センバツVも公式戦登板ほぼゼロ 東邦OB投手が準硬式で「プロ注目」になるまで

尾関雄一朗

主体性をもって練習に励む

準硬式の球は、中身は硬式同様にコルクや樹脂を固めた芯だが、表面は軟式と同じ天然ゴムで覆われており、縫い目がない 【写真:尾関雄一朗】

 準硬式の世界で道﨑が実力を伸ばせた要因は、まず自らの向上心にありそうだ。

 準硬式は、部の運営や日々の練習、大会の開催など、総じて学生主体の側面が強い。日常の過ごし方の裁量幅も、硬式に比べて大きいとされる。野球の技術向上には自主性がモノを言う環境下、道﨑はハングリー精神を燃やし、鍛錬を続けた。すると、大学で初めて球速が140キロを超え、球質もアップした。

「全体練習の時間が短いので、空き時間が生まれないように詰め込み、いかにしっかりと練習するか。日々、自分たちで計画を立てています。一番大事なのは自主練習。全体練習後や授業の合間には、時間を見つけて学内のトレーニング場でウエートをしています。体が変わってきたし、体のケアにも気を使っています」

 中京大の場合、準硬式が学内のグラウンドを使える時間は、おおむね朝6時から9時までに限られる。日の出よりも早くグラウンド入りし、野球に向き合ってきた。

 東邦でコーチとして道﨑を指導した山田祐輔・現監督は、当時の道﨑について「まじめで努力家。中学の軟式野球部の出身で、硬式出身者たちに負けじとよく頑張っていました」と称える。

「石川がいたので、どうしても登板機会に恵まれませんでしたが、彼の取り組む姿勢を見ていると、誰しも応援したいと思わされます」(山田監督)

東邦での教えも胸に

 表舞台に立つことは少なかった高校時代の日々も、今に生きている。東邦で培われた技術や素養は、プレーヤーとしての土台だ。道﨑は高校時代をこう振り返る。

「高校2年の冬の間、投手担当の木下達生コーチ(元中日ほか)と基礎からやり直して投球を学び、結果にも表れてきました。木下コーチからの『コースを狙いすぎて打たれるよりも、強いボールでファウルをとれ』というアドバイスを胸に刻んでいます。投球に幅や余裕が出たし、それが今の僕のスタイルなので。精神面でも、一球に対するプレッシャーは練習の段階から相当で、鍛えられました」

 木下コーチらから教わった体幹トレーニングや投手の練習ドリルは、大学生になった今も毎日の練習メニューに取り入れている。

「高校時代にやってきたことを、大学でより一層、丁寧に取り組んでいます」

「一番上のステージを目指したい」

常時140キロ台のストレートで押し、スプリットやカットボールを織り交ぜる投球スタイルで相手打者をねじ伏せる 【写真:尾関雄一朗】

 さて、本稿冒頭のスカウト御前試合。「少し緊張してソワソワしました」と言いながらも、いざプレーボールがかかると、雑念を捨てて気合十分に腕を振った。硬式に比べ球速が出づらいとされる準硬式で、この日は最速145キロをマーク。初回を連続三振で立ち上がり、中盤には7者連続三振。8回で12三振を奪い、1失点に抑えた。

「プロの方にも見に来てもらえるとわかったので、一番上のステージを目指していきたい。野球をやっていて可能性のあるうちは、挑戦したいです」

 高校時代、スカウト陣はチームメートの石川を連日詣でていた。あれから4年ほど経ったこの日、その視線を自らのもとに引き寄せ、力を示してみせたのは大きな足あとだ。道﨑は今後もどん欲に向上を誓う。

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著者プロフィール

1984年生まれ、岐阜県出身。名古屋大を卒業後、新聞社記者を経て現在は東海地区の高校、大学、社会人野球をくまなく取材するスポーツライター。年間170試合ほどを球場で観戦・取材し、各種アマチュア野球雑誌や中日新聞ウェブサイトなどで記事を発表している。「隠し玉」的存在のドラフト候補の発掘も得意で、プロ球団スカウトとも交流が深い。

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