卓球愛に満ちたトークラリー 鬼滅『紅蓮華』作曲者・草野華余子×五輪金メダリスト・水谷隼【特別対談】

照井雄太

負け続けたからこそ、東京五輪の決勝で勝てた

東京五輪の混合ダブルスでは悲願の金メダルを獲得した 【Getty Images】

草野 水谷さんが中国ペアに勝って、東京五輪で金メダルを取れたのは、どこが勝負のポイントだったんですか?

水谷 中国選手は賢いです。選手もそうだし、指導者もすごく賢い。混合ダブルス決勝の最終7ゲーム目、最初が伊藤美誠のサーブで、僕のバックに長いレシーブが来て、バックストレートに打って得点したんですけど。普通だったら、僕は絶対にバッククロスに打つんですよ。

 実際、相手の許シンはバックに回り込んで、狙い打とうとしていました。その場面で僕は、相手は賢いから絶対に自分がやることを読んでいると思っていたから、ストレートに打てた。すごく研究しているからこそ、そこが仇(あだ)になった。

 今までの僕だったら、バッククロスに打って負けているパターン。でも、そこでやられ続けていた。逆に向こうはずっとそれで勝ってきたから同じことをする。こっちはやられているから、変えなきゃいけないと思って、最後に逆を突けたのが大きいですね。

 リオ五輪団体決勝(日本は銀メダルも水谷は許シンに勝利)もそうでしたが、負け続けているからこそ、勝負どころでこっちが勇気を持って変えやすい。普通にやっても負けるから、そういった部分で、リオ五輪と東京五輪で中国選手に勝てたと思います。ただ、勝ちましたが、自分のことをすごく研究してきているのは感じました。

草野 雑誌のインタビューで「許シンに勝てたのは、五輪の2回だけだから、あいつは俺のこと忘れられない」と発言されていて、とてもすてきな性格をしていらっしゃるなと思いました(笑)。

水谷 五輪の決勝は今までの対戦の積み重ねがあって、中国は勝ってきているからこそ、そのようなプレーになったんだと思います。

草野 東京五輪は準々決勝ドイツ戦の大逆転劇(最終7ゲーム目、6-10でマッチポイントを握られるも16-14で大逆転勝ち)があって、金メダルを取れるかもしれないと見ていて思いました。伊藤選手のミスが多くなってきたら、水谷選手がフォローして、普段だったらサポートするところを前に出て攻撃されていました。あれは試合中に切り替えられたんですか?

水谷 試合中です。それまではあまりリスクを冒したくない、無理して打つよりはつないだ方がいいと思っていましたが、途中からは「自分が打っていかないと」切り替えました。
草野 伊藤選手もあの逆転劇で「初めて信頼した」みたいなことを話されていて、逆に今まで信頼してなかったのかと……(笑)。

水谷 今までは負けてますから……(笑)。

草野 東京五輪では2人の小さい頃からの関係も見ることができて、すてきだと思っています。水谷選手はどのあたりから金メダルを取れると思われましたか?

水谷 ドイツ戦で逆転して、もしかしたら金メダルを取れるかもというのはありました。大逆転をした時はだいたい、いい結果になるんです。

草野 私はよく心から崩れてしまって、10-6でリードしても逆転されることがあるんですが、水谷選手が負けている場面や、厳しい場面で切り替えるために意識されていることはありますか?

水谷 難しいですね、今まで逆転勝ちもありますし、逆転負けもたくさんあります。でも、逆転負けする時は『空気』を感じますね。4、5点リードしていても「ヤバいかも」と思います。それこそ、五輪の決勝も最終ゲーム、9-5でリードしていた時に、「ヤバい」と思っていました。「ああ、これ負けるパターンだ」と。

草野 えー!?そんなことを考えられていたんですか。そこを切り替えられたのは何だったんですか?

水谷 シングルスだったら多分負けていたと思いますが、そこで美誠のレシーブがネットインで入ってくれた。めちゃくちゃ助けられました。あれがネットインじゃなかったら、多分負けていました。

草野 えー!すごい……!

水谷 逆転負けする時はそういう空気感は出ます。何をやっても点が取れないみたいな感覚に陥ります。草野さんもないですか?

草野 めっちゃあります(笑)。

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著者プロフィール

1986年神奈川県生まれ。滝川第二高校、筑波大学で卓球に打ち込む。卒業後は、一般企業就職後、卓球の仕事がしたいと思い、2018年10月開幕直前から卓球の「Tリーグ」に転職。Tリーグでは試合運営の他、メルマガのコラム担当し、また不定期でスポーツメディアの卓球コラムを執筆している。

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