水谷隼が「集大成の東京五輪」を振り返る ありえない金、引退意向、ファンへの感謝

平野貴也

4回目の五輪で卓球界悲願の金メダルに輝いた水谷。一夜明けの会見では、競技から離れる意向を示した、卓球界のレジェンドは、集大成となった東京五輪をどう振り返ったのか 【平野貴也】

 ついに、中国の壁を破って頂点に立った。東京五輪の卓球競技で新たに採用された混合ダブルスは、ベテランの水谷隼(木下グループ)と女子のエースである伊藤美誠(スターツ)が金メダルを獲得した。世界で結果が残せなかった男子チームを、若い頃からけん引してきた水谷にとっては、4回目の五輪でついに届いた金メダルだ。中国を破っての頂点到達に「ありえない」と興奮を隠さなかった。

 悲願だった五輪のメダルを2016年リオデジャネイロ五輪で獲得(男子団体で銀、個人で銅)した後、自国開催であるということを最大の理由に、東京2020を目指してきた。その舞台で、金メダル。そして、男子団体でも自身の勝利で締める活躍ぶりで銅メダル獲得に貢献した。後進に張本智和(木下グループ)という新たなエースが誕生しているが、水谷は紛れもなく日本男子卓球のレジェンドだ。ただ、18年1月頃から不調を訴えている目の状態悪化が著しく、今後は競技から離れる意向だという。集大成の舞台となった東京五輪を、振り返ってもらった。(取材日:8月7日)

卓球で中国に勝つことはボルトに勝つようなもの

混合ダブルスで中国を破り金メダルに輝くと、「ありえねえ!」と田勢コーチと言い合ったという 【Getty Images】

――混合ダブルスの決勝戦で許シン/劉詩ブン(中国)にフルゲーム(4-3)で競り勝って得た金メダルの価値を、どのように感じていますか。

 日本の卓球選手にとって、五輪の金メダルというのは、陸上競技の短距離で(世界記録保持者の)ウサイン・ボルトに勝つようなものですよ、本当に難しくて、高い壁。周りが「日本が中国に勝つなんてありえない」と思っているのと同じように、僕たちも口では「勝つ」と言っても、実際にはありえないと思っているところがありますから。だから、勝った瞬間、田勢邦史コーチに一番最初に言った言葉が「ありえねえだろ!」だったんですよ。5回くらい言って、田勢コーチも「ありえねえ!」って言い合ってました。今まで、良い戦いはできても最後は中国に負けるというのを、もう……15年くらいやって来てますから、今回も無理かなって普通は思っちゃいますよね(笑)。

――集大成の舞台で頂点に立つ姿は、感動的でした。1年前のインタビューでは、混合ダブルスの金メダルは本気で狙っていくと話していましたが、勝算のあるやり方が見つかっていたのでしょうか?

 いや、台湾や香港のペアに対しては相性が良かったので、かなり高い確率でメダルは取れるのではないかと思っていましたが、金メダルを獲得できる可能性は、正直20%くらいかなと思っていました。出場するからには金メダルを目指すという思いは強かったのですが、中国選手の壁というのを、何度もぶつかって感じていましたし、決勝戦で勝ったペアには、0勝4敗でしたからね。正直、難しいと感じていました。ただ、コロナの影響で五輪が1年延期になって、合宿でかなり練習を積むことができました。練習を多く行い、その中で、コンビネーションが良くなったのは、大きな勝因かなと思いますね。前に比べたら、サービスの展開はガラッと変えて、僕が攻める、攻めやすい展開になるようなパターンを多くしました。
――同じく1年前のインタビューでは、サーブ、レシーブの重要性を話していました。

 やっぱり、サーブ、レシーブで先手を取らないと、その後のラリーを有利に運べません。特に決勝の中国ペアとの試合では、サーブからの3球目攻撃がものすごく効きました。最終ゲームの最初の2本は、象徴的。あとは、伊藤選手のレシーブも良いところで決まりました。やっぱり、ラリーよりもサーブからの3球目、4球目のパターンの方が圧倒的に多く、そこで点数を重ねられたのは良かったと思います。

――リオ五輪の男子団体で初めて銀メダルを取ったときに、許シン選手に初めて勝ったのに続き、東京五輪でも勝率0%を覆しましたね。

 勝っている側の気持ちが痛いほど分かるんですよ。それこそ、過去の(圧倒的優勝候補として臨んだ)全日本選手権の決勝戦で、それまで負けたことのなかった吉村真晴や丹羽孝希に負けてきましたから。強いとされている側にかかるプレッシャーの大きさが分かります。一度も負けたことのない相手と、五輪の決勝という大舞台で戦ったら、勝って当たり前と思われるくらい期待も大きく、絶対に負けられない、負けたくないと思ってしまうはずです。

 今回は間違いなく、精神的には僕らが有利でした。ほかのワールドツアーで戦うよりも、チャンスが大きい舞台だと思っていました。ワールドツアーは相手がノープレッシャー。それでも、互角の勝負はできていました。だから、五輪の決勝で相手にプレッシャーがかかれば、今までと逆の展開になるんじゃないかと。下手に1勝してしまうよりも、負け続けてきたことが生きるんです。男子団体の3位決定戦、最後に僕が勝った第3シングルスの韓国人選手にも、あの場面で初めて勝ちましたから。負け続ければプラスに変わることもあるんです(笑)。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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