“スクージー”・スミスの脳内にはその映像がはっきりと映し出され、今でもなお痛みと感嘆の気持ちが湧き上がる。スミスはヒックス同様、その日コーツヴィル高校のアシスタントコーチを務めていて(翌年ヘッドコーチに昇格した)、ローワー・メリオン高校の選手がディフェンス・リバウンドをもぎ取り、走るコービーにアウトレットパスを出すところを席から立ち上がって見ていた。コービーはサイドラインに向かって右のほうへ進み、四つドリブルをついてセンターラインを越えた。
「すごかったのは、センターラインを越えるとほとんどの選手みたいに、片手でシュートを放らなかったことだ。コービーはあと一回半か多くても二回ドリブルをしてから、ジャンプシュートを打ったんだ」とスミスは言った。
コービーはそのシュートを打つために飛び上がったとき、スミスとヒックスとコーツヴィル高校のベンチの目の前、そしてバスケットからは25フィート(約7.6メートル)のところにいた。「まさか、入るはずがない」とヒックスは思った。
シュートは入った。