車いすラグビー、かつての課題が武器に 悲願の金へ、ローポインターがカギを握る

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ローポインターの攻撃参加が新たな武器に

 しかし、この試合でローポインターが光ったのは、ディフェンスばかりではない。オフェンス面でも活躍が目立った。

 前述した通り、ローポインターはディフェンスや壁役など、言ってしまえば地味な役割が多い。しかし、ケビンHCは、就任直後から「世界で勝つためにはローポインターの積極的な攻撃が必要」と選手に伝え、日本代表のプレースタイルも変化してきた。

 若山もその役割をしっかりこなし、「ハイポインターにマークが集中するので、その時に自分たち(ローポインター)がスペースに走ってトライすることで、(得点だけでなく)その後のオフェンスの流れにもつながります」と強調。また、相手からすると、ハイポインターにプレッシャーをかけて迫っていたのに、ローポインターに通され失点すると、メンタル的なダメージも大きい。

 試合スタッツで見ても、日本はローポインターで9トライを挙げた一方、デンマークは3トライだった。最終的に日本は9点差で勝利を挙げたが、このローポインターの“6点差”が無ければ、接戦で苦しい試合展開だっただろう。ケビンHCが試合後に「ハイポインターに注目が行きがちだが、ローポインターも含めて1つのチーム」と話をしたように、全員でつかんだ会心の勝利と言える。

女性選手の倉橋(写真左)ら守備での貢献が高いローポインターの選手。かつて課題として挙げられた選手たちが日本を引っ張っている 【写真は共同】

 また、スタートで出た若山、今井以外の4人のローポインターもチームに欠かせない。女子選手として注目されている、持ち点0.5の倉橋香衣や、同じく持ち点0.5の長谷川勇基、守備職人の持ち点1.5の乗松聖矢や、初出場した持ち点1.0の小川仁士の活躍も見逃せない。

 女性選手の倉橋は初戦フランス戦の逆転勝利に貢献し、この日も6分22秒プレーした。取材エリアには海外の記者もインタビューに来ており、注目の高さがうかがえる。しかし、彼女が注目されるのは、日本代表初の女性プレーヤーだからというだけでなく、チームにおいて重要な役割を担っているからだ。

 女性選手がプレーすると、チームの持ち点が0.5増えるため、倉橋は実質持ち点0でプレーできる。そうなると、3-3-2-0.5(倉橋)など、いろいろなラインアップを活用できる。そして、殺人球技(マーダーボール)と呼ばれる、車いす競技で唯一タックルが認められてる競技ながら、いつも笑顔でプレーする倉橋はチームの雰囲気も良くし、ムードメーカーとしても重要な役割を果たしている。

 2019年に行われた、「車いすラグビーワールドチャレンジ2019」で、日本代表は3位に終わった。その大会後にケビンHCは、今後の課題の1つとして「ローポインターの成長」を挙げていた。しかし、東京パラリンピックではその課題が、悲願の金メダル獲得のための大きな武器となっている。

(取材・文:細谷和憲/スポーツナビ)

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