羽生の集大成を示す「4回転半認定」、圧倒的だったチェン 歴史的試合を無良崇人が総括

野口美恵

キムヨナ以来の韓国勢の入賞を果たした車俊煥

5位に入った車俊煥の実力は決してフロックではない。韓国のフィギュアスケート界を背負って立つ人材になれるのか 【Getty Images】

 車俊煥選手(韓国)の冒頭の4回転トウループの転倒は、本当に痛そうでした。跳び上がった瞬間に浮きが悪かったように思います。途中でやめてしまうかもしれないほどのダメージがあったと思います。その痛みのなか、すぐに次の4回転サルコウを、ビュンと上がって成功させたのはすごいことです。やはり四大陸選手権で優勝したことで、得た自信があったと思います。

 韓国男子では初となる五輪での入賞、キム・ヨナさん以来の入賞ということで、韓国の期待を一身に背負ってきた選手です。可愛らしさからの人気も実力もあり、これからの韓国を引っ張っていく存在です。訴えかけるような表現力の面での成長もありましたし、やはりイナバウアーは素晴らしかったですね。

 ジェーソン・ブラウン選手(米国)は、ここまでの試合ではフリーで4回転に挑戦していましたが、五輪では4回転を抜いた作戦でした。その中ですべてのエレメンツでプラスを得て、高得点をマークしました。

 やはり五輪という舞台で、4回転に挑むのではなく自分のスケートをしたかったのでしょう。結果的にそれが良い方向性につながっています。トータルバランスで一個の作品として勝負して、周りが4回転で失敗している中で、コツコツ積み上げて6位につけました。

 演技構成点(PCS)はなんと、チェン選手に次ぐ2位。あれこそが「フィギュアスケートの本質」だと感じました。4回転時代になって演技の印象が変わるなか、本来目指すべきフィギュアスケートを思い返させてくれる演技です。僕の現役の頃は、4回転は1〜2種類というのが当たり前でしたが、あっという間に4回転が5回の時代になりました。ジェイソン選手はその中で、トリプルアクセル2本を確実に跳べる選手へと成長しましたし、とにかく本当にすてきな演技でした。

 ダニエル・グラスル選手(イタリア)はフリーでは4位。4回転ルッツ、フリップ、ループと降りて、本当にジャンプが上手な選手です。まだスケーティング技術に若さがありますが、そこが整ってくると一段と良くなると思います。13番滑走で高得点を出したことで、他の選手へのプレッシャーを与えたという点でも、非常に活躍したと思います。やはりルッツ、フリップ、ループという高得点の3種類を入れている選手は他にいませんし、そういった意味で記録的なことを遂げたと言えるでしょう。

 金博洋選手(中国)は「おかえり」という感じでした。4回転ルッツは本当に素晴らしくて、後ろにビュンと跳んでいくのが彼ならではですよね。最後の3回転フリップ以外はしっかりと決めていて、やりきったという達成感がすごくありました。

各選手の4年間の集大成を感じる素晴らしい大会に

 北京五輪は、金メダルが332.60点、銀メダルが310.05点、銅メダルが293.00点でした。300点超えを期待されていたのは4人というなか、2人がその壁を越えました。それぞれの選手がみな、自分の個性を生かした戦い方をしました。

 チェン選手は4回転多種類で圧倒的な戦い方をしていましたし、鍵山選手はトウループとサルコウをメインに加点をもらえるクオリティーで勝負しました。宇野選手は得意の4回転フリップを武器に戦い、羽生選手は4回転アクセルという新しい技に挑む姿を見せてくれました。

 今大会は4回転5種類がそろった、さらにはアクセルも加わり、6種類がスコアシートに記載された大会となりました。五輪はひとつの区切りになりますが、次の五輪までには4回転を全種類入れる選手が出てくるかもしれませんし、どんな進化を続けていくのか楽しみです。2014年のソチ大会の時は18年の平昌大会までの4年でこれほどの4回転時代になるとは思いもしませんでしたし、平昌の時は4回転アクセルに挑戦する選手が現れるなんて想像もしませんでした。

 やはり今大会を振り返ると、各選手がそれぞれの目標、課題、挑戦に4年をかけてきた、その集大成となる演技を披露してくれたのが印象的でした。みんなの気持ちを感じて、僕の中でも歴史に残る試合になりました。見ていてすごく幸せな気分になりました。

無良崇人(むらたかひと)

【写真:本人提供】

1991年02月11日生まれ、千葉県出身のプロフィギュアスケーター。フィギュアスケート選手だった実父・無良隆志の影響もあり、3歳のころからスケートを始める。幼少期から頭角を現すと2002年と03年の全日本ノービス選手権Aクラスを連覇。2007-2008シーズンは全日本ジュニア選手権で初優勝を果たした。シニア後も2014年の四大陸選手権を筆頭にグランプリシリーズでの複数の優勝経験を持つ。日本最高峰の全日本選手権では、歴代最多となる13回連続出場を誇る。

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著者プロフィール

元毎日新聞記者、スポーツライター。自らのフィギュアスケート経験と審判資格をもとに、ルールや技術に正確な記事を執筆。日本オリンピック委員会広報部ライターとして、バンクーバー五輪を取材した。「Number」、「AERA」、「World Figure Skating」などに寄稿。最新著書は、“絶対王者”羽生結弦が7年にわたって築き上げてきた究極のメソッドと試行錯誤のプロセスが綴られた『羽生結弦 王者のメソッド』(文藝春秋)。

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