特集:Jリーグ30周年~激動の時代を彩った偉大なチーム&プレイヤー

芸能界きってのサッカー通・平畠啓史が厳選 50年後まで語り継ぎたいJリーグの名珍場面&珠玉のストーリー15選

吉田治良

6位:感動的だった『三百六十五歩のマーチ』

熊本地震からの復興を願い、地元出身の水前寺清子さんが試合前セレモニーで披露した『三百六十五歩のマーチ』は実に感動的だった 【(c)J.LEAGUE】

 2016年の4月に熊本地震が起きた時、当然ながらロアッソ熊本は活動中断を余儀なくされました。およそ1ヶ月後に活動を再開しますが、ホームゲームは長らく代替地開催。その最初の試合は、柏レイソルの日立台(日立柏サッカー場)を借りて5月22日に行われた水戸ホーリーホック戦でした。

 感動的だったのが、試合前のセレモニー。熊本出身の大スター、水前寺清子さんがロアッソのユニホーム姿で登場し、日立台のピッチを歩きながら『三百六十五歩のマーチ』を歌ってくれたんです。もうこれは、長くJリーグを見てきた中でも、一番くらい感動しましたね。

 何が良かったって、どこか感傷的でしんみりしそうなシチュエーションで、水前寺さんがカラッと、めちゃくちゃ明るく歌ってくれたことなんです。みんな頑張ろう、一歩ずつ歩んで行こうって。あれは間違いなく、未来に語り継ぎたい名シーンでしたね。

5位:入れ替え戦で起こった停電の謎

入れ替え戦の甲府対柏戦の停電事件は、様々な憶測を呼んだ。初戦をものにした甲府は、第2戦も主砲バレーが6ゴールと爆発し、6-2と大勝。初のJ1昇格を決めた 【(c)J.LEAGUE】

 2005年12月7日に行われた、ヴァンフォーレ甲府と柏レイソルのJ1・J2入れ替え戦の第1戦。初のJ1昇格を狙う甲府のホーム、小瀬スポーツ公園陸上競技場での重要な試合は、2-1と甲府がリードして迎えた終了間際に、突然の停電が起こり、スタジアムは暗闇に包まれました。

 結局、試合は30分近く中断された後に再開され、そのまま甲府が逃げ切るんですが、ちょうど1点を追う柏が甲府のゴール前に攻め込んだタイミングでの停電だったので、様々な憶測を呼んだんです。のちに過電流継電器の誤動作でブレーカーが落ちたと聞きましたけど、「もしかしたら誰かが……」っていう謎めいたところが残って、ちょっと興味深いですよね。もちろん、故意ではなかったとは思いますけど。

 最近はそれこそSNSの全盛で、何でも分かり過ぎちゃう時代じゃないですか、世の中の裏の裏まで。でも、意外とグレーな部分があった方が、世の中おもろいんちゃうかって、自分なんかは思うんです。この停電事件みたいに、いろんな想像が膨らみますからね(笑)。

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4位:ピクシーの伝説の革靴シュート

 やっぱりピクシー(ストイコビッチ)は、やることすべてに華があるというか、洒落てますよね。あのボールをダイレクトで、しかも革靴で蹴って、きっちりネットまで揺らしてしまう。さすがピクシー、インパクトは特大でしたよね。

 この日、僕は『スカパー!』でJリーグのハイライト番組を現チェアマンの野々村(芳和)さんと一緒にやっていて、番組内で初めて革靴シュートを見たんですね。それで野々村さんと感想を話したりしてるんですが、その『スカパー!』の映像が瞬く間にYouTubeにのって、全世界に拡散されていくわけです。だから僕、ピクシーのおかげで“世界デビュー”ができた(笑)。そういう意味でも印象深い名シーンですね。

 ただ、ここは退席処分にしてほしくなかったなぁ。非紳士的行為だったのかもしれませんけど、主審の方はもうちょっと気の利いた返しができなかったのかなって。まあ、いずれにしてもピクシーにはスパイクなんかいらないってことですよ。きっと高い革靴でしょうし、僕だったら汚れるから蹴るのをやめると思いますけど、そこはやっぱりスターだなって(笑)。

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3位:GK山岸の劇的ヘディングシュート

J1昇格プレーオフ準決勝で山形のGK山岸が終了間際に劇的な決勝弾。GKによるCKからの得点、ヘディングによるゴールはいずれもJリーグの公式戦で初の出来事だった 【写真は共同】

 ジュビロ磐田とのJ1昇格プレーオフ準決勝(2014年11月30日)で、モンテディオ山形のGK山岸範宏選手が決めた劇的なヘディングシュートは、この先もJリーグが続くかぎり、何度も何度も繰り返し流される名シーンでしょうね(その後、山形はジェフユナイテッド千葉との決勝も制して昇格を果たす)。

