日本は勇敢なチリをどう攻略したのか ラグビー元日本代表・藤井淳が解説
トライを取ったファカタバを祝福する流(右) 【写真:ロイター/アフロ】
緩急を使って攻めた流
決勝トーナメントに進出した前回大会でも、初戦のロシア戦の前半は12対7と苦戦しました(最終スコアは30対10)。強化試合で結果が出なかったこともあって、今回も初戦のプレッシャーは確かにあったと思います。
また、チリはW杯初出場でこの日に照準を合わせていて、良い状態で気持ちが乗っていました。難しいことはせず、シンプルな決め事で力強く前に出てくる攻守は迫力があって、日本が見習うべき部分もあったと思います。
チリはこれまで見る機会がほとんどありませんでしたが、良い選手が多く、特にSOロドリゴ・フェルナンデス選手やFBイニャキ・アジャルサ選手の身体能力の高さは印象に残りました。
――勇敢に前に出てくるチリを相手に日本で活躍した選手は?
SHの流大選手が非常に良かったです。チリはがむしゃらに出てくるのでプレッシャーが厳しかったと思いますが、相手ディフェンスの裏を狙ったキックが効果的でした。チリは激しいタックルをすることでより気持ちが盛り上がるような精神状態になっていましたが、後ろに蹴られると気持ちと体力が削がれるので、流選手のキックは嫌だっただろうと思います。
流選手はパスの供給役として緩急を使えるのが魅力です。それぞれのタイミングでパス、キックを使い分けて、相手ディフェンスと駆け引きをしています。チームのプランを理解して、過度にペースを上げることなく、冷静にゲームメイクをしましたね。
31歳とベテランになりましたが、SHとして重要な経験値もありますし、バランス良くチームを導きました。
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死角から飛び込んでトライを奪ったリーチ
後半13分にトライを決めるリーチ マイケル 【写真:ロイター/アフロ】
すごく状態が良いように見えました。ベテランになって自信、余裕も感じます。
後半13分のトライはパスをもらう際の入り方の角度とタイミングが絶妙でした。ラグビーではディフェンスラインに並ぶ選手はボールが出てくる内側を向きがちですが、あのトライではリーチ選手が外側の死角から飛び込んできたので、止められませんでした。
連続攻撃が続いている中で、相手ディフェンスの薄い部分を見極めて、SHがボールを出せるタイミングを計りながら走り込めるのはリーチ選手の良いところだと思います。
――この試合では勝ち点5を獲得するのが重要でしたが、前半はトライを狙いにいって失敗したシーンもありました。
序盤はもっとペナルティゴール(PG)を狙っても良かったと思います。経験の少ないチームにとって、点差を広げられていくことはプレッシャーになるはずなので。
日本と同組のイングランドvs.アルゼンチンではイングランドがノートライで27点を奪って快勝しました。自陣に入られる度にキックで得点される……となると、相手チームには焦りが生まれてさらに反則やミスが増えることもあるので、日本もまずPGで点差を広げて相手の心を折ってからトライを狙う選択肢もあったと思います。