新日本プロレス、2021年のベストバウトは!? 年末のCS特別番組を前に中間結果を発表!
鷹木vs.棚橋が1位、2位を独占! 棚橋のすごさは歌舞伎役者のすごさ!?
伯山 同じ組み合わせの試合が1位、2位というのも、鷹木選手も棚橋選手も相当にうれしいんじゃないですかね。
清野 特に1位の試合は、棚橋選手が代打出場だったんですよね。元々は飯伏幸太選手が挑戦するはずだったんですけど……。
伯山 誤嚥性(ごえんせい)肺炎でしたっけ?
清野 そうですね。当日の朝10時に欠場と変更カードが決まるっていう。
伯山 当日、決まったんですか!?
清野 元々決まっていた試合で評価されるよりも、誰かの代わりで急に出て、そこで評価されるっていうのはすごく気持ちいいんじゃないかと思いますね。
伯山 歌舞伎役者もそうなんですよ。(歌舞伎役者は)急遽の代役がありますから。
清野 ハハハ!
伯山 翌日から代演になっても、せりふなんて1日で覚えられるわけないのに、それでも行くんですよ。(せりふが)入ってないのに主演で出るんです。
清野 周りが合わせるんですか?
伯山 周りも合わせますし、(役者の人も)子役からずっとやっているから、超人的な集中力でできるんですよね。でも、すごい緊張感らしいですよ。だから本当のプロっていうのは、このときの棚橋選手もそうですけど、急きょパーンって振られたときに、どれだけの力量を見せられるかっていう。そういう意味で1位っていうのは、急に振られてできる棚橋選手のすごさがあらためて出たのかなって思いますね。
飯伏幸太の欠場を受け、急きょ鷹木信悟が持つIWGP世界ヘビー級王座に挑戦した棚橋弘至。「準備できてまーす!」の言葉通り、流れかけた東京ドーム大会のメインで激闘を繰り広げた 【画像提供:新日本プロレス】
清野 もちろん鷹木選手がクオリティーの高い試合をしているのは熱心なファンは知っていると思いますし、熱心なファンが投票しているからこそ、こういう結果にもなると思うんです。ただ、ライトなファンを対象にしたときに、どれだけ鷹木選手の試合が入るのかなって興味があります。
伯山 欲を言えば、外側に対する発信力みたいなものですかね。もちろん今でもありますが、もっとずば抜けた感じが欲しいですよね。でも、ファンには名勝負が多くて素晴らしいので、大変な支持があります。鷹木選手ご自身が、すごいプロレス好きだと思いますし。私程度のものが言うまでもなく、チャンピオンがすべて把握されていて実行してくれると思います。それでまた、来年の新日本プロレス50周年に向けて、鷹木選手がよりパーフェクトな感じになってくれればいいなと思います。
清野 オカダ選手は1試合しか入ってないんですね。
伯山 オカダ選手は勝っても、負けても、やっぱり存在感が大きいですよね。見ていて引き込まれるんですよ。間の使い方というか、ただただそこにいるだけで見入ってしまうというのは、もちろんテクニックとかもいっぱいあるとは思うんですけど、現代のプロレスにおいてはすごく存在が尊いレスラーかなって。レスラーとしての圧倒的な説得力みたいなものは感じますね。
清野 時々、新日本プロレスをご覧になられている伯山さんの目線を聞くと、やっぱりプロレスは存在感なんだなって、つくづく思いますよね。
伯山 ボクも試合内容が一番大事だとは思ってるんですよ。いまのレスラーに対する敬意ももちろんあるんですけど、やっぱり異様なものを見るのがプロレスというか。ちょっと昭和プロレスっぽいですけど、アンドレ(・ザ・ジャイアント)の異常なデカさとか、我々ではできない、常人ではなしえないものをレスラーがやってくれている。それにお金を払って、やっぱりプロレスラーってすごいなっていう尊敬もありますし。そういうのを存在感として見せつけてくれる人にやっぱり惹かれるっていうのは、どの方も多かれ少なかれあることなのかなと。久しぶりに見に行くと、それが一番グッと来るところでもありますね。
飯伏vs.デスペラードは伝統芸能? 棚橋vs.アーチャーは大谷翔平?
