初の甲子園に挑む“怪物”佐々木麟太郎 花巻東の先輩・大谷翔平超えはもう目前だ
3月5日の対外試合解禁後、すでに6本塁打。3月16日の試合で高校通算56本塁打とした佐々木は、まだ1年生ながら先輩・大谷翔平の記録に並んだ 【写真は共同】
(編集注:対外試合解禁後、3月16日の試合で高校通算56本塁打とした佐々木は、まだ1年生ながら先輩・大谷翔平の記録に並んだ)
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歴代最多の清宮幸太郎を凌ぐペース
佐々木麟太郎が高校1年の4月から11月までの8ヶ月で、左打席から積み上げた本塁打の数である。
高校野球において、歴代最多とされる通算111本塁打を放った清宮幸太郎(早稲田実→日本ハム)は1年終了時点で22本塁打だった。佐々木はそれをはるかに凌ぐ数字を叩き出している。ちなみに、花巻東の先輩で、高校時代から150キロ台の速球を投げ込み、公式戦で1試合2本の場外弾を放つなど二刀流で鳴らした大谷翔平(ロサンゼルス・エンゼルス)は、通算56本塁打だった。
場数に恵まれた側面も考慮しておくべきかもしれない。センバツに出場する32校が、新チームになってから行った対外試合(練習試合+公式戦)の平均は33試合。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、少ない学校で16〜17試合、なかには練習試合をわずか2試合しか組めなかったというチームもある。
50試合以上できたのは、75試合の花巻東を含めて4校のみ。全試合に出ていないとしても、1つでも多く打席に立てる機会があったのは幸運だっただろう。また、試合数や対戦相手、球場の大きさなどが違うため、過去のスラッガーたちとも単純に比較はできないが、それにしても異次元である。
身長183センチ、体重117キロ。恰幅の良い体格からパワーを発揮しているが、これほど打てるのは、それだけが理由ではない。あくなき向上心と努力によって体得した、ボールを捉える確かな技術があるからだ。
外野フライと思った打球もスタンドイン
課題は走塁だが、守備能力は水準以上。一塁の守備中も内外野に積極的に声をかけるなど、1年生にして早くもリーダーの風格を漂わせる 【写真は共同】
バリー・ボンズ(元サンフランシスコ・ジャイアンツなど)や大谷の動作を研究して取り入れると、春になって柵越えが増えたという。打撃練習で大切にしているのは、「ストライク」「ボール」の見極め。そして、ロングティーで飛距離を出す感覚を養うことだ。長年、東北地区を担当する、あるNPB球団のスカウトはこう話す。
「彼のようにコンタクト能力も長打力もある選手は、高校1年ではなかなかいない。打ち損じたかな、外野フライかなと思った打球もスタンドインする。その点は突出している。また、どんなボールに対しても自分のスイングができるし、凡打の内容が違う」
技術が伴っている打撃によって、走るスピードには「目をつむれる」とも。現在の守備位置は一塁だが、中学では三塁手兼投手。昨秋の明治神宮大会ではトンネルもあったとはいえ、ハンドリングの柔らかさを感じさせる一塁守備には定評があり、投手を中心に内外野へ声をかける姿も頼もしい。
中学時代は生徒会長で、チームではキャプテンを務めた。守備中はもちろん、攻撃中も声出しを怠らない。ベンチをパッと飛び出してネクストバッターズサークルの打者に何やら耳打ちをするなど、気になることはすぐに伝える。そんな姿勢も含めて、彼がまだ16歳の高校1年生であることを忘れさせる。
自分のことよりもチームが最優先。本塁打の話題には「50本、打って」とは言わず、「50本、打たせていただいて」と丁寧に話すあたりに、謙虚な人柄がにじみ出ている。柵を越えれば最低でも1点、最高で4点が入る。佐々木にとっての50本塁打は、すべてチームのため、花巻東の日本一のために描いてきたアーチだ。