戦力外から1年…元巨人・田原誠次、九州で家族と過ごす日々 取り戻した野球への思い、今も続く現役ブルペン陣との絆

三和直樹

NPB最終年での「後悔」と「喜び」

ドラフト7巡目指名を受けてプロ入り。1年目の6月には早くもプロ初勝利をマークした 【写真は共同】

 2017年以降もシーズン30試合近くに登板した田原は、チームの貴重な中継ぎ右腕、リーグを代表するサイドハンドとしての地位を確立していたが、プロ9年目の2020年シーズンは自身初の1軍登板なしに終わり、そのオフに戦力外通告を受けた。田原は、「後悔」を口にする。

 「自主トレもしっかりできて、キャンプでも調子が良かった。シーズン序盤も2軍で無失点試合を続けたりして自分としてはいい状態だったんですけど、そこで1軍に上がれず、気持ちが切れてしまった。腐ってしまっていました。結果は仕方ない部分がありますけど、野球をする上で一番大事なこと、“野球が好き”という気持ちを、最後のシーズンは忘れてしまったことは、後悔しています。例え1軍で出番がなくても、例え2軍で打たれたとしても、もっと楽しんで野球をやっていれば良かったなと思います」

 結局、2軍でも打ち込まれる試合が増え、その年は2軍戦でも登板35試合で防御率7.06という低調な成績が残っている。だが、田原は“腐っていた”だけではなかった。新たな「喜び」も発見していた。

「結果が残せなかった理由は、ハッキリ言って自分の練習不足です。何故かというと、自分ではなくて他の投手の成長の方に興味が移ってしまったから。他の若い投手たちが成長する姿を見る方に喜びを感じた」

 現役時代は毎年、自主トレ期間に運動動作解析の小出大輔コーチの指導を受け、上半身と下半身、股関節の動かし方などを学んだ。「考え方が衝撃的でしたし、実際に自分のピッチングも良くなって、他の選手に教えてもすごく効果があった」と田原は敬服する。そのノウハウも身に付けていたからこそ、「結果が出ずに悩んでいる若い選手たちを指導して、彼らが喜ぶ顔が見たい」という思いがどんどん強くなった。

 大江竜聖、今村信貴、中川皓太……。実際に田原が指導した投手たちは、その後に大きく成長した。引退した今も、個人的に「ピッチングの動画を見てください」と連絡を受け、その都度、アドバイスを送っている。

改めて気付いたもの、自身の将来像

戦力外から1年。工場勤務をしながら家族と過ごすことで、野球への思いを取り戻した田原 【写真:本人提供】

 今年2月には学生野球資格を回復し、現在は元同僚だけでなく、プロを夢見る高校生たちを指導できる立場になっている。さらに「普段、いろんな人と会話をしていると、『プロってすごいですね!』とか、『今度、草野球に来てください!』とか言われて、改めてプロ野球ってみんなの憧れの世界だったんだなって感じますし、僕自身もつい野球の話になると熱くなってしまったりして、『あ、やっぱり俺、野球が好きなんだな』って思いました」と1年前との気持ちの変化も実感する。

 「野球から離れたことで“野球が好き”という気持ちを取り戻しましたし、引退したことでより一層、客観的な立場から意見を言えたり、指導したりすることができる」と田原。今は仕事が休みの土日や祝日などに月に1、2回、無償で“リモート指導”をするぐらいだが、今後は本格的な指導者として、再び野球の世界に戻ってくることも考えている。

「今年1年は家族サービスに時間を充てたかった。でも来年からはもっと野球に携わっていけたらなと思っています。今は動画を送ってくれたら指導できる環境もありますし、どこかの高校や大学、社会人のチームに属して本格的に指導者としてのキャリアをスタートさせる方法もある。今後、何をするのかは未定ですけど、自分が教えた選手が成長して、嬉しそうにしている表情を見るのが好きなので、どんな形でも指導は続けていきたい」

 現在、妻と2人の子供、小学5年生の息子と2歳半の娘との4人家族。韓国の音楽グループ・BTSにハマる娘の成長スピードに驚きながら、「現役時代とはまた違う楽しい時間を過ごしています。できればもう1人、2人、子供が欲しいんですよね。僕も奥さんも子供が好きで、2人の理想は“賑やかな家庭”なんです」と笑みを浮かべる。さらに「将来は自分の孫とかにも野球を教えることができたらいいなと思います」と思いを馳せる。まだ32歳。妻と子供たち、そして野球。手に入れた大切な宝物とともに、田原は新たなスタート地点に立とうとしている。その道の先には、これまで以上に賑やかな日々と幾多の喜びが待っているはずだ。

「プロ野球戦力外通告」

【写真提供:TBS】

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著者プロフィール

1979年1月1日生まれ。大阪府出身。学生時代からサッカー&近鉄ファン一筋。大学卒業後、スポーツ紙記者として、野球、サッカーを中心に、ラグビー、マラソンなど様々な競技を取材。野球専門誌『Baseball Times』の編集兼ライターを経て、現在はフリーランスとして、プロ野球、高校野球、サッカーなど幅広く執筆している。

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