異例の手法でJ1昇格を目指すFC町田ゼルビア 藤田社長と黒田監督の強気な青写真

大島和人

青森山田お得意のロングスローは?

黒田剛新監督は青森山田を“常勝軍団”に育て上げた高校サッカーの名将 【(C)FCMZ】

 もう一つの分かりやすい変化は「大型化」だ。カルロス・グティエレス、池田樹雷人、チャン・ミンギュと空中戦に強みを持つセンターバックを新たに加わった。186センチのデュークも含めてセットプレーの攻守は強化されそうだし、プレスキックの名手であるMF下田北斗も加入している。

 黒田新監督もセットプレーの重要性を強調する。

「リスタートは世界的にもかなり重要なポイントなので、それは攻守ともにきっちりやりたい。これを詰めたチームが、絶対上に食い込んでくると思う」

 青森山田の十八番だったロングスローについて尋ねると、微苦笑を浮かべつつこう打ち明けてくれた。

「プロ1年目なので、どこまでやっていいのか手探り状態ですけど、周りの人たちはみんな『ぜひやって欲しい』と言うから。まだ分からないですけど、必要に応じて(やります)。ただ投げる選手が1人しかいないし、その選手が出るかどうかまだ確定ではない。投げるならしっかりセットして、そのコンセプトを落とし込んでという話になります。山田みたいに右の選手が左に行ったり、左の選手が右に行ったり、それはちょっとできないと思います」

「勝ち点90」「失点30」をターゲットに

 黒田監督の強気で、自信を隠さないキャラクターは、ある意味でプロ以上にプロ的かもしれない。そんな指揮官に今季の目標を尋ねると、明快な答えが返ってきた。

「J1昇格は掲げずに、J2優勝です。これを言っていいのか分からないけど、勝ち点90くらいは取りたいと思っています。それくらい無双して、相手から嫌がられるチームになりたい」

 「50」だった年間失点数も、ミーティングでは「30点以内に抑える」というターゲットが選手に示された。昨季の失点シーンの中で特徴的なものを映像で示しながら、その対応策をはっきり説明したという。

「ペナ外からのシュート、またはクロスの失点がかなり多かった印象です。去年の監督がやっていたコンセプトから、かなり変わるところは出てくると思う」(黒田監督)

はっきり変わるコンセプト

一新された選手とスタッフたち 【(C)FCMZ】

 新監督は具体的な修正ポイントとして中盤がボールを保持したときのセンターバックの立ち位置、守備時のサイドバックの立ち位置といったポイントを挙げる。

「ディフェンス陣は中盤の選手がボールを保持しているとき、パスを出した後に深さを取ったり(させたい)。ハードなアプローチを来たとき、ポジションが(適切に)変わっていなければ、もうモロにそれを受けるわけです。サイドバックには相手のサイドハーフと正対しながら見る守備をやらせたいけど、今までは中に絞って背中に相手を置く守備だったみたいですね。だからサイドチェンジで振られたり、背後を取られたり、カウンターを受けやすい状況が映像からもよく見えた。そこはきちっと責任を持たせて自分たちの形、攻撃に持っていけるような意識付けを、今の段階でやりたい」

 黒田監督は山田時代からメディアに対してオープンで、率直で、理路整然とコメントする語り手だった。言語化が巧みで、しかもこちらがどう打ち返してもそれ以上のリターンが戻ってくる。取材者に対してこれだけ明快に語ってくれるのだから、選手も“頭の整理整頓”は容易に違いない。

「期待をひしひしと感じている」

 藤田社長は14日の会見でこう口にしていた。

「新体制に関して、ファンサポーターの皆様からの期待をひしひしと感じていますけど、その期待が萎まないうちにしっかり答えていきたい。個人的には自分の馬が競馬で走っていたり、Mリーグのチームを持っていてそれを楽しんでいたり、趣味が渋滞気味ではあるんですけど、今現在人生で一番楽しみにしているのは2月19日の開幕戦(vs.ベガルタ仙台/リーグが正式発表した日程ではない)というくらい、僕自身も期待しています」

 昨季はJ2の15位だったクラブがJ2制覇、J1昇格を目指すなら普通の手法では達成できない。“金満クラブ”は得てしてお金を無駄遣いして迷走しがちだ。新生町田に対して内心それを期待しているサッカーファンもいるだろう。ただし今季の町田は異例でも筋が通った動きをしている。この挑戦がどのようなスタートを切るのか、大きな期待を抱いているのは藤田社長だけではないはずだ。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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