 僕はこの試合を現地・磐田で見ていたんですが、奇跡的なことが起こったら、本当に時って止まるんだなって、体感しましたね。その瞬間、山形サポーターもすぐには喜んでいませんよ。本当に一瞬、時が止まってから、一気に大歓声が沸き起こりましたから。記者席にいた僕も、全然知らない記者の方と無言で目を合わせて、「えっ?」みたいな感じが何秒か続いたことを覚えています。

 磐田にはいつも、知り合いのスタッフの方の車に乗せてもらって行くんですが、試合が終わると、車中では大抵たわいもない話をしながら帰るんです。でもこの日の帰り道は、磐田から東京までの3~4時間ほどの道中、ずっと山岸選手のゴールの話をしていましたね。

 試合の価値って、見終わった後にどれだけその試合について語れるかで決まると、僕は思うんです。良い映画を見た後みたいに。その意味で言うと、あの磐田と山形のゲームって、すごい価値があったなって。余韻が、ずっと続くようなゴールでしたよね。

2位:カズが巻いたエルメスのキャプテンマーク

30年前のJリーグ開幕戦が、いかに華やかだったかを物語るエピソード。カズの左腕に巻かれていたのは、エルメスのスカーフを特別に仕立てたキャプテンマークだった 【Photo by Etsuo Hara/Getty Images】

 今じゃ絶対に考えられませんけど、1993年5月15日のJリーグ開幕戦で、カズさん(三浦知良)がエルメスのスカーフをキャプテンマークにしていたっていう話は、ちょっとバブル感もあって、面白いトピックですよね。

 これは日本人初のプロのホペイロ(用具係)で、当時ヴェルディ川崎にいた松浦紀典さんから伺った話ですが、このスカーフは奥さん(当時は婚約者)のりさ子夫人が、Jリーグ開幕の檜舞台のためにと特別に用意したものらしいですね。松浦さんはそのスカーフを大事に保管していたらしいですから、開幕戦以外にも何試合かで巻いたかもしれません。

 時代と言えば時代だし、カズさんだから許されたのかもしれませんが、たぶんカズさんなら、今やっても許されるんじゃないのかな(笑)。あの開幕戦がいかに華やかなものだったのか。それを物語るひとつのエピソードとして、語り継いでいきたい話ですね。

1位:マイヤーのJリーグ第1号ゴール

93年5月15日に行われた記念すべきJリーグ開幕戦は、2-1で横浜MがV川崎を下して勝利したが、19分に第1号ゴールを奪ったのは、V川崎のマイヤーだった 【写真は共同】

 この先Jリーグが50年、100年と続いても、絶対に塗り替えられない記録が「第1号ゴール」です。30年前にヴェルディ川崎のオランダ人FWマイヤーが決めた開幕戦のゴールの重要性は、どんなに時を経ても薄れないでしょう。

 面白いのは、そのゴールが生まれるまでの悲喜こもごも。後々話を聞くと、あのピッチに立っていたヴェルディと横浜マリノスの選手全員が、1号ゴールを狙っていたらしいんですね。ある選手は力み過ぎてシュートを浮かしたり、いつもはパスを出す選手が強引に打ちに行ったり。見ているファンも、カズさんとかラモス(瑠偉)さん、木村和司さんなんかに決めてほしいと、たぶん思っていたはずなんです。そこでマイヤーが「お前が決めるんかい」って感じで決めてしまうという(笑)。そういったドラマ性も面白いなって思うんです。

 あの開幕戦を、僕は大阪の狭いワンルームマンションで見ていたんですけど、当時は夢の中にいるみたいで、試合の内容をあんまり覚えていないんですね。あとから番組の企画とかで見直すと、そのたびに発見があるんです。

 ただ、僕らおじさん世代は見ていて当たり前の開幕戦も、今のサポーターたちにとっては懐メロというか、遠い昔話なんですよね。だからこそ、忘れたらあかんし、語り継いでいかなきゃならない。そんな想いも込めて、このシーンを1位に選ばせてもらいました。

平畠啓史(ひらはた・けいじ)

【スポーツナビ】

1968年8月14日生まれ。大阪府出身。高校時代にサッカー部の主将としてインターハイに出場経験を持つ。関西大卒業後、山口智充とお笑いコンビ『DonDokoDon』を結成する。芸能界きってのサッカー通、Jリーグウォッチャーとして知られ、コンビ活動休止中の現在は数々のサッカー番組やサッカーイベントに出演する。

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著者プロフィール

1967年、京都府生まれ。法政大学を卒業後、ファッション誌の編集者を経て、『サッカーダイジェスト』編集部へ。その後、94年創刊の『ワールドサッカーダイジェスト』の立ち上げメンバーとなり、2000年から約10年にわたって同誌の編集長を務める。『サッカーダイジェスト』、NBA専門誌『ダンクシュート』の編集長などを歴任し、17年に独立。現在はサッカーを中心にスポーツライター/編集者として活動中だ。

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