角田裕毅は何ランク? 2023前半戦・F1ドライバー通信簿
F1においては、マシンの仕上がり具合に成績が影響されやすい。ただし、どんなマシンであっても、その能力を最大限に引き出せるドライバーがいるのも事実。個々のドライバーが及ぼす力は決して小さくない 【Red Bull Content Pool】
※アルファタウリからは今季2戦のみ参戦のダニエル・リカルドではなく、第11戦イギリスGPまで戦ったニック・デ・フリースを評価対象とした。
ずば抜けた成熟見せるフェルスタッペンら、Sランクは6名
マックス・フェルスタッペン(オラクル・レッドブル・レーシング)
レッドブルマシンの戦闘力が圧倒的とはいえ、これだけ勝ち続けているのはフェルスタッペン個人のずば抜けた実力抜きにはありえない。今季のフェルスタッペンは別次元の強さを見せており、彼だけはSS評価にしたいほど。
2連覇を達成後の今季のフェルスタッペンは、スタート時にあえて激しいバトルから一歩引くことが何度かあった。もともと危機回避能力は極めて高いが、接触によるダメージを避ける賢明さをさらに身につけた。レース中もオーバーペースを極力回避する運転で、マシンやタイヤへの負荷も低くなっている。前半12戦がすべて1位と2位、スプリントも優勝2回、3位1回というとんでもない結果は、本人の成熟度合いと決して無縁ではないはずだ。
マシンの好調さに沿うようにフェルスタッペンも成長を遂げており、3連覇へ視界良好 【Red Bull Content Pool】
ルイス・ハミルトン(メルセデスAMGペトロナスF1チーム)
メルセデスは昨年導入したグランドエフェクトによる車体設計に失敗、かつてのチャンピオンチームの面影はなく、ハミルトンも2021年終盤のサウジアラビアGP以来、未勝利の状態が続いている。今季マシンのW14も序盤は目立った戦闘力の向上が見られず、ハミルトンもモナコまでの6戦で表彰台は2位が1回だけと苦戦した。
それでも昨年からこだわったゼロポッドを捨てるなど大幅アップデートの成果が出始めてからは、直近6戦で表彰台3回、4位2回とコンスタントに上位入賞を続け、選手権でも3位アロンソに1ポイント差まで迫っている。ハンガリーではフェルスタッペンを抑えてポールを獲得と、一発の速さも健在だ。
走らないマシンで未勝利が続いてもベストな結果を残す、それが7度チャンピオンになったドライバーのなせる技だ 【MercedesAMG】
ランド・ノリス(マクラーレンF1チーム)
ここからの若手3人は、実際の選手権の順位はずっと低いものの、非常に印象的な走りを見せてくれたドライバーたちだ。まずノリスだが、シーズン序盤はマクラーレンの戦闘力が低いこともあって、下位入賞が精一杯だった。8戦目のカナダを終えて、わずか12ポイント。選手権も11位に沈んでいた。
しかしオーストリアからの立て続けの大幅アップデートもあって、2位表彰台を2度獲得。夏休みまでの4戦だけで57ポイントを荒稼ぎして、一気に選手権8位まで躍進した。MCL60の神経質な挙動やタイヤのもちの悪さはまだ大きく改善されていないなか、ノリスはマシン性能を100%引き出して、最高の結果を残していると言える。
オーストリアGPで4位、イギリス&ハンガリーGPで2位、ベルギーGPは7位と勢いにのっている 【McLaren】
アレキサンダー・アルボン(ウィリアムズ・レーシング)
確かに今季のウイリアムズFW45は、昨年型に比べてある程度の性能向上は見られる。とはいえハースやアルファロメオ、アルファタウリとようやく互角に戦えるようになったレベル。コンスタントな予選Q3進出やポイント獲得は、本来なら難しいはずだ。
そんな状況でアルボンは予選トップ10内に4回入り、決勝では7位と8位に入っている。これらの結果は明らかに、アルボンの巧さゆえであろう。レッドブル、そしてフェラーリからラブコールを送られているようだが、本人はウィリアムズのさらなる進化を信じて残留を決めているようだ。そんな一途さも、じつに好感が持てる。
国内で活躍する福住仁嶺とはGP3時代のチームメイトで仲が良く、福住のヘルメットデザインも手がけている 【Williams】
オスカー・ピアストリ(マクラーレンF1チーム)
シーズン序盤の苦戦はルーキーであることに加え、レースから1年間離れていたハンデキャップも大きかった。それでもデビュー2戦目のサウジアラビアGP予選では、初のQ3進出。この時点でのマクラーレンマシンの遅さからすれば、大殊勲と言えた。さらに次戦オーストラリアで初ポイントを獲得。その後はしばらく入賞できず、予選でもチームメイトのノリスに負け続けていた。
それが7月のイギリスで、自己ベストの3番グリッドを獲得。次戦ハンガリーGPで4番手。決勝でも4位、5位と上位入賞を果たした。そしてベルギーのスプリントでは、シュートアウト2番手から2位入賞。その急激な成長曲線だけ見ても、並みのルーキーではない。
21年はFIA F2選手権で1位に、22年はアルピーヌとマクラーレンでF1テストドライバーを務めた 【McLaren】
フェルナンド・アロンソ(アストンマーティン・アラムコ・コグニザントF1チーム)
