“異業種トレーニング”で受けた刺激 ソフトB・千賀がトップである理由 Vol.1

中島大輔

「投げる上でどういうことが必要か」

早稲田実で甲子園経験があり、早稲田大、JX-ENEOS、米独立リーグなどで活躍した内田さん(写真左)。オンラインサロンにはダルビッシュや千賀らプロ野球選手も多く参加している 【写真提供:株式会社NEOLAB】

 野球界でやり投げと言えば、オリックス・バファローズの山本由伸が有名だ。師事するトレーナーの勧めで、普段の練習から取り入れている(正確には「フレーチャ」という器具を使用)。

 高卒2年目の春季キャンプに持ち込んだ当初、周囲の反対に遭った。やり投げのようにひじを伸ばして投げる投球フォームは「アーム式」と言われ、肩を痛めやすいと考えられているからだ。

 対して、山本は異なる狙いを持っている。簡潔に言えば、身体を大きく使ってひじへの負担を軽減すると同時に、出力を高めようとしているのだ。19年シーズン終盤にインタビューした際、こんな話をしていた。

「やり投げなんですけど、やり投げじゃないというか……。やり投げの練習をうまくするまでの別の練習が実はあって。やり投げをしても、もちろん技術がアップすると思うんですけど、それだけではダメというか。そこまでの準備の過程がいっぱいあったんですよ。その動作をまとめたのが今の投げ方になっているだけで、やり投げを目指してやり投げをやっているわけでもなくて」

 じつは、千賀も普段からやり投げを練習に取り入れていると報じられたことがある。本人に聞くと、真意をこう明かした。

「やり投げの練習というか、投げる上でどういうことが必要かとなったときに、野球のボールだけでは分からないことがあって。野球のボールは軽すぎるから、ショートスローからピュッと軽く投げたりとか、どんな投げ方でもできます。どんな投げ方でもできるということは、自分のできる範囲のことしかできないとか、決められた枠の中でしかできなくて、自分の能力以上のものを出せる投げ方ではないと思っていて。自分の能力を上げるには、単純にやり投げの投てきのために必要だと科学的に証明されている技術について、もっと知らなくてはいけないと思っています」

目を輝かせ「まだ伸びしろがある」

 昨今、トレーニングやスポーツ科学は急速に進化している。プロはもちろん、アマチュアにも広がっているのが、メディシンボールやプライオボールという重いボールを使うメニューだ。アメリカのトレーニング施設「ドライブラインベースボール」が有名で、大谷翔平(ロサンゼルス・エンゼルス)が試合前に外野のフェンスに黒いボール(プライオボール)を投げているのを見たことがある人もいるだろう。近年、投手の球速アップが急激に進む背景にはこうしたこともある。

 高校球児からやり投げの日本代表に羽ばたいた小南は、野球選手がもっとトレーニングに取り組めば、さらに進化できるはずだと見ている。

「トレーニングをうまく取り入れれば、もっと伸びる可能性はあると思います。体幹部をうまく使えるようになれば、ひじを手術する投手も減っていくかもしれません。高校球児の中には、体の線が細くてもホームランを打てる人がいるじゃないですか。それで打てるなら、もっとパワーをつければ簡単に打てると思います」

 スポーツは身体を土台に競い合うもので、フィジカルが勝敗を大きく左右する傾向は各競技で顕著になっている。千賀自身、高校3年時は183センチ76キロだったところから、187センチ89キロとスケールアップする中で球界最高峰まで飛躍した。

 それでも、やり投げの日本トップクラスと比べると、圧倒的な差がある。今回、大きな違いを目の当たりにさせられて、千賀は目を輝かせながらこう話した。

「圧倒的な差を見せつけられて、『自分には無理だ』と言う人は成功しないと思います。やり投げの選手たちも最初からできたわけではなく、トレーニングを積んだ上で今に至っているはずですし。僕もトレーニングしていけば、投げるボールはもっと変わってくると感じました。今回はすごくいい刺激になりましたし、いいきっかけになりましたね」

 まだまだ自分には伸びしろがある。そうして常に探求する姿勢を持ち続けてきたからこそ、千賀は日本トップレベルの投手にたどり着いた。

<Vol.2は1月21日掲載。千賀投手が何を考えて日々トレーニングをしているのか、その思考を聞きました。>

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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