車いすバスケ、守りの軸となる鳥海連志 “異次元のスタッツ”だけではない神髄

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鳥海のハイポインターへのマークが光る

鳥海(写真右)は持ち点2.5のいわゆる、「ミドルポインター」だが、類まれな運動量と身体能力を生かして、4.0以上の「ハイポインター」にも、マークすることができる 【写真は共同】

 ディフェンスでは、リバウンドやスティールなど、数字に残った派手なプレーに目が行きがちだ。鳥海は初戦でトリプルダブルを記録したり、トルコ戦でも14リバウンド4スティールと“異次元のスタッツ”を残しているが、神髄はそこではない。それは車いすバスケットだからこその武器で、「持ち点がより高い選手」にもつくことができるスタミナと運動能力だろう。

 車いすバスケットには、選手個々に1.0〜4.5の持ち点があり、障がいが重い選手ほど点数が低くなる。そして、コートに立つ5人の合計を14.0以下にしなければならない。鳥海は、持ち点2.5のいわゆる「ミドルポインター」だが、類まれな運動量と身体能力を生かして、4.0以上の「ハイポインター」に対しても、ぴったりとマークに入ることができる。

 トルコ戦でも、持ち点4.0のエズギュル・ギュルブラクに多くの時間でマークにつき、日本戦まで平均21.4得点を挙げていた、このハイポインターのエースをわずか9得点に封じ込んだ。

 もし、持ち点2.5の選手が、持ち点4.0の選手を守ることができたら、チームとして残り持ち点11.5で相手の持ち点10を守ることができるため、全体のポイントで優位に立ってディフェンスをすることができる。一般的に障がいの重いローポインターの選手は、ハイポインターに比べてスタミナの面で差が生まれることが多い。相手は鳥海とハイポインターの選手の間に生まれる「1.5」のポイント差をチーム全体でカバーする必要があるため、試合後半になると疲労が蓄積してミスが増える、という仕組みだ。

 鳥海が40分間コートに立つことで、日本のディフェンスが終盤にかけてボディーブローのように効いてくるため、トルコ戦のように第4Qで突き放したり、カナダ戦での逆転勝利が生まれる要因となっているのだろう。

ハーフコートディフェンスを修正し、悲願のメダルへ

京谷HC「この1年間フィジカルトレーナーのもと、アジリティトレーニングを毎回の合宿や個人でやってきた結果、海外選手も嫌がるような細かい動きができるようになってきている。こういった事がいいディフェンスにつながってきたんだなと再度感じています」 【写真は共同】

 車いすバスケット日本代表の課題は、男女全ての日本バスケットの永遠の課題でもある、「世界の高さ」に対してどう守っていくかだった。「そういった(高い)選手たちを抑えていくためには日本人の特徴であるスピードやクイックネス、アジリティといった部分は非常に重要になってくる」と京谷HCは語っており、「この1年間フィジカルトレーナーのもと、アジリティトレーニングを毎回の合宿や個人でやってきた結果、海外選手も嫌がるような細かい動きができるようになってきている。こういった事がいいディフェンスにつながってきたんだなと再度感じています」と手応えを実感している。こうしたトレーニングから、どこの国よりも走って守れるチームが生まれた。

 しかし、まだできていない部分もある。

 日本の前からのプレスディフェンスは大きな武器になっているが、それを破られた後の、ハーフコートでのディフェンスだ。「大きい選手に対してハーフコートで守れるようにならないと、日本はもっと上にはいけないと思う。その部分をもう一回修正しながら決勝トーナメントに臨みたいと思います」と京谷HCはコメントしている。これは1次リーグ唯一の敗戦となったスペイン戦の事を言っているのは間違いない。

 京谷HCは予選の出来を「80点」と答えたが、この部分こそが足りない20点なのだろう。

 世界の表彰台が見えるところまできた。しかし、2018年世界選手権では予選リーグを1位通過しながらも、決勝トーナメント1回戦で敗れた苦い記憶もある。徐々に地力をつけ、ここまでは見事にその力を発揮している日本。残りの20点の課題をクリアした先に、悲願のメダルが見えてくる。

(取材・文:細谷和憲/スポーツナビ)

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