番組でコンビを組むだけあって、息もぴったりな二人の対談は、終始笑顔が絶えなかった 【撮影・佐藤まりえ】
清野 個人的には、飯伏選手とエル・デスペラード選手の試合は1位かもしれないです。試合タイムが意外と短いんですよ。いまタイトルマッチは30分を超えることが多いんですけど、20分で決着をつけた(20分36秒)というのが、すごくいいなと。密度が濃かったですね。
伯山 なるほど。いま落語も講談もやたらと長くなってきてる人はいるんですよ。私もネタによってはそうかもしれません(笑)。でもお客様の高座の集中力って、20分がベストらしいんですね。ボクも短くシュッと収まってる方がいい。人の集中力はそんなにもたないから、そういう意味ではボクも短い方が好きですね。ダラダラと長いと反省します。長くなきゃいけないときもあるんですが。
清野 一回、長くすると、お客さんもまた長いのを求めませんか?
伯山 引くよりも、足してる方が喜びますよね。でも、実は引くのが難しいんですよ。プロだと引き算みたいなのが好きになってくるので、そういうのを考えると、長くなりがちなところを短くという清野さんの意見は、伝統芸能にも通じるなって思いましたね。
――中間発表の10試合以外で、ベストマッチ候補に挙げたい試合はありますか?
清野 印象に残っているのが、8月のロサンゼルスでの棚橋選手とランス・アーチャーのIWGP USヘビー級タイトルマッチですかね。アメリカも無観客が続いていて、あの日からお客さんを入れて歓声も戻って来たというシチュエーションのなかで、日本人が敵地に行って闘うという。今年、メジャーリーグでは大谷翔平選手の活躍とかがありましたけど、日本人がアメリカに行って活躍するという、プロレスではしばらくなかったシチュエーションがそこで実現したんです。
――日本ではまだ歓声は飛ばせないですし、そういう意味でも新鮮でしたよね。
伯山 なるほどね。声が掛からないと盛り上がりがいまいち(伝わらない)。それがアメリカでは普通に歓声があったっていうのは、選手もうれしかったんじゃないですかね。
清野 棚橋選手もうれしかったと言ってましたね。でも今回、鷹木選手の試合がたくさん入っているのも、逆にコロナが関係しているのかなと。鷹木選手は試合中によく声を出していますし、お客さんも元気をもらうとか、そういう部分もあるのかもしれないですね。
伯山 それはおもしろい見方ですね。
――今年、試合以外で何か印象に残った出来事はありますか?
伯山 新日本プロレスが業界の盟主として、コロナ前のように淡々と興行を打ってきた姿が美しかったですね。なんとか来年の50周年に、まだまだ(コロナは)予断は許さないですけど、ちゃんとつなげた1年というか。そんなに起伏はなかったかもしれないし、選手のケガ、病気もあったりしたけど、それでも選手層が厚いので、普通に興行を打って、非常時にも耐えながらやってきたというのが、新日本の一番カッコいいところじゃないですかね。
清野 ボクはやっぱり副音声実況ですね(笑)。プロレスの中継は、スポーツ局の制作で、スポーツの作り方の延長で今までずっと積み重ねてきたものなんです。それはそれでもちろん素晴らしいし、ボクもいつもは主音声でやらせていただいているんですけど、それとはまったく違う、試合にはまったく引きずられない副音声ができて、これは新しい中継スタイルができたなと。
伯山 主音声の熱い感じもいいし、大事だと思うんですけど、各々の温度に合ったものを提供できるというのは、まさに清野さんがおっしゃったように、コンテンツの充実につながるんじゃないかなって。副音声なんて酔狂な人しか見てないから、変なこと言っても、そもそも変な人しか見てないから、ラクっていう(笑)。主音声だと、ボクの良さが消えるんですよ。ベタベタなタレントとして、無難なことしか言わず、ただただニコニコ、エビス顔でいいことを言ってるっていうのに押し込められるよりも、自由に清野さんと話している方がノビノビとできる。
清野 表があるからこそできるんですよね。
伯山 柴田選手と同じでアンチテーゼなんですよね。主音声へのアンチテーゼ(笑)。
清野 それを許してくれる新日本プロレス及びテレビ朝日がすごいですよ。
伯山 そこは強調しておきましょう(笑)。
プロフィール
1983年6月4日、東京都出身。2007年に三代目神田松鯉に入門し、「松之丞」を名乗る。2012年に二ツ目に昇進。2015年10月に「読売杯争奪 激突!二ツ目バトル」で優勝。2018年には「第35回浅草芸能大賞」新人賞を受賞するなど活躍。2020年2月、真打昇進と同時に六代目神田伯山を襲名した。
清野茂樹(きよの・しげき)
1973年8月6日、兵庫県出身。青山学院大学卒業後、広島エフエム放送に入社。2006年に独立すると、幼い頃からの夢であったプロレス・格闘技実況の道へ方向転換し、2015年には新日本プロレス、WWE、UFCという世界3大メジャー団体の実況を史上初めて達成した。1000枚のレコードを収集するテーマ曲研究家としても知られる。