【月1連載】久保建英とラ・レアルの冒険(毎月第1木曜日更新)

開幕8試合で「ラ・リーガ最高」の評価 久保建英の完全覚醒を支える要因とは?

高橋智行

久保のキャリアにおいて特別な1日

インテルを相手に念願のCL初出場も果たすなど、順調にキャリアを重ねている久保だが、アルグアシル監督(右)の巧みな手綱捌きもあって、浮かれた様子は一切ない 【写真:REX/アフロ】

 マドリー戦の3日後には、インテル・ミラノを相手に久保は念願のチャンピオンズリーグデビューも飾っている。連戦の疲労が懸念されたが、レギュラーと控えの実力差を承知しているアルグアシル監督が、セリエAで首位を走る強豪との対戦で、チームの誰よりも違いを生み出せる選手をベンチに置いておくことはなかった。

 開始早々の4分に幸先よく先制したラ・レアルだったが、久保はときにダブルマークに遭い、ほとんどボールに触らせてもらえない。前半終了間際から徐々に攻撃に絡み始め、高精度のクロスやCKでチャンスメイクをしたものの、チームは土壇場(87分)で追いつかれ、グループステージ初戦を勝利で飾れなかった。

 スペイン紙『ムンド・デポルティボ』でラ・レアルの番記者を務めるウナイ・バルベルデ氏は試合後、「今日は久保のキャリアにおいて非常に特別な1日だ。新たな一歩を踏み出す瞬間となった」と述べると同時に、「警戒され、いつものような存在感を発揮できずに主役の座をチームメイトに譲ることになったが、それでも執拗にトライし続け、決定機を3度演出した点は評価に値する」と分析している。

 インテル戦は苦しんだ久保だったが、ラ・リーガ第6節のヘタフェ戦では、かつて指導を受けたホセ・ボルダラス監督の目の前で、開始2分に今季の4ゴール目をマーク。乱打戦(4-3)を制する立役者の1人となった。

 ミッドウィーク開催の続く第7節バレンシア戦は、タイトな日程を考慮して指揮官が大幅なローテーションを実施。久保は公式戦8試合目にして初めて先発を外れ、最後までベンチから試合を眺めることとなった。

ラ・レアルが正当性を証明する手助けを

ラ・レアルのサポーターから溢れ出すのは、久保への深い愛情だ。久保自身もクラブに対して感謝の言葉を述べており、この相思相愛の関係性は簡単には崩れそうにないが…… 【高橋智行】

 そうして迎えたのが、満員のレアレ・アレーナを舞台に行われた第8節のアスレティック・ビルバオ戦だった。この「バスクダービー」と言えば、今年1月のホームゲームでの久保のパフォーマンスを思い出す人も多かっただろう。ゴールとPK誘発で3-1の勝利の原動力となった久保。ゴール後にユニホームを脱いでスタンドのファンとともに喜びを分かち合ったあの試合で、久保は地元サポーターのハートを完全に掴んだのだ。

 キャリア通算3回目のバスクダービーは、相手の厳しいマークに手を焼いたものの、後半開始直後の48分に、勝利を大きく引き寄せるチームの2点目を記録。その際に披露した“尻振りパフォーマンス”は、現地でゴール以上に話題となった。

 その後も時折疲労の色をのぞかせながらも最後まで走り抜き、3-0の快勝に貢献。チームも今季初の3連勝でラ・リーガの5位に浮上した。実に5回目のMVP選出に、試合後も“クボ・コール”が鳴り止むことはなかった。

 8節終了時点で早くも5ゴール。ただ、こうして久保が活躍すればするほどサポーターの脳裏をよぎるのは、「今季終了後の退団」という可能性だ。

 スタジアムの外でラ・レアルのサポーターに話を聞いてみる。いつも家族と観戦しているというウナイ君は、マドリー復帰の噂について話を向けると、本気でこう懇願した。

「絶対にここに残らないとダメ! 僕たちはみんなタケのことが大好きだから、移籍しないでほしいよ!」

 これはサポーターの総意と捉えていい。誰に話を聞いても、久保への深い愛情が溢れ出てくる。

 久保自身は最近、「ラ・レアルはサッカー選手としての僕の正当性を証明する手助けをしてくれた。それまでは良い時期を過ごせていなかったが、ここに来て成功へと導いてくれる列車にふたたび乗ることができた」と、チームに対して感謝を述べていた。

 もしかすると、この言葉が来季の去就の鍵となるかもしれない。

 いずれにしても、日々進化を続ける久保の今季はまだ始まったばかりだ。昨季以上の成績を残すための戦いは、これからさらに激しさを増していく。

(企画・編集/YOJI-GEN)

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著者プロフィール

茨城県出身。大学卒業後、映像関連の仕事を経て2006年に渡西。サッカー関連の記事執筆や翻訳、スポーツ紙通信員など、ラ・リーガを中心としたメディアの仕事に携わっている。

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