高津臣吾「明るく楽しく、強いチームをつくるために僕が考えてきたこと」

高津監督の根底にある考え チームの力を一段階引き上げるには、ベテランと若手の融合が不可欠 

高津臣吾

【写真は共同】

「今できることをやる。できないことはできるように努力する」

 4月23日に待望の新外国人選手が来日初出場を果たした。

 ドミンゴ・サンタナ、そしてホセ・オスナ。

 コロナ禍による出場制限が解除されて、満を持しての登場だった。第1章で述べたように、「現状を打破するには新しい人が必要だ」という思いを持っている僕にとって、シーズンを乗り切るための一つの起爆剤として、彼らには大いに期待していた。

 外国人選手の合流が遅れていたのはうちのチームだけではないけれど、各チームそれぞれ戦力が整って、ある意味では再び仕切り直しというのか、ここで新たにシーズンが始まるような意識も持っていた。彼らが期待以上の大活躍をしてくれるのはこれから少し先のことになる。

 さて、僕が監督に就任して以来、日本だけに限らず、世界中で新型コロナウイルスが猛威を振るっていた。人々の生活様式は一変し、「ニューノーマル」と称されるように、従来の価値観も大きく変わっていた。

 こうした、新型コロナウイルス禍という未曽有の事態において、監督としてどのような危機管理を意識してシーズンに臨み、戦っているのかを説明したい。

 当然、コロナ禍では何が起こるかわからないということは、常に意識している。もちろん、誰かが故障するケースもあり得る。とはいえ、「彼はケガをするだろう」などと考えて選手を起用する監督はいない。主力選手が抜ければ、当然チーム力は落ちる。開幕直後に青木と内川が抜けたことで、チーム力は落ちたのも事実だ。

 でも、先ほども述べたように、そんなときでも、「ここで青木がいれば……」などと考えることは一度もなかった。僕自身の元々の性格が「いないものはいないのだから仕方がない」と考えるタイプだからというのもある。

 それに、このときは1軍に16人の野手がいたけれど、僕にとっては16人全てが大切なメンバーだ。確かに、青木や内川の離脱は痛いけれども、今、目の前にいる16人の前で、「青木がいれば……」「内川がいれば……」と考えるのは、彼らに失礼だと思う。

 現有戦力でベストを尽くす。そんな考えが根底にある。いない人を嘆いていても何も状況は変わらない。

 僕の根底にあるのは、「今できることをやる。できないことはできるように努力する。今いる戦力で100点を目指す」ということだけだ。

 楽観的に聞こえるかもしれないけれど、「どんなときでも、今のチームがベストなのだ」という思いは持つようにしている。

 指揮官の動揺は、チーム全体に及ぶものだ。指揮官が悲嘆に暮れていては、チームも前に進むのをやめてしまう。何が起きてもその時の戦力を見極めベストを尽くすことが、トップの姿だと思っている。

少しずつ浸透してきた「粘り強さ」

 開幕前の下馬評では、「投手力に不安」といったものが多かった。

 それでも、開幕以来、先発、中継ぎ、抑えと、それぞれの投手が皆頑張っていた。本当によく頑張っていると、心から感じていた。

 11点取られて引き分けという試合もあったが(4月1日、対DeNA戦)、2日からの巨人戦、その後の広島戦とロースコアの試合が続いた。もちろん、引き分けや負けた試合もあったけれど、投手陣が頑張っているから、試合が大きく壊れることがない。これはすごく助かっていた。

 コロナ禍における「延長戦は行わない」という特別規定もスワローズにとっては追い風となっていた。

 投手起用ということで言えば、後先考えずに自分の思い通りに継投できるという利点がある。延長戦があるときには、先を見据えて「ひとまずここはアイツを温存しておこう」というケースも多々ある。しかし、この規定下では疲労度を考慮に入れつつも、「7回、8回は流動的ではあっても、9回は石山(泰稚)」とパチッと決められる。そういう意味では簡単というか、とても明快だ。

 さらに、投手起用について話してみたい。

 本音を言えば、先発投手に対しては、基本的に「1球でも多く、1イニングでも長く投げてほしい」という思いは持っている。結果的に80球過ぎに先発投手を交代しているケースが多くなっていたのは、あくまでもボールの状態を見ての判断だ。状態がよければ、「もう1イニング行こう」と考えるけれど、「ちょっとボールの勢いが落ちてきたな」と感じたら、そこでスパッと交代するようには意識している。

 そうなると、ここからはリリーフ陣の出番となる。スコット・マクガフ、清水昇、石山の後ろの3人はもちろん、2021年開幕時点では近藤弘樹、今野龍太、坂本光士郎らが本当によく頑張ってくれた。

 リードしている場面では「きちんと後ろの3人に繋げられるか?」が大きなポイントになるし、ビハインドの場面でも、「点差を広げられずに、いかに味方の攻撃のリズムを作れるか?」が大切になる。いずれにしても、彼らの役割はとても大きかった。

 この頃になると、監督就任以来ずっと言い続けてきた「粘り強く投げろ」「1点にこだわれ」ということが少しずつ選手たちに浸透してきたという実感を得られるようになっていた。技術的にどうこうというよりも、精神的に「とにかく粘るぞ」「ここで踏ん張るぞ」という意識は、前年よりもずっと強くなっていた。

 少しずつ手応えを感じ始めていた。まだシーズン序盤ではあったが、思惑通りの戦いができ始めていることが、僕は嬉しかった。

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著者プロフィール

1968年広島県生まれ。広島工業高校卒業後、亜細亜大学に進学。90年ドラフト3位でスワローズに入団。93年ストッパーに転向し、20セーブを挙げチームの日本一に貢献。その後、4度の最優秀救援投手に輝く。2004年シカゴ・ホワイトソックスへ移籍、クローザーを務める。開幕から24試合連続無失点を続け、「ミスターゼロ」のニックネームでファンを熱狂させた。日本プロ野球、メジャーリーグ、韓国プロ野球、台湾プロ野球を経験した初の日本人選手。14年スワローズ一軍投手コーチに就任。15年セ・リーグ優勝。17年に2軍監督に就任、2020年より東京ヤクルトスワローズ監督。

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