F1 2022年シーズン日本GP特集

フェルスタッペン2年連続F1優勝の舞台裏 ホンダ関係者が明かす

柴田久仁夫(auto sport)

王者フェルスタッペンの自信と成長

レース終盤、フロントタイヤのグリップ不足に苦しむルクレールを、猛追したペレス(右)。もし、このペレスによるプレッシャーがなければ、ルクレールがシケインで飛び出すこともなかったはずで、フェルスタッペンのタイトル決定は次戦以降に持ち越されていた 【Red Bull Content Pool】

 鈴鹿で2連覇を決めたことについて、フェルスタッペンは「ホンダの母国で勝って、さらにタイトルを獲得できたことが本当にうれしい」と語っていた。それがホンダや日本のファン向けの表面的なリップサービスでないことは、2019年以来ずっと一緒に戦ってきたホンダの現場スタッフがもっとも理解していることだろう。

 冒頭に出てきた吉野チーフメカニックは、フェルスタッペンが圧勝したベルギーGPで、クリスチャン・ホーナー代表に促されて表彰台に上がった姿が記憶に新しい。フェルスタッペンのみならずチームの全員が「ホンダとのパートナーシップなしには、今季の快進撃はありえなかった」という感謝の念が、ホンダの代表として彼をあの場に立たせたということだ。

 そんな吉野チーフメカニックは今季のフェルスタッペンについて「チャンピオンになってから、すごく変わった」と評する。「とにかく安定しています。一発のタイムも、余裕を持って出せている。まさにひと皮むけた感じが、近くで見ていて一番感じるところですね」。

 さらに「戦う相手の違いもあるのかなと思います」と吉野メカニックは続けた。「去年のルイス・ハミルトンは、7度の世界王者です。だからでしょう。どうしても張り合う感じはありましたね。でも今年のルクレールに対しては、そうではない」。

 ゴーカート時代から一緒にレースをしてきて、気心が知れているからだろうか。「それもあるでしょうが……」。吉野メカニックはそれ以上詳しい説明を避けたが、その言葉の裏には「ルクレールはいまだに無冠だから」と言いたかったように想像できた。

フェルスタッペン時代の幕開け

14時にスタートした決勝レースは、雨のため3周目で赤旗中断に。16時21分からセーフティカーを先導にレースが再開され、6周目にリスタートが切られた。フェルスタッペンは、その直後からルクレールを上回るペースを刻み引き離しにかかった 【Red Bull Content Pool】

 タイトルを獲得したことでフェルスタッペンが大きく変わったとすれば、世界チャンピオンという称号にとどまらない、何か非常に大きなものを得たということなのだろう。一方のルクレールは、そんなフェルスタッペンとは何もかもが対照的だ。

 非凡な才能は、決してフェルスタッペンに引けを取らない。F1参戦2年目にトップチームに移籍し、その年に初優勝というキャリアも同じ。その後しばらく足踏みを強いられ、タイトル争いの蚊帳の外に置かれた点も、ふたりは同様だった。いや、むしろルクレールはフェルスタッペンより早く、フェラーリ移籍4年目の今季、チャンピオン候補になった。対するフェルスタッペンは、2021年までの5年間、我慢の歳月を過ごさなければならなかった。

 しかしフェルスタッペンはその2021年のチャンスを見ごとに掴み、タイトルを獲得した。ルクレールが今季2022年に対峙したフェルスタッペンは、もうすでに“かつての対等のライバル”ではなく、世界チャンピオンになっていた。おそらくその違いはわれわれが想像するより、はるかに大きいのではないか。

 今後のルクレールは今まで以上に、フェルスタッペンより優れていることを証明しなければならない。今季何度か見られたミスが、そんなプレッシャーとまったく無縁だったとは僕には思えない。

 そしてルクレールの挑戦は、跳ね返された。2度の世界チャンピオンになったフェルスタッペンは、さらに強固な存在となることだろう。来季以降、ルクレールとフェラーリにとって、頂点に立つための道のりはいっそう険しくなった気がする。

 今後、間違いなくF1を牽引していくであろうフェルスタッペンとルクレール。ルクレールの視点から見れば、今シーズンの成績は単なる敗北にはとどまらないように思える。この先、絶対に避けては通れないライバルに、よりいっそうの自信と実績を与えてしまったからだ。

 フェルスタッペンの立場から見れば、昨年の死闘を制し、今年は4戦を残して2年連続の戴冠を決めたことにリザルト以上の価値がある。今後しばらくは、かつてのミハエル・シューマッハやハミルトンのように「フェルスタッペン時代」の到来を予感させる戦いぶりだった。今年の鈴鹿に足を運んだファンの方々は、新たな時代の幕開けの目撃者と言える。

 今季の残りのレースでも、フェルスタッペンのスピードと強さが、いっそう際立っていくのは間違いなく、DAZNでご覧いただければ、そうした推測が間違っていないことをきっと理解していただけるはずだ。

(構成:オートスポーツ編集部)

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