シーズン序盤の8戦中6回の表彰台は、アロンソがまだまだ超一流ドライバーであることを充分に印象付けた。しかし中盤以降は、マシン戦闘力が相対的に落ちたことが大きいものの、成績が下降するとともに存在感も薄くなった。特に予選で上位グリッドが取れなくなってからは、本人のモチベーションもすっかり落ちてしまった印象だ。
とはいえここまでの12戦、すべて入賞しているのはさすがアロンソ(スプリントも2回目までは入賞していたが、直近のベルギーは0ポイントだった)。A評価にしようか最後まで迷ったが、後半戦巻き返しの期待も込めてSとした。
今季最年少のピアストリとは20歳差の最年長ドライバーながら、アロンソへの期待値は衰えない 【Aston Martin F1】
自身最高のシーズン送る角田はAランク
角田裕毅(スクーデリア・アルファタウリ)
3年目にして、最高のシーズンを送っている。アルファタウリの戦闘力がほぼ最下位の中、角田はアゼルバイジャンとモナコで予選Q3に進出、レースでは3回の10位入賞を果たした。微妙なペナルティ判定さえなければ、スペインGPも9位完走だった。
さらに前半12戦のレースをすべて完走したドライバーは、レッドブルのふたりやアロンソ、ハミルトンなど上位勢を除けば、ボッタスと角田しかいない。兄と慕っていたガスリーの移籍で、チームリーダーの自覚も芽生えた。ダニエル・リカルドが新たなチームメイトとなってまだ2戦だが、学ぶべき点はしっかり吸収し、直近のベルギーでは予選・決勝ともに圧倒した。
今季はここまで、新人チームメイトを引っ張る形で結果を残している。これからの成長ぶりに注目が集まる 【Red Bull Content Pool】
シャルル・ルクレール(スクーデリア・フェラーリ)
フェラーリのマシン性能は、王者レッドブルには及ばないものの、メルセデスやアストンマーティン、そしてマクラーレンに決して見劣りするレベルではない。なのにコンストラクターズ選手権ではベルギーを終えて4位に甘んじ、直近数戦で一気に戦闘力を上げてきたマクラーレンの猛追も受けている。
ルクレール自身の成績も、表彰台は3回だけで選手権は現在5位。4位のハミルトンには約50ポイントの大差をつけられている。昨年は9回獲得したポールポジションも、今季はまだ1回だけだ。フェラーリは相変わらず、不可解な戦略やトップチームらしからぬミスが多い。チームに頼れないなら自分がと頑張りすぎるからか、ルクレール自身もクラッシュや接触事故をたびたび起こす負の連鎖に陥っている。
バーレーンとオーストラリアでのリタイアが響き、ドライバーズランキングで上位とのギャップが開きつつある 【Ferrari】
ジョージ・ラッセル(メルセデスAMGペトロナスF1チーム)
昨年のラッセルはハミルトン相手に予選は10勝12敗とほぼ互角、そしてレースではキャリア初優勝を果たして、選手権4位につけた(ハミルトンは同6位)。メルセデス昇格1年目、しかも予想外の戦闘力不足に苦しめられたなかでの大健闘だった。
しかし今季は予選こそ5勝7敗とまずまずながら、獲得ポイントは99対148と大きく差をつけられている。内容的にもハミルトンが表彰台4回、4位3回と上位入賞を重ねているのに対して、ラッセルは表彰台が3位1回のみ、4位も2回にとどまり、決勝での苦戦が顕著だ。特にW14が大幅アップデートして以降の直近4戦は、結果を出せていない。無線でもマシン挙動に不満を述べることが多く、乗りこなしに手こずっていることは明らかだ。
オーストラリアとカナダでリタイアを喫しており、チームメイトのハミルトンとは49点差となっている 【MercedesAMG】
エステバン・オコン(BWTアルピーヌF1チーム)
昨年までのチームメイトだったアロンソは偉大な師匠であると同時に、常に比較され、かなわないと感じ続けた存在だった。そのアロンソがいなくなった今季、オコンはのびのびと実力を発揮しているように見える。モナコの3位表彰台は、前半戦最高のパフォーマンスだった。選手権では10位にとどまっているが、オーストラリアやハンガリーの不幸な同仕打ちがなければ、8位のノリスに近い位置にいたはずだ。
後半戦でのさらなる飛躍はアルピーヌA523の性能と信頼性向上にかかっているが、組織的な混乱がおさまるにはかなり時間がかかりそうだ。
ベルギーGPではセクター1のベストタイムをマークしており、存在感が増している 【Alpine】
ニコ・ヒュルケンベルグ(マネーグラム・ハースF1チーム)
4年ぶりにレギュラーシートを獲得して、F1復帰を果たしたヒュルケンベルグ。今季のハースマシンの戦闘力を考えれば、2回の入賞(7位とスプリントでの6位)で選手権14位という暫定結果は、大健闘と言える。
それ以上に素晴らしいのが、予選一発の速さだ。12戦中6戦でQ3に進出。雨のカナダではフェルスタッペンに次ぐ2番手タイム(グリッド降格ペナルティで、決勝は5番グリッド)、オーストリアのスプリントでも4番グリッドを獲得してみせた。VF-23はフェラーリの空力開発の成果を取り入れているだけに、下位チームの中では一発の速さに優れる。それにしてもマグヌッセンのQ3進出が1回だけなのを見れば、ヒュルケンベルグの素の速さは明らかだ。
過去6つのF1チームで経験を積み、今季ハースのレギュラードライバーとしてF1に復帰した頼れるベテランだ 【Haas F1 Team】