ベテラン記者が見た東京パラとこれから 閉幕後は縮小覚悟も「面白さ感じて」

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クラス分けが大前提のパラスポーツ

1席ごとに座るように表示された会場の記者席。パラリンピックでもコロナ感染対策は徹底的に施されている 【スポーツナビ】

――パラスポーツを見始めた人に、クラス分けが難しいと良く言われますが、そのあたり宮崎さんはどのようにお考えですか?

 まず、クラス分けはパラリンピックの大切な大前提なんですよね。きちっとしたクラス分けという考えやシステムができたからこそ、公平性が担保されてパラリンピックという世界最高峰のスポーツの祭典が成り立っている。だからこそ、クラス分けに対してはクリーンであってほしいし、フェアであってほしいと思います。

 今回、(車いす陸上の)伊藤智也選手が現地に来てから、クラスがT52から(障害の軽い)T53に変更になったということもありました。すぐに日本パラ陸上競技連盟が会見を開いてくれたので、私たちメディアはそれをしっかりと伝える必要があると思います。

 他にも車いすバスケットボールや、車いすラグビーで、もし選手の持ち点が変わることがあれば、それによってラインナップが変わります。そういうことも含めてクラスっていうものは非常に大事なものですよね。

 ただ、複雑なクラス分けだけをフィーチャーしてしまうと、今度はパラスポーツとしての面白さを伝えきれなくなってしまう。なので、そのバランスはすごく難しいと、私も常々感じています。

――そこばかり特化しても、難しくて見なくなる可能性もありますからね。

 クラス分けは複雑で難しさがあるので、知らない人が最初に触れると、そこでシャットアウトされてしまう。陸上や競泳など、よーいドンでスタートして、最初にゴールした人が勝つのは五輪と変わりませんよね? まずは、そういうスポーツとしての楽しみを純粋に感じてほしい。そして、例えば同じ車いすなのに違うクラスだったりするの? など、疑問が出てきたときにクラス分けについて、あらためて考えてみる。手が動かない人、両足を切断した人、いろいろな障害の人がいる。その選手が同じ土俵で戦うのがクラス分け、ということを知ったときに、その人はパラリンピックの理解を一つ深めることができます。

 陸上や水泳、あとは車いすバスケとか車いすテニスなどは、パラスポーツに詳しくなくても、違和感なく楽しめるスポーツの代表的なものだと思います。

 まずは、見て「あー、面白い!」って思ってくれればいい。私もスポーツとして面白いと感じたから20何年間ずっと取材を続けているわけです。

――まずはスポーツとして楽しんで、それからパラリンピックの理解を深めると。

 障害があるがゆえに、その選手は自分の体と向き合っている。例えば腕のない選手が両腕を使うような形でトレーニングできないだろうかとか、足を切断した選手が義足を使いこなして0.01秒タイムを縮めるためにどんなトレーニングをしているのかとか、その選手が自分だけの工夫をしてパラリンピックという舞台にたどり着いているんですよね。

 それぞれの工夫が全部違うというところが、パラリンピックのすごさだと思います。それはスポーツの本質です。五輪でもそうですが、日本人は体が小さい人が多く、フィジカルでは不利だと思われがちです。しかし、スピードを生かそうとか、機動力をあげるとか、自分なりの武器や長所を磨いて活躍している人はいっぱいいますよね。パラリンピックもそれと同じです。手のない人、足のない人、体が麻痺している人、いろいろな障がいがあるけれども、その弱点をどうやって克服して、長所をどう磨いていくか。常にそれを考え、そのためにトレーニングやアプローチをしている。そこに魅力があるんです。全部、全員が違う。パラリンピックは、実はスポーツの本質を見せてくれる場でもあるんです。

これからのパラスポーツ

スポーツとしての面白さをより感じてもらいたいと語った宮崎さん 【スポーツナビ】

――ではこれから、東京以降のパラスポーツはどうなっていきますかね?

 メディアでの露出は縮小するかもしれませんね。一方、普及や育成でいえば、各競技団体やJPC(日本パラリンピック委員会)が東京パラまでの道のりを、この先どう生かすか、ということが大事になってくると思います。スポンサー企業とも、いい関係を継続していくのも大事になってくると思うし、みんなで努力していかないと、発展に結びついていきません。

――パラスポーツに限らず、マイナースポーツでもある問題ですね。五輪や大きな大会は盛り上がりますが、そのあとしぼんでいくというか。

 まさにおっしゃる通りです。ただ、長野パラの話になりますが、当時パラリンピックが終わったあとも、レガシーとしていろんな意味でちゃんと残ったものがあります。例えば、パラリンピックという言葉を知った人が日本の中で増えたとか。

 東京パラの場合は、きっとそれがもっと大きい。終わって1年、2年たたないと、どんなレガシーが残ったのか、検証ができないところはあると思います。「これがまさに東京パラリンピックのレガシーだったね」っていうことがどんな形で実感できるのかも楽しみですね。

――最後になりますが、パラリンピックを見ている、これからパラスポーツを見ようと思っている読者へ伝えたいことはありますか?

 スポーツとしての面白さをまず感じてほしい。そこから選手のことやクラス分けを、少し自分で調べると、パラスポーツの理解が深まっていき、もっと面白くなっていきます。そのときにお手伝いすることが、メディアとしての大切な役割なのかなと思っています。

 この東京パラは、テレビ放送も多いですし、報道もたくさんある。何気なく見ているときに、「こんなスポーツがあるんだ、知らなかったな、楽しいな」と感じて、これからも興味を持ってくれる人もいるかもしれない。そういう人が、一人でも増えてくれたらいいなって思いますね。

(取材・文:細谷和憲/スポーツナビ)

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