米アナリストを魅了した侍たちのプレーと“気遣い”  「マイアミで会いましょう」に栗山監督はどう答えた?

丹羽政善

人のつながりからイタリア、日本を応援

 WBCの決勝では、大谷がいたとはいえ、気づくと米国以上に日本代表の応援に声を枯らしたが、さらに特別な関係もあった。それは後述するが、彼にとっては様々な人とのつながりが、今回のWBCを特別なものにしていた。

 例えば、台湾ラウンドではイタリアを応援していた。「(ニッキー・)ロペスと(ビニー・)パスクァンティーノは友達なんだ」。パスクァンティーノはオールド・ドミニオン大の後輩。在学は被っていないが、バーランダーが現役だった頃、「オフに一緒に練習したりしていた」 そう。

 ロペスについては、彼の大学時代の親友が、バーランダーの親友でもあるという。「だからニッキーのことは、10年以上前から知っている。よくゲームも一緒にやった」。大会中もテキストメッセージをやり取りし、『頑張れ』とエールを送った。大谷と対戦したロペスがポール際に大きなファールを放つとすぐに「惜しかったね」と連絡。試合後、「惜しかった!」と返信があった。

 そのイタリアは準々決勝で日本と対戦したが、もちろん、日本に対する思い入れを上回ることはなかった。

「栗山監督にもぜひ、また会いたかったから」

 日本ラウンドの取材でアメリカを出発する前、バーランダーからは、「くれぐれも監督によろしく伝えてくれ。そしてマイアミで待っていますとも伝えてくれ」と伝言を託された。

 繋がりは昨年8月まで遡る。バーランダーは「Searching for Shohei」というFOXスポーツが制作した大谷の特番で来日し、取材最終日には「栗の樹ファーム」を訪れ、監督に話を聞いた。その中身の濃さもさることながら、インタビューの終わりに監督からこんな話を明かされた。「この間、アメリカへ行って(栗山監督は視察のため8月上旬に渡米)翔平に会ったとき、『今度、ベンさんのインタビューを受けるよ』って伝えたら、『よろしくお願いします』って言われたんですよ。あんまりそういうことを言うタイプじゃないのに」。

 それを聞いたバーランダーは、栗山監督と大谷の気遣いに感極まり、言葉を失った。

 再会の機会が巡ってきたのは昨年12月のこと。サンディエゴで行われたウインターミーティングの期間中、WBCに出場する国の監督、GM(ゼネラルマネージャー)らが、揃って取材を受けた。その前日にサンディエゴ入りした栗山監督。バーランダーも取材でサンディエゴにいたので、監督が来ていることを伝えると、「夏のお礼を言いたいから、挨拶できないかな」。代表チームの関係者に連絡を取ると、「夕食に出かける前に少し時間があるので、ホテルのロビーでどうですか?」と返答があり、2人で監督が宿泊されているホテルへ向かった。

 そこで今度はこんなやり取りがあった。

「監督、今度はマイアミでお会いましょう」とバーランダー。すると監督がこう応じた。「もし、(マイアミで行われる)決勝ラウンドへ行けなかったら、逆に日本にいられないよ」。

 冗談とも本気ともつかない返しに、その場では笑い話で終わったが、案外、本音かもしれなかった。栗山監督はその後、夕食に出かけてダルビッシュと合流。そこでWBCに参加することを正式に伝えられると、栗山ジャパンの重要なピースがはまったのだった。

「大谷ファン」からスタートした日本人選手愛

日本の優勝が決まった瞬間、バーランダー氏もフィールドになだれ込んだ 【Photo by Megan Briggs/Getty Images】

 そうした経緯もあってのWBC。栗山監督とのマイアミでの再会には特別な思いが滲んだが、そんな絆も、もとをたどれば、すべてバーランダーが熱狂的な大谷ファンになったことに端を発している。

「『週刊大谷翔平ニュース』を始めて3年目。あれで人生が変わった。日本にも行くことができた。栗山監督と知り合うこともできた。WBC決勝はそうしたすべてのことの延長線上にあった」

 ラーズ・ヌートバー(カージナルス)とも取材を通して知り合った後は、妙に気が合ったようで、普段から連絡を取り合う仲ともなり、日本の応援に力が入ったのは自然なことだった。バーランダーはトラウトとも交流があるが、最後、大谷がトラウトから三振をとったときは、我を忘れ、興奮したままフィールドになだれ込んだ。

 さて、いまもWBCについて語りだすと熱くなるバーランダー。彼の番組に、メキシコ代表で日本戦では4番を打ったロウディ・ペレズ(ブルワーズ)が出演したときには、佐々木の話になったという。そのときペレズは、「30球団中25チームでエースになれる」と評価した。また、バーランダーの番組に定期的に出演し、野球殿堂入りしているジョン・スモルツ(ブレーブスなど)は佐々木の印象について、「ジェイコブ・デグロムと大谷のハイブリッド」と形容したそう。

 当然のようにいま、佐々木の登板日はネットなどで情報をチェック。その他、山本、村上などについても、ニュースをフォローしている。

 彼の日本人選手熱は、まだまだ冷めそうにない。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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